長くなったので二話に分かれています。
ーーー
【Day41 2025.10.14 カサール・デ・カセレス → カニャベラル 33km
10月13日
アルフセンで出会ったオランダのヒルケと再会した。
彼女と会ったのはサイモンたちと過ごした翌日、私が誰とも話したくない日だった。
オランダのご夫妻もいたのであまり込み入った話しはしなかったが、その時から彼女は足に問題を抱えていて、休み休み歩いていると言っていた。
昨日、アルベルゲで再会したヒルケは私が思っていたイメージとはだいぶ違った。
アルベルゲはフルでとても混雑していたが、英語もスペイン語も堪能な彼女は誰にでもフレンドリーで、常に笑顔を絶やさなかった。
年齢は私と同じくらいだろうか?
背が高く金髪で健康的な体格の彼女。
知的で優しく、同じ女性の私から見てもとても魅力的だった。
それは嫌味な感じではない。
プロムクリーンカップルの上から憐れむような物腰ではなく、下から大きな器で支えてくれるような優しさだ。
パリピと才女の違いはあれど、その慈悲深さは女版サイモンみたいだなと思った。
私は大きな朱色の漆塗りの器をイメージした。
私は彼女の足の問題は私と同じように歩きで発生したのだと思っていたが、実は違っていた。
デンマークのリアと一緒に遅いランチを取っているとき、彼女はその話をしてくれた。
5年前、仕事でマラガに赴任したの。
そこでカミーノを知って。
5年後に長期休暇が取れる。
だから5年後、マラガからサンティアゴまで歩こうって決めたの。
私にとって初めてのカミーノね。
ところが今年の初め、足に難病が発覚したの。
一歩も歩けないという状況で、医者にかかり何ヶ月も闘病し、あらゆるセラピーなども試した。
あるセラピーが功を奏し、改善したところでカミーノを歩きたいと医者に相談して。
もちろん、医者はウンとは言わない。
それでも歩くと決めたの。
だから歩いては休みを繰り返し、ここまで来たの。
明日の30km越えの歩きを控えて彼女は言う。
もちろん最初は全部歩きたかった。
だから公共機関を使ったら、そこまで戻ったりしてね。
でもね、そんなこだわりさえ必要ないって気づいたの。
自分のカミーノをすれば良いって。
微笑みながら話す彼女からは、本物の強さを感じた。
そして優しさとは強さの上に成り立つものなのだと教えてもらった。
アルベルゲは満室で居場所がなく、夕方、私は散歩に出かけた。
町の果ての方までプラプラ歩くとロバがいた。
そうだ、以前サイモンから送られてきた写真のお返しをしよう、と思いつく。
ロバと私の見切れ写真を撮って、“we will go to yours(私たちはあなたのところへ行くよ)”と送った。
するとI miss you というテキストと、ガッカリ顔のスタンプが送られてきた。
ガッカリ顔?
また何かあったのだろうか?
それとも矢印をなくしておいて呑気な私に呆れているのだろうか?
スタンプの返信で“why???”と送ると、”Because I miss you”と返ってきた。
なんて返信したら良いかわからなかった。
I miss you, tooと返すのは簡単だ。
ベゴにだってマルセルにだって、なんならイタリアのおじさんからもI miss youときたのでI miss you, too返した。
サイモンともこれまでそんなやり取りはあった。
しかしなぜかbecause が付いただけで、意味を勘繰ってしまった。
あの満月の夜、私たちは確かに特別な時間を共有した。
なんて言うか、何かが噛み合ってしまった。
感情の海に沈んでいた二人の細い細いチェーンが、月明かりに誘われ、浮上して漂っているうちに、お互いの先端のホックが引っかかってしまった。
そんな感覚だった。
ーーー
つづく