統合失調(8) | 阿波の梟のブログ

阿波の梟のブログ

ブログの説明を入力します。

  • リカバリーの研究
    • 統合失調症者のリカバリー(回復)には、デイケアや施設、職場や友人、医療者などからの対人的な情緒的支援に対する認知の高さ、セルフスティグマ[注釈 69]の低さ、趣味を有していること、高年代、精神科初診年代の低さが有意に影響することが示唆された[449]
    • 地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの構成概念として「新たな目標や願望をみつけ、主体的に生活する」「自分自身を客観視し、肯定的なセルフイメージをもつ」「主体的に支援を活用し、病状が安定する」「地域社会で相互関係を築き承認される」の4つの属性が抽出された[450]
    • 地域で生活をする統合失調症者の回復とは「他者の理解の中だけにある未知の自分の存在を認知する」ことであり、「未知の自分と既知の自分を共存させる」ことであった[451]。また、このために「既知の自分を維持・強化し続ける」ことが必要であった[451]
    • 統合失調症者のリカバリーにおけるスピリチュアルな成長[注釈 70]とは、病気によって発現したスピリチュアルペイン[注釈 71][注釈 72]を日々の出来事や他者とのかかわりの中で実存的・自覚的に問い続けることで、自己と他者(超越者[注釈 73]も含む)とつながり、絶え間ない変化とともに、人の限界と有限性において、自己と他者、その存在を慈しみ生きていく日々の生であったといえる[452]
    • 地域で生活する統合失調症をもつ人のリカバリー過程における食の意味として「栄養・エネルギー補給のための食」「健康維持増進・疾病予防のための食」「人や社会との関わりを深める食」「楽しみ・疲れを癒す・ストレス解消・気分転換のための食」「自己実現のための食」の5つのカテゴリーが生成された[453]
  • レジリエンスの研究
    • 統合失調症者のレジリエンスにおける、回復過程を促進する力は「考える力」「受け入れる力」「自分を守る力」「楽しむ力」「人とかかわる力」「社会に参加する力」「今できることをする力」「自分を成長させる力」の8つカテゴリーに分けられ、これらの力は相互作用をしていた[454]
    • 統合失調症者のレジリエンスの特徴を示すカテゴリーとして、「対象者の変化を切望する気持ち」「もう二度と同じ苦しみを味わいたくない」が得られ、2つの気持ちの高まりが回復するという覚悟を持つ変化を起こしていると考えられる[455]
  • QOLに関する研究
    • 統合失調症患者のQOL得点は健常者やうつ病患者と比較して低いことが明らかにされた[456]
    • 統合失調症患者の主観的なQOLを改善するには抑うつ・不安症状に焦点を当てた治療戦略が必要であることが示唆された[457]
    • 統合失調症患者のQOLについて入院群ではプライバシーを確保することがQOL向上のひとつの要因であると考えられ、また地域滞在群ではグループホーム居住者は生活の満足度が高く退院後の受け入れ先として良好な環境であることが示唆された[458]
    • 肥満度が統合失調症患者のQOLに与える影響について、BMI値30以上の肥満においては低下するものがある一方で、BMI値25以上30未満の過体重においてはむしろQOL指標が向上する項目があることが明らかとなった[437]
    • 在宅生活をする統合失調症患者がより良いQOLを獲得するためには、患者の居場所感を高める支援が有効であることが示唆された[459]
    • 在宅生活をする統合失調症患者がWHOQOL[注釈 74]で高い得点を得るには、自尊感情を高めたり維持することが有効な方法の一つである[461]
    • 統合失調症者、精神障害者家族会会員、一般住民のWHOQOL値を比較したところ、統合失調症者が有意に高い項目は「健康と社会的ケア;利用のしやすさと質」で、低い項目は「医薬品と医療への依存」と「性的活動」であった[462]
  • 理解度の研究
    • 統合失調症の理解と批判的態度は関連がみられなかったが、偏見は批判的態度を高める方向に関連がみられた[463]
    • 統合失調症者の家族の協力度と理解度との間に比較的強い相関が認められ、また疾患名、服薬の継続、家族の関わり、リハビリテーションの理解度が低いほど困難度が高い傾向にあった[464]
    • 高校養護教諭の統合失調症およびうつ病のヴィネット[注釈 75]に対する正答率は一般住民より高く、日々の業務の中で生徒の心身の健康問題に対応してきた表れとも考えられる[465]
  • イメージ・偏見の研究
    • 看護学生の講義に幻聴や妄想を題材にした「幻聴妄想かるた」[466]を導入することで、学生の統合失調症に対するイメージが肯定的に変化する効果を得ることができた[467]
    • 統合失調症偏見除去プログラムを提言するため当事者との直接的接触を基調にした短期介入プログラムを実施ところ、精神障害者との直接的な接触の有効性、精神障害をもつ人たちの実生活に関する情報が病気に関する知識以上に重要視されなければならないことが明らかとなった[468]
    • 精神障害を持つ家族(患者家族)と精神障害者とかかわりのない家族(一般家族)の統合失調症に対するイメージと社会的距離を調査した結果、患者家族は一般家族よりも社会的距離は低く、精神障害に対する知識も豊富であることがわかったが、病気に対する知識は豊富であるにもかかわらず、統合失調症に対するイメージは一般家族と変わらず危険なイメージであった[469]
    • 薬学部生などに統合失調症に関する意識調査を行ったところ、「精神科へのマイナスイメージ」「病院での治療の必要性」「器質的原因[注釈 76]での発症」「病院における治療への抵抗感」の因子が抽出された[472]
  • 統合失調症と地域生活
    • 統合失調症者の日本における「地域生活」は、「地域社会の中に生活の場を置き、生活基盤を構築し充実感が得られる生活の営み」と定義が見いだされた[473]
    • 慢性期統合失調症患者の地域生活の定着に向けた意志決定の過程は、「安心して意欲を回復する局面」「現実へ直面して自分を知る局面」「自ら判断して生活を積み重ねる局面」の3つの局面で構成されていた[474]
    • 統合失調症者が「思い描く生活のイメージ」は、時間とともに不確かな生活像から現実に即したリアルな生活像に変わっていくプロセスとしてあり、そのプロセスは「新たな生き方の気づき(新たな意味への気づき)」の影響を受け「具体的な生活のありよう」と「病気とのつきあい方」を時間とともに広げていくプロセスであった[475]
    • 高齢な親と同居している男性統合失調症患者が自立に向かうプロセスとして、「頼みの綱は親の支え」「親のかかわり変化の気づき」「ケアされる側からケアする側への行きつ戻りつの逆転」「親への依存と自立の混在からの葛藤」「つきまとう病の存在」「気負わない親子関係」「社会のなかの居場所の獲得」「親が他界することへの前準備」の8つのカテゴリーが生成された[476]
    • 長期入院を経験し精神科デイケアを利用する男性統合失調症者の地域における生活の再構築において、「長期入院によるつながりの喪失」を経験し、退院後は馴染みのない「新たなコミュニティのメンバーシップを得ることの難しさ」から寂しさを感じていた[477]。そのようななかで、専門職や親族などからの「サポートの活用による病状や生活の維持」を図りながら、「地域におけるデイケアメンバーとのつながりと役割の獲得」により生活を再構築していた[477]
    • 地域生活を送る統合失調症者の遊びには他者から見ることができる遊び、その人にとっての主観的な遊び、意図的に用いられている遊び、無意識のうちに活用されている遊びというように様々なかたちがあった[478]
    • 豪雪地域で生活する統合失調症を持つ人の経験として、積雪環境において、彼らは自身の気分変調への対処や気持ちの整理をし、周囲のサポートを受けながら「積雪環境への適応」をすることで生活を継続していることが明らかとなった[479]
    • 農村地域で暮らす統合失調症患者の地域生活継続の促進要因は「実感した病気の治癒」「焦りに気づき変化した就労への思い」「障害者年金が支援」「信仰の存在で安定」「地域の風土から生まれた支援」「将来への希望」「良好な家族関係」の7カテゴリ、阻害要因は「気になる世間の目」「仕事に対する将来的な問題」「外で働けないことによる不満足感」「治療継続への気がかり」の4カテゴリが抽出された[480]
  • 統合失調症と社会参加
    • 統合失調症者の社会参加自己効力感を促進する要因のラベルは「支えとなる情緒的関係」「必要な医療・社会資源と支援の獲得」「自尊心の回復」「生活技能・経験の獲得」「心身状態の安定」「障害のある自分の受容」「自分の目標や意味ある生き方の発見」であった[481]
    • 統合失調症者の社会復帰への準備性の構成要素として、 「原動力」「将来の予測」「取り組み」「支援の捉え」の4つの構成要素が明らかとなり、 統合失調症者は、まず、社会復帰に対する「原動力」を得て、社会で生活することに対する「将来の予測」を立てようと試み、「将来の予測」を通して社会で生活するための「取り組み」を行うことや「支援の捉え」の必要性に気づいていくと考えられる[482]
  • 統合失調症と就労
    • 統合失調症者の就労と生活との調和の構築過程として「働くことにより希望を実現させていくという生き方を追究する繰り返しの試み」が総括するコアカテゴリー[注釈 77]として生成された[484]
    • 統合失調症患者の就労関連技能へ直接影響を及ぼす因子として、社会認知機能のうち表情認知、敵意バイアス全般的機能が抽出された[485]
    • A型事業所を利用する統合失調症者の就労継続プロセスとして、「統合失調症発症の時期から疾病の治療への葛藤・疾病をコントロール出来てきた時期」「一般就労を諦めて福祉就労に就いた時期」「福祉就労を含めた日常生活が確立してきた時期」の3つの段階があると考えられ、また、就労継続プロセスを支える人々の存在が大きく影響していた[486]
    • 統合失調症の発症から疾患を乗り越え、就労に至った人の経験と思いとして「受け入れ支えてくれる人の存在」「認知的対応行動の獲得」「前進への意志と行動」「仕事をすることで直面する苦悩」「人生の新しい意味の発見」の5つのカテゴリーが抽出された[487]
    • 統合失調症者の認知機能障害と就労および就労継続に必要なスキルについて、獲得必要スキル[注釈 78]は言語性記憶と学習、一定必要スキル[注釈 79]は注意と情報処理速度が因子であった[488]
    • 統合失調症者の作業体験が就労意識に与える影響について、作業体験は、自己効力感や作業能力を向上させ、また困難を乗り越える力を与え、自己の能力を適切な客観的評価に近づけることで職種とのミスマッチを防ぐなど、就労に有用な影響を与える可能性が示唆された[489]
    • 若年統合失調症者の離職を防止し就労の継続を図るには、臨床場面において罹病期間、認知機能障害のうち特に注意障害に着目し、就労支援を実施することで、その後の就労の転帰を良好なものとできる可能性がある[490]
    • 統合失調症者における障害の非開示者は、職場就業環境や仕事内容にやりがいを感じていないことが示唆され、また非開示者の職場は、一日の就業時間が長い、就業継続期間が短いなどの就業上の課題が明らかとなった[491]
  • 統合失調症と結婚
    • 結婚や出産を考えている女性統合失調症当事者へのサポートとしてパートナーや配偶者への説明、服薬調整・家事援助などの生活支援、遺伝カウンセリング、子育て相談など、精神科領域を越えた多方面にわたるサポートが必要と考えられる[492]
    • 作業療法を行っている入院統合失調症患者の26%に結婚経験があったが、そのうち離婚率は82%と高率であり、結婚を継続することの困難さが示された[493]
  • 統合失調症と妊娠・出産・育児
    • 統合失調症患者の妊娠・出産の困難は明白で、母親のリカバリーや自己実現という視点を加味しても、本人の疾病管理、祖父母などの家族の負担など、現実に後押しする理論的背景を見出すことは困難といえる[494]
    • 統合失調症患者に対するケアの向上や非定型抗精神病薬の使用により、女性患者の50〜60%が妊娠可能になったが、妊娠した患者の50%は家族計画の乏しさや性的暴行を受けたことなどによるもので、無計画や望まない妊娠となっている[495]
    • 統合失調症患者の妊娠は、偶発的な妊娠が多い、服薬中断しやすい、妊婦検診に定期的に受診しない、産後に精神症状が悪化しやすいなどの課題がある[496]
    • 統合失調症患者の妊娠中の抗精神病薬の使用については、特異的で頻度の高い形態奇形は報告されておらず、多剤併用や大量投与を避けて使用することが原則であり、また授乳中も、一部の向精神薬に注意しながら患者に効果があると判明している処方を継続することが適切である[495]
    • 統合失調症合併妊婦は、産褥期に統合失調症が悪化するといわれているが、精神科医師との綿密な連携があれば分娩自体の問題はあまりないといえる[497]
    • 統合失調症合併の妊婦、夫婦において、早期から本人の意志を確認し、育児方針を立てることで、妊娠期からサポート体制が確立され、自宅での育児が実現した例がある[498]。サポート体制の確立には多職種での連携が重要であった[498]
    • 統合失調症患者が子育てや家庭教育を行うことの課題についてインタビュー調査の結果、不安が語られる一方、当事者本人のリカバリーにつながっていると思われるカテゴリーも抽出された[499]。また、子どもが支援をする側になっていることや、専門職が重要な相談相手である一方で、地域の中では支援者を得られずに子育てを行っていることも示唆された[499]
  • 統合失調症と高齢
    • 統合失調症を患う高齢者の栄養状態低下の要因として、入院期間の長期化と社会生活の技能の低さが挙げられた[500]
    • 高齢の長期入院統合失調症患者の老いの認識は「加齢に伴う心身能力の衰え」「精神科病院で老いていくしかない現状」「満たされることのない欲求の諦め」「死に近づく過程」であり、自己の将来像は「期待が心の糧」「成り行きに身を任せる」「将来像を抱くことを断念」であった[501]
    • 高齢の統合失調症患者の超長期入院生活の中での楽しみとして、「懐かしさに感じる心の安寧」「病棟生活の中でつくりあげる夢見心地」「他者とともに過ごす時間の交流」が挙げられた[502]
    • 高齢の統合失調症患者の薬物療法について、薬理学的にも高齢者では薬剤用量などに配慮が必要なことは明らかであるが、高齢の統合失調症患者に対して病状の悪化や再燃を恐れるがあまり、若年者と同様の抗精神病薬治療を漫然と続けていることも多い[503]
    • 高齢の女性統合失調症患者に対し、エストラジオールエストリオールが臨床効果があるとする報告が見られる一方、エストロゲン投与による乳癌子宮癌の発症や不正性器出血が問題となっている[504]
    • 高齢統合失調症患者の認知機能について、アルツハイマー型認知症患者に比べて記銘力は保持されているが、干渉刺激の影響を受けやすく注意の持続が困難であり、ワーキングメモリに障害がある可能性が示唆された[505]
    • 高齢統合失調症者は健常高齢者と比較して、全般的認知機能の低下が認められ、また、怒りや悲しみなど不快情動の表情認知を誤る率が高く、反応時間も遅いことが明らかとなり、これらの特徴から、高齢統合失調症者は、とくに右側前帯状皮質扁桃体島皮質周辺領域における機能の低下が考えられ、これらのことが対人関係上の問題となる可能性を示唆する[289]