【Day84 2025.11.26 タリファ滞在】のつづき
(1)から読んでね!
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なぜ今更タリファに行くのだろう。
以前、そんな問いをたてたが、次の歩きのスタート地点に来るためだったのか。
やれやれである。
カミーノは私を解放してはくれない。
アルフセンで歩くことを諦めかけた日、私はこれからも旅を、歩くことを続けると誓った。
サンティアゴに着く頃にはそのことを忘れかけていたが、サイモンとのやり取りでまたそのことを思い出した。
そして今、約束でしょと言わんばかりに新たな出発地が示されている。
この旅は本当に、失った矢印を探す旅だったのかもしれない。
見晴らしのよい高台に一台の車が停まっていた。
おじさんが一人、カメラのような望遠鏡のようなものを覗き込んでいた。
私は“オラ”とだけ声をかけて近くに座った。
行きすがら買ってきたボカディージョを三分の一ほどほうばった。
おじさんと私は会話もなく海を見つめて続けた。
おじさんは時々、誰かと無線でやり取りしていた。
12kmほど歩き灯台のような建物までくると休憩をしてボカディージョを三分の一ほどほうばると、また同じ道を引き返した。
同じ高台まで戻るとおじさんはまだ望遠鏡を眺めていた。
“何をしているの?”
行きと同じ場所に座って残りのボカディージョをほうばりながら、私はおじさんに話しかけた。
“イルカとクジラの位置を確認しているんだ。
見たいかい?”
“みたい!“
そう答えると、ちょっと待ってねとおじさんは言う。
しばらくすると
“いたよ”
と言って、望遠鏡を覗かせてくれた。
そこには小さなイルカの群れが飛び跳ねていた。
“典型的な地中海のイルカだ”
おじさんが言う。
“なんのために見ているの?”
そう聞くと、
“イルカとクジラの数を場所を調べる仕なんだ。
今日は最高の日だ。
天気は快晴で風は穏やか。
君はラッキーだ。“
そう言われた。
それは私が足のタトゥーにクリームを塗っている時だったので、おじさんが“新しいタトゥーかい?”と聞く。
“そうなの。カミーノのマークでね。
マラガからサンティアゴまで歩いたの。
途中、膝を痛めて一週間以上、小さな町で休むことになって。
でも、その日々は私にとってこの旅で一番大切な思い出になったの。
そのことを忘れたくなくて。
だから矢印はその時痛めた膝に向けてるの。”
私は会ったばかりの知らないおじさんに自分のストーリーを話した。
おじさんは、それは興味深いねと話を聞いてくれた。
おじさんにお礼を言って残りの道を歩く。
私は本当にラッキーだ。
朝、ジョンから写真が送られてきていた。
それは
「When writing the story of your life, Don’t let anyone else hold the pen.」
と書かれた手書きのメモ用紙だった。
”Good Morning pilgrim, 8 may 2024 camino del norte, villaviciosa“とコメントが付いている。
私ははじめその意味を、”一度書くことを始めたら、もう二度とペンを離してはいけない“そういう意味だと勘違いした。
なぜ彼はこのメッセージを私に送ったのだろう?
ジョンに日記を書いていることなんて話したっけ?
しかしそれはよく読むと、自分の人生を他人に舵取りさせるなという比喩的表現だった。
結局、私は多くの情報の中から自分に必要なメッセージを導き出している。
歩みを止めるな、ペンを止めるな。
そんな風に言われている気がした。
ほとんど雲のない空に、頭と尻尾と骨だけ残された魚みたいな雲を見つけた。
よく見るとそれは矢印に見えた。
写真を撮ろうとしたがあっという間に広がって、雲は散り散りになってしまった。
いつだって、何かを掴めるタイミングは一瞬で、次の瞬間には移り変わってしまう。
それでも私は私の矢印に従って、歩くことを続けるのだろう。
町に戻った私は金曜にアルヘシラス、土曜にマラガの宿を取った。