猫たちが戯れる中、アリスは鏡を通り抜けてその向こうに広がる世界へと入っていく。そこに広がる世界には、もちろん鏡の外にあるものがあるが、外からは見えていなかったところには至る所現実にはなかった者どもが跋扈している。

 

 自然の風景の中の広大なチェス盤の上で白のポーンとしてアリスは歩む。その中でハンプティ・ダンプティに出会ったり(第6章)やライオンとユニコーンの闘いに遭遇したり(第7章)と奇妙奇天烈な冒険をしていきながら、アリスは8マス目で女王になることを目指していく。

 

 興味深いのは昏々と眠りつづける赤のキングである。2人組の男たちの1人トゥィードルディー曰く、赤のキングはアリスが出てくる夢を見ていて、彼が目を覚ましたら夢の登場人物にすぎないアリスは消えてしまうのだという(83)。「おらんようになる。なんと、あんたはキングの夢のなかにしかおらんのや」(83)。

 

 鏡の向こうで冒険する夢を見るアリスは、赤のキングの夢の中の登場人物なのか、それとも、赤のキングが他の登場人物と同じくアリスの夢の中の登場人物にすぎないのか。入り組んだ疑問に夢から覚めた少女アリスは頭を悩ます。「ねえ、キティ、夢を見たのはわたしか、さもなきゃ赤のキングのはずなの。キングは、もちろんわたしの夢に出てきたけど――わたしもキングの夢に出てきたのよ! 夢を見たのは赤のキングだったのかしら、キティ?」(209)。仔猫のキティに問いかけるものの、その問いへの答えが出ないまま、物語は終わりを迎えることになる。

 

(2024/04/30読了)