ある日先生が辻へ遊びに行かれた。辻というのは、沖縄特有の三業地のようなところで、食事をするにも、お酒を呑むにも. また宴会にも利用されるところである。
 今しも先生がある家の門口を何気なくズイと入ろうとされた途端、傍にひそんでいたらしい壮漢が、やにわに先生の後ろから「エイッ」という気合もろとも、脇腹めがけて拳を突出した。そこでヒラリと体をかわした——かと思うとさに非ず、糸洲先生は後を振り返りもせずに「ウム!」と丹田に力をこめると、突き出した拳はあっ気なく弾き返ってしまったのである。

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