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ブッダパークを十分に楽しんだ私たちは,
再びタクシーでビエンチャン市内に向かった。
彼女は,少しためらいながら,こう言った。
「今日の夜,あなたが乗る予定の航空会社ってどこだっけ?
もし,従妹が勤めている会社と同じ系列なら,何かしてあげられるかも。
もちろん,もしかしたらだけど・・・。」
「え?タイ航空よ。」
「タイ航空!?
だったらスターアライアンスよね?」
彼女は多くを語らずに,意味ありげに笑った。
それは,私に過剰な期待を持たせるわけでもなく,
自分の中で納得するような含み笑いだった。
だから私も,愛想笑いを返した。
その流れに,おかしなものは一切なかった。
むしろ,従妹がしてくれるかもしれない対応を,
まだ確信が持てないということで,
敢えて告げないところが,私に信頼を与えさせた。
そんな時,彼女の電話が鳴った。
「XXX,○○○,△△△」
私にはわからない,異国の言葉であった。
電話を切った彼女は言った。
「市内に戻っても時間ある?
従妹の彼が着いたみたい!」
「え?」
「日本人のあなたと知り合ったこと言ったら,とても喜んで,
あなたに会いたいって言ってるのよ。
私の日本行きを,とても心配していたから。」
「そう。彼もこっちに来ていたのね。
もちろん,いいわよ。」
「よかったあ。
彼の心配具合ったら,尋常じゃないの。
フィリピンでは血族はみんな家族だからね。」
「素敵ね。」
「そう。
安心して,彼は若くてかっこいいわよ。
おまけに独身!
楽しみにしていてねっ」
「本当!?」
帰りのタクシーの中でも,
私たちはまるで少女のように,
きゃっきゃ,きゃっきゃとはしゃいでいた。
私は,その時全く気付いていなかった。
ゆっくり,ゆっくり,
蟻地獄に誘われていることを。
---続く---