【Day79 2025.11.21 サンティアゴ→ベレス・マラガ】
朝5時
かけていた目覚ましで起きるとシャワーを浴びてパッキングをする。
お土産の分だけ荷物が増えた。
散々迷ったが私は登山用のブーツとここでお別れすることにした。
ブーツは街歩き用の靴は別に持ってきていた。
去年のfrancigenaから3000km以上一緒に歩いた相棒である。
だがそれだけに節々に穴があき、ソウルは真っ平らになっていた。
毎日雨の中、泥濘を歩いてきたので、古い雑巾みたいな臭いがする。
本当は日本に持って帰って洗って捨てたかったが、大きさと重さ考えると、ここでお別れするのが現実的だった。
もしかしたら、ブーツはサンティアゴにできるだけ居たいのかもしれないな。
そう自分に言い聞かせて、感謝を述べてお別れした。
パッキングを済ませると早めに駅に向かった。
昨日サイモンの見送りをして、荷物検査など意外と時間がかかることがわかっていたからだ。
7時半過ぎの電車でまずはマドリッドに向かう。
電車がオーレンセ、ザモラなど歩いてきた主要都市で止まると胸がキュッとなった。
11時に乗り換えのマドリッドに着く。
マドリッドの乗り換えは少し混乱した。
サンティアゴとマラガでは長距離列車の発着地が違うため、地下鉄で移動しなければならなかった。
サンティアゴでチケットを買った時、駅の係員に聞けば教えてくれるから、と言われていたのだが、全然係員がいないのだ。
掃除の人や工事の人に聞いても、みんな言うことが違う。
ある人にはタクシーに乗れと言われた。
同じところを行ったり来たりして、本当にタクシーを使おうか迷ったが、最後には地下鉄で乗り継ぎをクリアすることができた。
そんなこんなで1時間半あったトランジットもあっという間に過ぎ、マラガ行きの電車に乗った。
サンティアゴからマドリッドまでが雨が降っていたのに、マラガ行きの電車で見る外の景色は驚くほどの快晴である。
永遠とも思える平原にポツポツと茂る木々を見ると、歩き始めた日々のことが蘇った。
マラガの駅ではベゴが待っていてくれて、私たちはとうとう再会を果たした。
カミーノあるあるだが、歩いている時の格好とプライベートの姿のギャップに驚かされる。
お化粧をして、低いヒールのついた革のブーツを履き、ワンピースに身を包んだベゴは別人に見えた。
ベゴの車で彼女の住む町まで向かう。
マラガは出発した9月とそう変わりないのではないかと思うほど、暖かく、快晴だった。
“今はそれも要らないわよ”と言われ、バックパックと一緒に着ていたダウンジャケットもバックシートにしまった。
美しく穏やかな地中海の海。
その海岸沿いを走る車の助手席に乗っていることが、とても不思議に感じられた。
ベゴのお宅に着くと、海が見えるバルコニーでビールを飲みながら軽く食事をして、海辺と町を歩いて、教会のミサに参加して、帰ってきてシャワーを浴びて、夜までまた話しをした。
ベゴは二十数年連れ添った旦那さんと今年の1月に別れたという話、そして去年18歳になった養女さんをいかに愛しているかという話をしてくれた。
ベゴと元夫さんはカミーノで出会ったのだそうだ。
それはやはり運命のいたずらのようなストーリーだった。
別れたと言っても憎しみ合ってのことではないそうで、愛おしそうにたくさんの写真を見せてくれた。
中でも結婚式のアルバムは印象的だった。
しっかりとしたアタッシュケースに入れられた、古文書のようなアルバムだ。
重厚なカバーを開いて分厚いページをめくると、それはまるで映画を見ているかのように美しい写真集だった。
今も別嬪さんだが、20代のベゴは本当に美しかった。
スペインの有名な女優さんだと言っても誰も疑わないだろう。
190cmを超える元夫さんが背の低いベゴを愛おしそうに見つめる姿。
二人が愛し合っていて、それを誰もが祝福していることは言わずもがなだった。
聞けばアルバムはイタリアで作ったのだという。
理由はよくわからないが、私は涙が出てしまった。
誰しもの人生にドラマがあり、それには美しく実を結ぶ時があり、しかしその先には続きがある。
そんなことを考えた。
奇しくも明日は、私と夫の結婚記念日だった。