「もちろん。警察(サツ)より確実」
翔はそう言ってウインクしてみせた。
『ジェイ』はその手のクラブだ。ガキは来ない。そこのボスはヒロムの父親の息がかかっている。
二人は店に入ると顔なじみのバーテンに声をかけた。
「ヒロムさん」
バーテンが笑顔を見せる。
「いつもの席、空いてる?」
「ご案内します」
裏口に一番近いボックスの席に座る。
「ヒロムじゃない?」
「よお」
一人の女がヒロムにそう声を掛けた。ヒロムの昔ながらの客である。
「座りなよ、最近連絡無いから心配してたよ」
「ありがと、ヒロム。えっと、翔君だっけ?久しぶりだね」
翔は笑顔で会釈をした。その瞬間、携帯のマナー音が鳴った。圭太からの空メール。
「ヒロム!手入れだ」
翔はヒロムに耳元でそう呟くと、女への挨拶もそこそこに外に飛び出した。
「翔、コートを裏返せ!」
ヒロムが駆けながらそう怒鳴った。翔は頷いた。派手なコートはサツに見つけられやすい。
タクシーに飛び乗る。翔は空中庭園の家までの道のりを告げた。二人は車中から後ろを振り返った。追う人間、追われる人間、二つの思いが交差している。新宿はいつもこうだ。こういう街だ。
二人は翔の空中庭園の家についた。ヒーターを点ける。
「ヒロム、何か飲むか、」
そう言い掛けて翔はハッとした。身体中から震えているヒロム。新宿でヒロムの名前を知らない奴はいない。そのヒロムが怯えている。