さてその当日——。
 二人はスックと立上った。お互いの距離は五、六間もある。彫刻師はタタタタと小間合いをつめてゆきながら、もう二、三問というところでグッと腰を落として、左券を軽く下段に構え、右拳を眼に構えて、ジッと相手の様子をうかがった。松村先生は腰かけていた石から立ち上ったままである。心もち左半身になっているが、手も足もほとんど自然体で、ただ、グイと左肩に聞をひきつけて、例の鋭い眼を一層大きくクワッと見開いている。
(あんな構え方でいいのだろうか)
 彫刻師は一寸戸惑った。

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