スマホのない時代の切ない友情物語!!あべりつこ(阿部律子)先生のテキは強いぞ手ごわいぞ! | きたがわ翔のブログ

きたがわ翔のブログ

漫画家です。
仕事や日常生活についてゆる〜く発信していこうと
思っています。

古くからのおつきあいがある漫画家の阿部ゆたか氏が、昔から大好きだった少女漫画家さんの一人として名前をいつもあげていたあべりつこ先生。

 

 

へえ〜、そんなに好きなんだ、同じ名字だしねえ....と、以前からそれについてそれほど突っ込まずにいた私。す....すみませんっ!!とんでもなくひどい勘違いをしておりましたっ!!

 

私、ずっと阿部さんの大好きだというその作家を、わんころべえのあべゆりこ先生のことだと思っていたのですよっ!!!!

 

こちらがそのわんころべえ。

 

 

わんころべえは、講談社なかよしにおいて1976年にはじまった擬人化4コマ漫画で、アニメにもなった有名な作品です。いや、こちらとてキュートでかわいい漫画ですよ!?でも当時阿部氏からわんころべえ愛について熱く語ってもらっても、私的にはあっ、あの耳の中身が片っぽハートになってるわんこの漫画ですねっ?くらいしかフォローできないかも....と感じていたもので....はい。

 

てゆうか、漫画のクソオタを自称する私がなぜそんな初歩的な間違いを犯してしまったのか?常にブログで熱烈に70年代少女漫画愛を語りまくっているこの私....私がっ....!!

 

 

実は....なんとノーチェックだったんです。あべりつこ先生。

 

 

ブログを読んでお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、少女漫画において私の主なフィールドは集英社作品。別格の萩尾先生(小学館)はともかくとして、70年代初頭の講談社少女フレンドに関しては正直チェックがあまい.....むうう。なんせあの伝説のエリノアを知ったのも随分後になってからですから。

 

 

閑話休題

 

 

でもってあべゆりこ先生ではなくあべりつこ先生だとわかってからというもの、彼女の作品を必死に探したのですがどうにもこうにも見当たらない!!でもって見つかってもものすごい高額!!

 

ところがです!!

 

以前こちらで某古書店において矢代まさこ先生の雑誌掲載切り抜きファイルを見つけて狂喜乱舞したことを書きましたが、実は同じマニアの方が放出したと思われる他の切り抜きファイルもそこにいくつかありまして、な...なんとその中にあべりつこ先生のでっかいちゃんと集まれ!と、すえっ子台風という作品があったのですよ!!

 

しかもこのファイルなら2冊で千円以下、しかも当時の掲載誌で読めるんですからこーんなお得なことはないですよ!!

もう即ゲットです!!

 

で、はじめてきちんと目を通しました。あべりつこ作品。

感想はと言いますと....まずとにかく絵がものすごくうまい!!異様なまでにうまい!!当時のフレンドといえば細川智栄子先生を筆頭とした剣山を連想させるまつ毛の絵(こらこら)が主流だったはずですが、もっとすっきりとした男子が見ても全く抵抗感のないキャラクター。頭ひとつレベルが抜けてる感じです。特にデッサン力と動きの表現。

すえっ子台風より。1971年当時において、構図、デッサンとも完璧すぎるバスケシーン。あべりつこ先生は学生時代陸上部だったらしく、走るポーズ絵の軽やかさは他の随筆を許しません。

 

こんな角度からの足を伸ばした座りポーズ、実はそう簡単に描けるものではありません。

 

でっかいちゃんと集まれ!より、でっかいちゃんこと体の大きい主人公一美。どことなくかぼちゃワインのエルちゃんを彷彿とさせます。

 

 

ストーリーはほのぼのとして暖か。特徴的なのは主人公に兄弟が多く家庭環境がしっかりと描かれているということ。私はこの漫画を読んでとある巨匠の名作がふと頭に浮かびました。それは大昔ちばてつや先生が少女クラブに描かれた作品1・2・3と4・5・ロク。

 

実は川崎のぼる先生のてんとう虫の歌やドラマのひとつ屋根の下などの原点ともいわれるこの作品。(私のホットマンもこの作品からかなりのインスパイアがっ!!)で、色々調べてみたところ、なんとあべ先生はちばてつやプロダクションに2年在籍していたらしいのです!!やはりこの確かな画力はちば先生ゆずりだったのですね。納得です。

 

とにかく漫画家としての実力は申し分なし。ただ....私のようなものが言うのも僭越ではありますが....あまりにもうますぎてそつがない。いわゆる新人作家にありがちな未熟だけどパワフルな魅力といいますか、やみくもな強いアピールに欠ける、やや優等生な感じを受けたのも正直事実だったのです。

 

ところがっ!!その後別に手に入れたコミックス、テキは強いぞ手ごわいぞ!という作品を読んだら....もう.....あべりつこ先生のめちゃくちゃファンになってしまったのです!!

これは....すごい傑作です!!

 

 

 

 

主人公柳沢慶子はおてんば(死語?)で勉強は苦手だけど足が速く、友達と追いかけっこの最中ブランコの鉄柱にぶつかって前歯を折るようなおっちょこちょいな(これまた死語?)女の子。

そこに美人の転校生がやってきます。

しかもその子の名前がなんと同姓同名柳沢慶子!!

 

歯が折れてます(笑)

 

 

美人でおしとやかで勉強もできる彼女はあっという間にクラスの人気者に!!

 

あまりのことに嫉妬心を隠せない主人公の慶子。しかしその後も意に介することなく常に優しい笑顔を見せる宿敵(?)の転校生慶子。

 

なら得意のかけっこで勝負だっ!!

 

しかし....なんと彼女は足も速かったのでした.....

 

ほぼ互角。

 

 

意気消沈した主人公がある日街を歩いていると、偶然転校生の柳沢慶子を見かけます。そこで主人公は、実は彼女には親がおらず、親戚をたらいまわしにされていた、という事実を知ってしまいます。何度目かの落ち着き先である親戚のおばさんに折檻され、振り下ろしたほうきをなんと漬物の樽の蓋で防御する慶子。

 

 

やるじゃあないの  あのコ!!

 

まてっ!!とおいかけるおばさんから素早く逃げる慶子。

 

はやいはやい!!いつもあんなににげて....?

 

逃げてる途中主人公と目が合います。それでも彼女はにっこり笑います。

 

あのコはえらい.....苦労をしてる

あたしなんかよりよっぽどえらい

いまごろになってわかるなんて.....

 

しかし翌日、なんと彼女はまたしても転校してしまいます!

結局一言も言葉を交わさないまま彼女は去っていき.....

 

 

しばらくして遠くにいる慶子からもらった手紙を読み、涙にくれる主人公。

 

あなたのきどりのなさや明るさがうらやましかったの

あなたにはわたしの事情知られてしまったけど

かわいそうなコだなんてどうか思わないで

わたし

あなたとほんとのお友達になりたかったの

 

 

あのコは笑いかけてきた

いつもいつもこのあたしに

なんでもっとすなおになれなかったんだろう!!

 

 

数年が過ぎ、

主人公柳沢慶子は高校生になり、陸上部の選手として大会に出ます。すると場内放送で同じ名前の選手がいることを知るのです。

 

まさか....まさか!?

 

いた!!

 

柳沢さん!?

 

とっさにひとこと声を掛け合う二人。

 

柳沢さん!!列車の時間よはやく!!

そんなこんなであっという間のすれ違い。

 

勝とう!!勝たなくちゃ!!勝って勝ち進んでまたあの子に会うんだ!!

 

しかし....結局会えたのはその一瞬だけ.....

 

 

さらに時は過ぎ主人公慶子は大学に入り、陸上部のキャプテン大和田さんと仲良くなります。

彼の笑顔を見ているといつも思い出すのはあの子のことばかり。

 

彼女はいまでも私の中で色あせずにーーーいる!

 

 

そして奇跡が起こります。

 

大和田さんの尊敬する先輩の結婚式式場で、主人公は見たのです。

 

あのコが....二度と会えまいと思っていた柳沢慶子がウエディングドレスを着て幸せそうに歩いているその姿を。

 

涙を流して見つめる主人公に気づき、あの頃とまったく変わらない笑顔でブーケを投げる慶子。それを受け取る主人公。

 

 

 

大和田先輩が耳元でささやきます。帰ってきたらおしかけていこうな。

 

ーーうん!

 

まいもどってきたちいさなむかし

帰ってきたら

帰ってきたら

 

 

 

 

お話はここで終わります。

 

 

ああっ!!もう....もうなんてなんて素敵でせつないお話なんでしょうかっ!!

 

読み終わった時私はマジで思ったものです。

 

これは....自分が二十代の頃、描いてみたかったけど力量がなくて描けなかった作品の恐ろしくみごとな完成形かもしれない....!!と。

 

なぜ二十代の頃なのかと言いますと....

今現在はインターネットやスマホというものがあり、こういったすれ違いが主体の漫画はうまく描けないからなのです。

 

恐らく....

一部読者の方(お若い方?)は、この漫画を読んで、

 

なんでラスト二人が会話したり抱き合ったりするところで終わらないんだっ!!

 

と不満を漏らすのではないかと思います。

 

けれど私は、時をかける少女で原田知世がラスト深町君に気づかずにすれ違ってしまったあのラストのごとく、この部分にこそ猛烈な切なさを感じるのです。

 

 

会話しないまま終わる切なさ。

 

 

このあと主人公が慶子に会った時、一体どんな会話を交わすのでしょうか?

想像しただけで胸がジーンと熱くなります。

そう、想像できるからこそいいんですよっ!!

 

 

主人公と転校生が時折すれ違いながらも再会するシーン、やもするとご都合主義に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかしここで二人の女の子が偶然にも同姓同名だったこと、そこに何か見えない運命的なものが働いたのかもしれない、と考えてみると、私にはこの偶然がむしろ宇宙の法則のように思えてなりません。

 

あべりつこ先生は80年代初頭ご結婚され出産を機に筆を折ったとお聞きしました。

返す返すも惜しい!!

 

ため息をつきつつこれからもゆっくり未読の作品を探してみようと思っております。

 

最後に....

でっかいちゃんと集まれ!とすえっ子台風のところどころにある当時のフレンドの予告や漫画賞のページが面白いのでちょっと抜粋。

 

里中満智子賞 菊池葉子さんとありますが、このお方の絵はどうみても後の菊川近子先生ですね.....

 

 

直野祥子のショックな世界読み切り短編シリーズ➁ひも

タイトルがひもって.....?

盲目のいとことした約束が重荷.....?

絵柄も含めな....なんだかめっちゃ気になりますよっっ!!