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市内についた私たちは,
既に到着した従弟が待っているという,アイスクリーム屋に向かった。
彼女と最初に行った地元のカフェではなく,
ヨーロッパ系のチェーン店であった。
通りの向かいには,有名な一流ホテルがあって,
彼のお金で,そこに滞在しているのだと言う。
アイスクリーム屋に入り,彼女が手を振った先には,
アジア系のがっちりした30代前後くらいの男性が,
入り口に向かって座っており,軽く右手をあげて答えた。
フィリピン人と言うよりは,東アジア,中国,日本,韓国系の顔立ちに近かった。
「アイスクリームが大好き!
だからこんな体型になっちゃったの」
と彼女は小太りのお腹をさすって笑った。
私たちはアイスクリームの盛り合わせを頼み,
年末には日本に行くという彼女について,
あれやこれやと話し合った。
彼は仕事の関係で日本へ行くこともあるが,
大阪がほとんどのため,東京はあまり詳しくないと言った。
大阪の友人の力を得て,ネットで部屋探しをしているのだが,
場所や家賃や,条件の詳細が妥当なのかわからない,これはどうだろうか?
と,日本語で書かれたレオパレスの,間取りを印刷した紙を取り出した。
ごく一般的なタイプと思われたので,問題ないであろうと答える。
ただし契約は部屋を見てからの方がいい,と伝えた。
「日本では,彼女と一緒に,部屋を見に行ってあげてもらえないか」
と言う彼に,
「もちろん,大丈夫よ。休日だったらね。」
と答えた。
彼女の日本での生活の話がひと段落つくと,
彼はこんなことを切り出した。
「自分は航空会社に勤めている。
今日の夜の便で君が帰国することは聞いたよ。
タイ航空なんだって?
だったら,自分が勤めているのと同じスターアライアンスだ。
よかったら,帰国便をアップグレードさせてもらえないか。
見ての通り,僕も彼女も,僕の余ったマイルで旅している。
マイルには有効期限があるが,そうそう休みを取れるものではないから,余らせているんだ。
君は,彼女にとても良くしてくれているし,これからもお世話になるだろうから。」
「え!?本当に!?」
「ああ。もちろん,空きがあればの話だけどね。
遠慮はしないでくれ。
その代わり,彼女が日本に行ったら,よろしく頼む。
ファミリーなんだ」
「もちろん!それはお安い御用よ。」
私は,アップグレードが嬉しいというよりも,
こりゃあ,面白いネタが出来たものだ,
と思っていた。
もちろん,アップグレードが嬉しい下心もなかったわけではないが。
そうやって,少しづつ,少しづつ,
私は抜けられない砂の中心に足が向かっていることに,
その時はまだ,全く気付かずにいたのだった。
---続く---