さてそれが遅ばれてくると、左手で盃をとりあげて、おもむろに後ろに廻していた右手をグイと前に引き出すと、男はヨロヨロと前へよろけ出た。先生は初めてその男の顔を見るとニッコリ笑って、
「何の恨みかしらないが、まあ一杯いこう」
 と盃を出したものだ。暴漢は二の句がつげず恐れ入ってしまったことはいうまでもない。
 とに角、糸洲先生の身体は不死身かと思う程よく鍛錬されていた。大抵の力自慢が突いた位では何ともなかったらしい。

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