七夕月・私が書いた小説⑭ | HANANOのハーブとアロマのある暮らし

七月の第三木曜日の夕方、孝介から電話

があった。

 

「急ですが、今日のお稽古お休みさせて

下さい」

 

「お仕事ですか」

 

「いえ、西大寺に6時半にこれますか。

宵々々山へ行きましょう」

 

知っている人に会ったら どうしょう。

留守の間に姑が訪ねてきたら、などと

思いながら、かおりは身支度をしていた。

 

誰がどう見たって、恋人同士になど

に見えるわけがないのだから、変に

おどおどしないでおこうと、自分に

言い聞かせた。

 

髪を小さく束ね、麻のワンピースを着た。

暑苦しく見えないようにアクセサリー

もつけず、お化粧も控えめにした。

 

電車の中ではほとんど会話を交わす

こともなく、京都についた。

山鉾巡行は三日後だが、四条通りも

烏丸通りも人であふれており、旧家や

商家が所有する屏風や美術品が、格子

ごしに鑑賞できた。

 

なかには大胆にも格子戸をはずして、

立派な書や骨とう品を見せてくれる

商家もあり、祇園祭にかける京都の

人の意気込みが伝わってきた。

 

込み合っていたおかげで、誰にも何一つ

気を遣うことなく、二人は手をつなぐ

ことができたし、闇夜は違いすぎる年齢

を隠してくれた。

 

かおりは、この喧騒と暗闇が果てしなく

続けば、どんなにか幸せだろうと思った。

 

つづく