【Day55 2025.10.28 モンタマルタ→ グランハ・デ・モレルエラ 22km】
“シー、今どこ?僕はここにいるよ”
ここ数日、前を歩く何人かの仲間たちからそんな連絡があった。
その気持ちはわかる気がする。
サラマンカで帰ってしまった仲間が多い。
一方で、この時期に始める人は少ない。
アルベルゲは急に人が少なくなった。
みんな寂しいのだろう。
ありがたいことに今日もお天気には恵まれた。
太陽に見守られ草原の中を歩く。
今回のカミーノを終えていった仲間たちを思うと、私も数ヶ月後の自分の姿を思い浮かべてしまった。
どこともわからないオフィスの窓から入る日差しに目をやって、ふと、この歩きのことを思い出す。
その時はもう、以前と同じように日常に追われていて、過去にこんな充実した日々を過ごしたことが自分でも信じられなくなっている。
そんなイメージが浮かんでしまい、また胸が苦しくなった。
もうやだ。
こんな思いをするくらいならやらなければいいのにと思う。
それでも自分の生を、なにか意味あるものにしたかった。
私にとってはそれが、歩き旅だった。
誰もいない道をひたすら歩いていると、こんなことになんの意味があるのだろう、と思わずにはいられない。
道の両脇で巡礼者を見守るこの木々たちは、私がここを通ったということを覚えていてくれるだろうか?
私は、風にたなびき枯れゆくこの草花のことを、いつまで覚えていられるだろうか?
意味。
そんなものは何もないのだ。
明日には北上してきたvia de la plataを左折して、カミーノ・サナブレスに入る。
そんなに人恋しいなら、このまま北上してカミーノ・フランセス(フランス人の道)に入るという選択肢もある。
フランス人の道であれば、オフシーズンといえもう少し巡礼者がいるだろう。
それでも私はその道を選ばない。
わかっているのだ。
ただ、楽しいことをするために歩いているのではないということを。
ただ世界中に友だちができて嬉しいというためだけに、歩いているわけではないということを。
私は何かを探していた。
それは、”ある“と知っているからだ。
マイペースなカーリーンとは一緒には歩かないものの、1時間に一回は休憩を取るというスタイルは一緒で、その度に追いついた。
一昨年もこの道を歩いたから知っているんだけど...
という彼女に
毎年歩いているの?
と聞くと、
少なくとも二年に一度はね。
という。
羨ましい。私は帰ったら仕事を探さないといけないの。
というと、
これまでどんな仕事をしてきたの?
そんな話になった。
仕事を見つけるのは難しい?
そう聞かれて、
うーん。
前と同じ仕事だったら見つけやすいだろうけど。
でもやりたいかどうか。
やりたいことって、ただ歩くことだけなんだけどね。
そういうと、
プロフェッショナルピルグリムね。
そう言われた。
ほんとだ。
そんな職業があったらぜひなりたい。
なぜだかわからないが、カーリーンと話していると心が軽くなる。
今日の彼女の存在に感謝した。
ーーー
つづく