【Day58 2025.10.31 サンタ・マルタ・デ・テラ→ リオネグロ・デル・プエンテ 27km】
朝から雨。
そして今日は一日雨だという。
こんな日は、みんな頑張る気が起きない。
今日、韓国のリナとポーランドのジョアンナは、十数キロ先のアルベルゲまでしか歩かないという。
二人はバスを使うことも厭わないので、無理はしないのだろう。
カーリーンとジョンは27km先の町まで歩く。
ジョンは30kmオーバーがデフォルトだが、雨なのでそこで止めようかな、と言った雰囲気だった。
私はと言えば、足は100%回復した訳ではないが十数キロでは物足りない。
私もカーリーンとジョンと同じ27km先を目標にしたが、カミーノではなく大通りを行くことにした。
一昨日チートデイにしたばかりだが、休む場所もなく、草木で靴がびしょびしょになり、距離もかかる道をわざわざ歩く気にはなれなかった。
だったら歩かなければ良いのにと思うが、そうもいかない。
昨日もみんなでそんな話になった。
昨日、サンティアゴ後にやることリストをあげたせいか、サンティアゴまでの道のりが急に現実味を帯びてきた気がした。
いつまでもいられるなら話は別だが、ビザの問題がある。
本当にリストをやり遂げたいのであれば、いつまでにゴールしたいのか、考えなければならない。
そう、終わらせなければならないのだ。
歩いていたい気持ちと終わらせたい気持ちが複雑に絡み合い、なんだか考えるのがめんどくさくなってしまった。
どこでもドアがあったらとりあえず日本に帰って、なにも考えずにソファでポテチを頬張ってテレビを見て過ごしたい。
そう思ってしまった。
雨の中、ひたすら道路を歩き続けた。
ちょうど目標の町の直前のカミーノと合流するところで、ジョンに会った。
ジョンと私では歩くスピードが全く違うのに、もう3泊も一緒にいるというのは奇妙な気がした。
タブラの宿で、イタリアのおじさんに
“君たち3人は一緒にサンティアゴに行くよ”
そう言われた。
まさかー、と思ったが、意外とそういうこともあるかもしれない。
カミーノを歩いていると、なぜだか未来を断言する人にちょこちょこ出会う。
今日も無事に宿に着いたことをジョンと二人で喜び、アルベルゲに入った。
カーリーンはまだのようだ。
アルベルゲでのルーティーンを済ませると、ジョンと二人でビールを飲みにバルに行った。
本当は、時間があったらやろうと思っていたことがいくつかあったのだが、なんだかめんどくさくなってしまった。
ジョンは底抜けに明るいので話していて楽だった。
ビールを飲んで、面倒なことは全て忘れたかった。
日本が恋しくならない?
ジョンが聞く。
今日、いつ歩き終えるんだろうとか、そのあとどうしようとか考えてたら面倒になって、初めて帰りたくなったよ。
どこでもドアがあったら日本に帰るのにって。
どこでもドアって知ってる?
知らない。なにそれ?
ドラえもんって日本のアニメのキャラクターがいてね。
未来から来て、ポケットから未来の道具を出してくれるの。
その中にどこでもドアっていうのがあって。
どこに行きたいか考えてドアを開くと、ドアの先はそこなんだよ。
ジョンは面白ろそうにケタケタと笑っていた。
どこでもドアがあったら、そもそも歩く必要がない。
いや、今も車だって電車だって飛行機だってあるんだから、そもそも歩く必要なんてない。
それでも歩いている。
私たちは長い長い時間をかけてどこでもドアを体現しているだけなんだ。
それは意味がないような気がするが、そもそも時間に意味なんてない。
それはそれで良いのかもしれない。
宿に戻るとカーリーンが到着していた。
晩御飯どうする?とか、明日どこまで行く?とか、明日はお店がやってないからここで食料を調達して、とか、そんな話になった。
雨の中、当たり前のように三人で食事に行く。
実は昨日、もう少し先まで歩こうか悩んでいたジョンに、“今日はそこでストップして。明日はどこまで行っても良いから。”とお願いしたのは私だった。
カーリーンがジョンと三人でご飯を作ろうと提案しれくれていたのだ。
人を寄せ付けない雰囲気のカーリーンがそんな風に言うなんて意外だった。
ジョンには、昨日だけで良いからそれに乗って欲しかった。
だから昨日、宿でジョンに会えた時は本当に嬉しくて飛びついてしまった。
そして今は、なんだか宿で三人一緒にいるのが当たり前になっている。
もちろん、いつまで続くかはわからないけど、少なくとも今、そうであることが嬉しい。
明日は今日より天気が良いらしい。
明日はきちんとカミーノを歩こう。