きたがわ翔独断と偏見で選ぶ別マデビュー作大賞、”わたし だめかしら” | きたがわ翔のブログ

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漫画家です。
仕事や日常生活についてゆる〜く発信していこうと
思っています。

いや、ちょっと私驚きました....

 

前回の、こんなクソマニアックな内容誰も読まんだろう、とほぼ自己満足で書いたブログに意外なほどの反響が.....

大体当時のまんがスクールを面白がれる方なんて、漫画家か漫画家志望の方達だけかと思っていたのですが....一般の方でもマンガ雑誌を隅から隅まで読んでいた私と同じようなタイプの人いらっしゃったのですね〜!!なんだか嬉しい!!

 

そこでちょっと気を良くして、私が今でも山のように所持している別マデビューコーナーの切り抜きの中から、今回私の独断と偏見で選ぶステキデビュー作大賞(なにそれ?)なるものを決めてみたいと思います。

 

 

さてさて......

 

 

 

それでは発表いたします!!ジャーン!!大賞受賞者は、第124回別マまんがスクールハッスル賞受賞作、

有沢真琴(ありさわまこと)さんの作品、わたし だめかしらに決定します!!!!

パチパチパチ!!

 

 

な....なんかまるでいいおっさんの私が深夜パソコンに向かってガラかめのジーナと5つの青い壺のごとく一人芝居をしております!!めっちゃ不気味です!!

 

それよりまずこのハッスル賞って一体なんなのかと言いますと、この作品が載った昭和53年の別マまんがスクールには、佳作と努力賞の中間にこのなんだかよくわからないハッスル賞という賞があったのですよ。

 

今回私が賞を選ぶ基準として、まず作品の技術レベルは一切念頭に置いていません。(むしろ逆)新人ならではの未熟さ、あるいは完成されたマンガには無いパンチのある味わい深さを基準にしてこの作品を選ばせてもらいました。

 

だいたい私のようなとんでもなくなが〜〜〜いマンガ読みにとって、いちばんよろしくない!!と思われるのが、

絵もストーリーもそこそこ出来のいいマンガ。これなんですよ!!

そのようなマンガを読むくらいなら、むしろ下手でおもいっきりパワーのあるヘンなマンガのほうが絶対に読みたいんですよ!!

 

 

その昔14歳にしてラファエロのような絵が描けたピカソが中年になってこう言いました。私の絵の師匠は子供でお手本は子供の落書きであると。何言ってんだこのおっさん、と昔は言葉の本質を理解できずにいましたが今なら分かります!!新人の荒削りでムリヤリ感満載な作品を読むと、そこそこ出来のいい優等生なマンガなんてむしろ幼稚すぎて読めなくなってしまうんです!!今回のブログの目的はそこにあります。

 

 

作者の有沢真琴さんはこれ一作のみ発表して終わったような気がするのですが、彼女のその後をご存知という奇特な方がどこかにいらっしゃったらぜひメッセージをお願いします。それでは16枚全ページ紹介しますが、ここはいっちょ私が愛のあるツッコミを添えつついつもより高い解像度で紹介したいと思います!!

 

 

 

こちらがその作品の扉絵。タイトルがイカス!!デッサンのゆがみとポージングの奇妙さもいい味出してる!!

男の子のシャツのボタン、パンツのベルト等は手を抜かないでちゃんと描いたほうが絵が上手く見えますよ!!

 

 

2ページ目。出だしの(その時 おもわず 私 笑っちゃった )はとてもいいセンスのネーム!!しかしこのマンガはたったの16ページなので何も半ページものでかいコマ使ってやる必要ないのでは?それと人物の配置がちょっとわかりづらい。真ん中の親友の横顔、髪の毛のベタ多分塗り忘れてる。

 

 

3ページ目。左下のコマ、親友が床に座っているのか寝転んでいるのか微妙。本来このコマのようなキャラの立ち位置のわかるコマを2ページ目のアップの後にいれるべきですね。ラストのコマの顔にスクリーントーン327番、通称バスケットボールトーンを貼っているのがやたら斬新!!

 

 

4ページ目。主人公チャコのお洒落センス、いくらなんでも問題ありすぎだろ!!しかもこのじゃーんのロングのコマ、人物と木は正面から、階段とレンガ床は上から見た俯瞰のパースで描かれているため、なんだかセザンヌの絵画みたいなことになってます!!

 

 

5ページ目。彼氏の修(おさむ)の(知ってるやつにあったらどうすんだよ)ってチャコに言うセリフが強烈!!いや、確かにわかるんだけど....2コマ目のバック効果が謎すぎて素敵。4コマ目から突然修の知り合いが出てくるけど、本来はこのコマをもっと大きくして1、2コマ目は小さくしたほうがバランスがよいのでは?

 

 

6ページ目。一コマ目、どさくさに紛れてやらしいこと考えていないか修?しかしチャコのいじらしい気持ちは全体的にとても良く書けている!!中段のアップの泣き顔はかわいいがバックにある流線の効果がまたしても謎。下段2コマ目、後ろの車は一体どこを走っているのだろう?

 

 

7ページ目。4コマ目のバックの花と点描だけがな....なぜか飛び抜けてうまいんですけど??その下の風船のようなバック効果がまたまた謎で素敵。とにかく謎のバック効果が多すぎる。二段から三段目のコマ、三段から四段目へのコマ、それぞれ場面が変わっているのだが繋ぎ方が下手なので読みにくいかも。

 

 

8ページ目。出た!!少女マンガお決まりの偶然の目撃!!でもチャコと修との距離が近すぎて、これじゃお互い気づいてしまうのでは?

 

 

9ページ目。1コマ目、パースが狂っているためベッドが手前に傾いて見える。さてさて皆さん、ここまで読んでなんだか主人公の気持ちイマイチ追いずらくなってませんか?実は短い読み切りを書く場合基本中の基本として主人公(チャコ)一人の視点からのみ描くのがふつうなのです。この作品は男女両方の視点から描いているためごちゃごちゃして収集がつかなくなっているように見受けられます。ラストのコマ、楽しい思い出であるはずのラブレターの周りにおどろおどろしいナワアミが....一体どんな内容なんだっ!?

 

 

 

10ページ目。上段の手紙の文字は写植じゃなくて作者の手書きにしたほうがよかったのでは?にしてもスク水のチャコすごい幼児体型!!修の単純で能天気な性格なんだか憎めない。

 

 

11ページ目。崩した顔のバリエーションが多いのはいいけれど、そのせいで顔に統一性がなく同一人物に見えないのは困ります。チャコのドジっぷりも修以上でこの二人マジお似合いのバカップル!!でもそこがいいんですよね〜

 

 

12ページ目。チャコの作ったレアチーズケーキが巨大なコルクの蓋にしか見えない!!ラスト3コマ、見せ場のシーンなのだから大ゴマとってチャコの顔もっと魅力的に描きましょう!!最後のコマとか適当すぎ!!眉も輪郭もありまへんがな!!誰!?

 

 

13ページ目。どこか謎の作りの修の家。真ん中のコマ、またもや人物正面で背景俯瞰!!

 

 

14ページ目。やっぱり思うんだけど....ここは修のモノローグ入れずにチャコの視点からだけで描いたほうがしっくりくるんじゃないかと。ってか、後残りページめっちゃ少ないんですけどこのお話一体どうやってまとめる気なの!?

 

 

ああ〜っ!!これはいけません!!中段のコマにてこれまでの誤解を一気に喋らせる手法!!文章が長すぎて写植入れる方も大変に困っていますよ!?全体的にチャコの視点のみで描いていればもっと小道具やエピソードをふやせる余裕があったはずです!!2コマ目の真っ黒のチーズケーキの箱が怖い!!3コマ目の修の家の玄関広すぎ!!豪邸!?それに比べてチャコが去るシーンのコマ小さすぎだろ!!見せ場なのに!!

 

作者の有沢さん.....あなたはおそらくネームを作らずぶっつけ本番でこのマンガを原稿用紙に描きましたね.....?ちゃんとネームを書けばラストこんなに詰め詰めにならなかったはず.....コマが小さすぎて二人がなんかかわいそう!!ってか、最後のコマの葉っぱ....それとも顕微鏡で見たカビ?のようなコマ、別にいらなくないですか?ここで二人仲良くチーズケーキを食べてる絵にしたらよかったと思うんですけど.....

 

 

 

 

 

さてさていかがでしょうか!!まず誤解しないでいただきたいのは私、この作品を決してけなしているわけではありません!!ツッコミは私の長い漫画家としての経験上、こう描けばそれなりにプロっぽいレベルの読み物になる、というつもりで書いてみました。

 

......が、

 

多分これこそ私が先程言ったそこそこ出来のいいマンガなわけですよ!!こう直してしまったら、このマンガ本来の持つなんとも言えない奇妙で芳醇な味わいが全くなくなってしまうのですよ!!

 

この味わいは作者のマンガの技術が未だ拙いからこそ滲み出てくる、まるで十代の女の子のほんの一時だけにある輝き、透明感のようなものであり(ホントか!?)私が新人のデビュー作に惹かれるのはそのためなのです。なのでこの作品、少なくとも私の中ではとてつもない傑作なのです!!