いくら大家といえ、名にし負う自分を向うに廻して、あのぶざまな立ち方は何事だろう。慢心しているのか、あるいは呆けているのか。よし目にもの見せてくれようと気負った彫刻師、一躍して襲いかかろうとして足を踏んばった途端、松村先生の眼から一閃稲妻のようなものが走った、と感じた途端、思わずサッとニ間程も飛びすさった。よく見ると、松村先生は一歩も動いていない。
 彫刻師の額と脇の下から、タラタラと油汗が流れていた。動悸も激しい。彼はそのままグッタリと腰を下した。松村先生は何事もなかったようにまた元の石に服をかける。

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