今を去ること約三十年前、私にも少しは居るはずのコアなファンの方々ならご存知であるナインティーンという漫画の中で私はケーキ屋の髭を生やしたゲイの店長、松平というキャラクターを描いていたことがあります。
当時からどういう経緯であのキャラクターをこしらえたのか?と訊かれることが多かったのですが、す....すみませんっ!!はっきりいってその場のノリであったことをここにて白状いたします!!ストーリーの展開上適度に主人公をいじれるキャラクターを作りたかったのと、当時なんとなくお茶目なゲイのおじさんってオシャレで女子受けしそうじゃない??くらいのテキトーな感覚で二話目以降のネームの段階で即興で作った....な....なんて言ったら当時のファンおの方々に怒られてしまいますでしょうかっ??(でも本当ですすみません!!)
そしてその後何年も同マイノリティの方々から当時あのキャラクターに救われた、となにやら感動的なお声をいただくことになろうとは本当に予想だにしなかったことで.....
しかしつい最近とんねるずのみなおか(この呼び方ってあまり好きではないなあ....)が終了する少し前、保毛尾田保毛男のキャラクターが同性愛者を差別しているか否かで妙な論争になりました。個人的にあのキャラクターは好きでしたけどね。う〜む、だとするとあの頃が今と同じネット社会であったならば店長のキャラはそれなりに叩かれていたのかもしれないなあ。
閑話休題
でもって田亀源五郎先生の弟の夫であります!!田亀先生といえば知る人ぞ知るゲイ・エロティックアート界の巨匠として長いことマニアに絶大なる支持を誇る作家さんであります。いわゆる婦女子が描く耽美でファンタジックなBLとは一線を画しもっとリアルでめっちゃガチなほうでありますっ!!
その先生がなんということでしょう!!(おいおいビフォーアフターかっ!!)マニア誌ではなく一般誌である月刊アクションにて本作を連載され、あれよあれよという間に文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞をとり、なおかつNHK BSプレミアム枠でテレビドラマ化されるというすごい快挙を成し遂げました!!
本作のおおまかな内容はといいますと、
小学生の娘夏菜(かな)と父娘二人で暮らす弥一(やいち)のところへ亡くなった彼の双子の弟でゲイある涼二(りょうじ)の結婚相手であった大柄なゲイのカナダ人男性マイクがやってきて....といったやや社会派(?)ホームドラマであります。まずあのコアな漫画を描かれる田亀先生がなぜ一般誌にっ?という驚きと、やもめの父親と幼い娘、という設定がどこか拙作ホットマンを思わせる雰囲気があったのでど....どんな漫画なんだろう??興味を持ち一巻発売を待って読みはじめました。
ストーリー進行は全体に淡々としていて嫌味がなくストレスのほぼない展開。絵柄もいつもよりクールで抑え気味。出てくるキャラクターは基本みんないい人達でありエピソードの組み立ても非常に緻密。さすがに何を描いてもそつなく上手い方なんだなあ、と思う反面、
う〜ん.....
これは多分私の好みの問題かもしれないんですが、ストーリーのキモである外人のマイクが今ひとつ元気がないというかパンチに欠けるキャラクターなのが気になってしまうというか.....
それはおそらく田亀先生のもう一方の漫画があまりにパンチがありすぎるせい.....(おいおい)
主人公の弥一や夏菜はともかくとしてマイクだけでももっと明るくアメリカン(カナダ人だっつうの!!)でユーモアのあるキャラにして欲しかった。途中マイクが酔って弥一に抱きつき本音を漏らす切ないシーンがあるのですが、前半でマイクがもっと無邪気で明るかったらこのシーンがより効果的になるのになあ、などとどうしても作り手側の視点で読んでしまういじわるな私がおりまして.....(田亀先生ごめんなさい!!)
とはいえ、先生がインテリで大変に実力のある作家だということはわかるので、
これもきっと何か意図があるに違いない!
連載が終了したらまとめて読んでみよう!!
そう考えました。
そして今月のドラマにおいて現役時代大好きだった力士把瑠都さんがマイクを演じる、というなんともナイスなキャスティングが発表されたため、全三話を原作を読破する前に鑑賞してしまったのでした.....(もちろんドラマ鑑賞後作品も読破しました!!)
ドラマの感想はと言いますと、一言で言って
とってもよかったです!!
原作の一巻を読んだ時に感じたマイクのやや重いキャラクターは把瑠都さんの好演により全体を通しておっとりとした優しいニュアンスに変わっており、夏菜を演じた女の子もさることながら主人公弥一を演じた佐藤隆太さんの演技がもの凄くよかったです!!
そして全編を通してわかったことは、
なるほど、この作品は田亀先生がそもそもゲイとは一体どういうものなのか、彼らがどのような気持ちで日々を過ごしているかを全く知らない(興味のない)一般の方々に対し、少しでも本質を理解してもらえるように描いた一般人向け入門書的作品なのだ、ということ。
アクションで連載始めたのはあえてノーマルな読者に読んでもらうためだったのか.....
そう考えるとこの漫画はそのテーマを明確に伝えるために細心の注意を払ってエピソードを組み立てています。
入門書としての完成度は非常に高く、おそらくこれこそが田亀先生がこの作品において目指していた部分であったのだと思われます。
ただ....
個人的にはお話のテーマを伝えるという部分とは別のところ、キャラクターの人間臭い部分をもっともっと描写して欲しかったな、と思いました。
例をあげると映画レオンのジャン・レノ演じるキャラクター。殺し屋の彼が大切に育てているのはなぜか観葉植物。
そのユーモラスな二面性がなんとも魅力的でした。
そして彼の死後、マチルダが形見である観葉植物を寄宿舎の庭に埋める感動的なラストシーン。
作中にマイクが日本の温泉が非常に好きらしい、というエピソードがあるのだけれど、それなら彼がもっと日本各地の温泉について嬉々とうんちくを語るようなそんなシーンがあると良かったのかも。そして涼二からもらった日本の温泉に関するおみやげのような形見をずっと大切に持っていたりだとか.....
弥一も夏菜もテーマを消化するための日常は非常に丁寧に描かれているのだけれど、それ以外の部分、基本彼らが何が好きで、普段どんなところにこだわりがあって生活しているのかを知りたかったです。
テーマを明確に伝えるために田亀先生はあえてそこを省略しているようにも感じるので、繰り返しますが私が言ってることは単なる好みの問題なのかもしれないけれど。
そしてこのドラマ、原作をかなり忠実に再現していると思うのですが、大きく違うのはラストシーン。原作ではマイクが日本に三週間滞在した後故郷カナダに帰るところで終わりますが、ドラマでは帰国した一年後、マイクがカナダの両親や兄弟を日本に連れてきて弥一たちに紹介する、というなんとも微笑ましいシーンで終わります。
もし、私が作者であったならどちらのラストシーンにしたかなあ.....
私だったら......おそらくどちらでもなく.....
カナダに帰る寸前、マイクは弥一に告白します。
実は今、カナダに新しいパートナー候補がいることを。
涼二が亡くなって以来ずっと悲しみに暮れていたけれど、勇気を出して新しい人生を歩むための区切りとして自分は
涼二の故郷である日本にやってきた。それがそもそもの目的だったのだと。
それをずっと今まで言えなかったこと、二人に嘘をついていたことに対し本当に申し訳ない、とたどたどしい日本語で弥一に詫びるマイク。
その言葉を受け弥一は一瞬戸惑うも、すぐにこう返します。
いいんだよ。オレは騙されていたなんてこれっぽっちも思っていないから。
弟がカナダでマイクと幸せに暮らしていたことは三週間一緒に暮らして充分に理解できたし
涼二だって天国でマイクには絶対幸せになってほしいと願っていると思うから。
弥一の優しい言葉に泣き崩れるマイク。
そのあとはマイクが帰るところで終わらせてもいいし、一年後マイクが新しい恋人を
連れて日本にやってくるところで終わってもいいかなと.....
どうです?このラスト。
けれどコレ....何かに似ていると思いませんか?
そうです!!あの小津安二郎監督の世界的超名作、東京物語のラストシーンですよっ!!!!
私はあの原節子と笠智衆のラストシーンがもう好きすぎて好きすぎてっ!!!!(ああっ、思い出すだけで号泣しそう!!)
コアなファンの方から涼二以外の恋人を作るなんてそんなのマイクじゃない!!とディスられそうですが、私としてはただ優しいだけのマイクよりも、もう少し人間臭いマイクのほうが観たかった気がします。映画ブロークバック・マウンテンしかり、亡くなった恋人だけを思いその後もずっと生き続けるラストは正直言ってあまりにも痛々しく救われません。
今はネットの普及により同士を見つけることも比較的楽になり、マイノリティの方々がこんな自分は世界に一人だけなんだ、などと孤独に陥ることは少なくなったと思いますが、マイノリティに対する根強い偏見は未だ多くはびこっていると思われます。
それだけにリアルな同性愛者というマイノリティを理解するための優しい参考書としてこの漫画の価値は非常に大きなものがあると思います。あっぱれ田亀先生!!興味持たれた方はぜひぜひご一読を!!