【Day59 2025.11.1 リオネグロ・デル・プエンテ → アストゥリアノス 27km】
朝7:00
またアストゥリアノスで。
そう言って起きてきたカーリーンとジョンより一足早く宿を出た。
今日は27km先の町を目指す。
雨がいつ降り出してもおかしくないような雲が広がっていた。
実際、地面は濡れていて水溜まりも多い。
ついさっきまで雨だったのだろう。
最近、天気が悪いので日の出の時刻がよくわからない。
7時半くらいからヘッドライトなしでも歩けるので、8時半くらいだろうか。
サマータイムが終わり時計を1時間遅くしたのは一週間前なのに、結局8時半に日の出というのは、なんだか奇妙な気がした。
ここ数日、カーリーンとジョンにどこまで歩くか聞いて、私もそれを追っている。
30km以上なら考えるが、30km弱であればちょうどいい。
誰かと同じ宿とわかっているのは安心だし、地図を見て距離を計って、どこまで行こうと考えなくて済むのは楽だった。
出発してから8kmほど先の町を抜けたところで、新たな巡礼者がストレッチをしていた。
小柄で可愛らしい顔のお嬢さんである。
足に痛みを抱えているため、それほど遠くまでは歩けないのだという。
今日の目的地は同じだった。
後でアルベルゲで会おうと言って、私は彼女を追い抜いた。
歩きながら雑多にいろいろなことが浮かんだが、日記に残したいほど特出すべきことはなかった。
メンヘラモードも感動モードもドラマモードも休止中で、どうやら今はニュートラルモードらしい。
この二ヶ月、感情も思考も働き過ぎた。
そんなモードがあっても良いだろう。
この辺りは割と町が多いので、次の町、次の町、と考えていると時間も距離も進んで行った。
目的地から8kmほど手前の町の教会の軒先で休憩を取る。
昨日のバルで持ち帰りにさせてもらったチーズとベーコンのボカディージョをほうばった。
チーズとベーコンの塩味と油がパンに染み込んでいて、冷めていても美味しい。
まるまる一斤使ったボカディージョは、朝と、午前の休憩時とこれで3回に分けてやっと食べ終わった。
水筒に入れたジンジャーレモンティーは少し冷め始めていたが、それで喉に残ったパンを流し込んだ。
いざ行こうとバックパックを背負うとちょうどカーリーンとジョンがやって来た。
いつもこういうタイミングで会うから不思議だ。
二人は大袈裟に再会を喜んでくれて、しばし一緒に歩く。
ジョンとカーリーンの話は尽きない。
特にジョンは何を話してもカラッとしていて、ディープな話題も湿っぽくならない。
このニュートラルモードは二人のおかげかもしれない。
しかし彼は猛烈にストイックな一面を持っている。
究極まで追い込んで歩いたことで獲得したものの話をサラッと話してくれた。
あるいはカラッと見えるからこそ、何か確かなものを切望しているのかもしれない。
形は違えど、結局は同じ穴のムジナなのだ。
小一時間ほどで私は遅れを取り、また一人でのんびり歩いた。
アルベルゲではカーリーンとジョンがすでにまったりしていた。
チェックインはすぐ向かいのバルだと言うので、宿でのルーティーンを済ませるとバルに向かった。
バルではなんと暖炉に火が焚かれていた。
秋というより冬である。
カーリーンとジョンもやって来てカウンターで
今日も三人で乾杯した。
遅れて朝方に出会ったかわいいお嬢さん巡礼者もやってきた。
ドイツ出身のポーラだ。
カーリーンとジョンは相変わらず二人で盛り上がっていた。
彼女は私の逆側に座りビールを飲み始めたので、しばし二人であれやこれや話した。
足が痛いことを辛そうに語る彼女に、私も一か月前は一歩も動けなかったことを告げた。
そう、私のアルフセン滞在は、ちょうど10月1日から始まったのだ。
あの時は本当に絶望していた。
それが今は歩いていて、サンティアゴまでの日程を推し計っている。
一カ月後に何をしていて何を考えているかなんて、こんなにも未知数なものなのかと驚いた。
しかし先が見えず、ただただ向かい合うことしかできなかったあの日々は、この旅の中の最も美しい思い出になっている。
この地球とは、そういうルールなのかもしれない。
早くに食事をし過ぎて、ヒーターの聞いたベットルームに入ると9時前に寝落ちしてしまった。
深夜に起きて昨日を振り返る。
窓から入る月灯りが眩しい。
もうすぐ満月なのだ。
二月前の満月に歩き出し、一月前に満月はストップしていた。
そして今、私はまた歩いている。
晴れているのが当たり前だった夏から、雲間に覗く青空や星や月が貴重な冬になるつつある。
この分なら明日は晴れそうだ。
暖かいベットの中から覗く月灯りを楽しみながら、朝までもう少し寝ることにしよう。