東京フクロウ15 | 小説のブログ

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柏原玖実といいます

翔にはわかっていた。警察(サツ)に挙げられるのが怖いんじゃない。父親に吊るし上げられるのが怖いのだ。ヒロムの父親はこの世界の元締めだ。

「ヒロム」

翔は優しく声を掛けた。ヒロムも微笑んだ。

「シャワー借りていいか。ここに泊まっても」

もちろんだとも、翔はそんな顔して頷いた。二人でシャワーを浴び、ベッドに寝転ぶ。ヒロムの紫煙だけが宙を舞う。

「翔」

「ん?」

「お前。サツに知り合いがいるのか」

「いないよ」

ヒロムはふっと笑った。翔の嘘。これ以上聞く必要は無い。

 翔はヒロムを抱きながら思っていた。震えているヒロム。皆、怖いんだ。俺達はネットの無い綱渡りを毎晩している。そう、ヒロムが震えるほど。

 この世界に拾ってくれたのがヒロムだった。ミギコの病気がわかった時、少し自棄(やけ)になり、街で暴れている所をヒロムが救ってくれた。

 

 イセイノイイニイチャンダナ、ソウカ、カネガイルノカ・・・

 

 ヒロムはそう言って一から教えてくれた。客に男も女も無い。客は愛を求めて来る。愛に性別は無いんだ、と。そして初めて寝た男がヒロムだった。淡い初恋、とは言わないが、ヒロムが好きだ。こんなに心地良い男はいない。ヒロムの寝顔。翔は愛おしくなり、ぎゅっとヒロムを抱き締めた。

 

翌日の昼下がり、翔は違う病院の採血室にいた。それから翔は職員に簡素な礼を述べると病院を後にした。地下から地上へと出る薄暗い階段を上がる。
 あれは十代の中頃だったか。ケチな喧嘩をして夜の救急に運ばれた時、偶然珍しい血液型だと分かり、今の渡辺が声をかけて来た。そして今ではこうして度ある事に血を売っている。

本来、自分の様な血液型の人間はこんな事はしてはいけないらしい。なぜなら自分がぶっ倒れた時に困るからだ。重宝はされているが大した儲けにはならない。だが客一人分位の金にはなる。それ以上に損はない。
 翔は地上に踊り出た。