私が書いた小説・寝覚月(ねざめづき) おばさんの気持ち | HANANOのハーブとアロマのある暮らし

 

「涼君、実はね、おり入って相談があるの。

この家のことだけどね」

 

おばさんは長押の方に眼をやり、六人の遺影

を見上げた。

 

「百年からなるこの家に、血がつながって

いる者は誰もいなくなってしまって、他人

の私だけが生き残ったわけだけど家の傷みが

激しくてね。

東京の妹さんに相談したら、財産放棄をする

から売ってマンションを買うなりなんなり、

好きなようにしてくれと言うの。

 

でもね。亡くなった人たちは皆、この土地と家

しか知らないから、同じドアのマンションだと

お盆が来ても、皆そろって帰ってこれないよう

気がしてねぇ。

 

そこでね。改築して住むことにしたの。

もし、涼君さえよければ、細長い鰻の寝床みたい

な家だけど、あんどん部屋は暗室に、土間は

スタジオにしてもらったらどうかと思ってね。

 

もちろん涼君のご両親にもお考えがあることで

しょうし、私の希望を押しつけるようなことは

しないから。

ただ、遠慮だけはしないでね」

 

そう言うと、おばさんは、愛の方を向いて座り

直した。