書きたくても、営業機密などの壁のあり、

書かなかったのですが、ここ数年の動向を見ていると

いま、できるだけ誠実に記事を残さないと、

誰もわからずに、すごい速さで、

ビジネスの本質が消えていく恐怖を感じましたので、

私が40年近く携わってきた

「科学技術計算ビジネス」

についての記事を書くことにしました。

 

ただ、どこから書いていいかもわからないので、

(1)から読んでいくのがいいかはわかりません。

というわけで、(1)~(n)という並びに意味がないことは

ご理解ください。

 

では、今回は

「科学技術計算ビジネス(2) ~科学技術計算受託業務~」

ということで、

「科学技術計算受託業務」

について書きます。

 

この業務は読んで字のごとく、ある課題についての

シミュレーション(科学技術計算)を受託で実施するものです。

 

ただ、この業務が、徐々に危機的状態になってきたと感じています。

 

私が、この業務に従事し始めた頃(1985年頃)と現在の違いは以下です。

 

1)1985年頃:

  今と違い、商用の科学技術計算ソフトウエアとしては

  構造解析系のNASTRANくらいしかなく、

  「科学技術計算受託業務」では、ほとんどの場合、

  In-houseコードといって、その会社のその課題専用のソフトウエアを

  作るところから始め、実験・計測の再現性ができるまでが業務の内容

  でした。

 

2)現在:

  しかし、近年では、いずれかの商用の科学技術計算ソフトウエアを

  利用し、解析モデル(空間を示すメッシュおよび境界条件と

  解析条件)を作成し、それをコンピュータで実施し、結果をまとめる

  だけで、考察も計測結果などとの検証さえしない。

  というものが増えました。

 

上記1),2)を比べると、容易にお分かりいただけると思いますが、

a) かかる費用が極端に少なくなった。

b) a)のためもあり、考察する内容が貧弱になった。

c) 計算結果の妥当性さえ、検証されていないものが増えた。

 

そして、最大の問題は、この科学技術計算受託業務の結果を受け取った

注文主側でも、近年とみに、

「深い考察をすることなく、計算結果を鵜呑みにし、対策をうわべだけで

 考えてしまう傾向」にあることです。

 

例として挙げれば、科学技術計算受託業務の結果

冷蔵庫の冷えが不十分だとなったとします。

この場合、

 

1)1985年頃:

 なぜ、「冷蔵庫の冷えが不十分なのか?」また、

 「どの部分をもっと冷やしたいのか」というゴールに向けて、

 空気の流れの把握・温度下降量把握などを見極め、

 上記が物理的に妥当である根拠を明確にするなどを通して、

 冷蔵庫の冷えが不十分は理由を探り、冷やしたい部分を

 冷やすにはどうすればよいかの検討を経て、改良案を立案しました。

 少し詳しく書くと、

 科学技術計算サービスが始まったのは、
 1980年頃だと思いますが、そのころは、
 個別の企業ように作成された"In-houseコード"の
 計算だけを代行する"計算機の時間貸し”が主要なものでした。

 それでも、
 科学技術計算サービスは、単なるコンピュータリソースの時間貸で
 あることはまれで、
 当時は、結果の図化などのポスト処理が未整備だったこともあり、
 結果の解釈にかなりの比重が置かれた業務でした。
 すなわち、個別企業が持たれている"In-houseコード"を
 大型計算機(いまでいえば、”富岳”のようなもの)に
 インストールし、コンパイル・リンクという処理で、
 計算実行できるものとし、計算を実施し、
 結果を取り込んで、結果(当時は単なる数値の羅列)を
 取り込んで、印刷物から、主要な数値を取り出し、
 別に対象現象を表す図などを描画し、そこに、計算結果を描き、
 解析から得られる内容を文章化し、もちろん、その妥当性を記述し、
 結果から見える問題点と課題をまとめるものでした。

 

2)現在:

 科学技術計算受託業務の結果を受けて、とりあえず、

 ファンの送風量を増やす・エバポレータの冷却能力を上げるなど

 対策案を(根拠が薄弱なまま)出し合って、その案に対して、

 再度、科学技術計算を実施し、結果をみることに専念しています。

 

上記1),2)を比べると、人間が思考することがとても軽視され、

シミュレーション偏重になってきています。

 

あえて、辛口に言うと、

「製品設計者はどんどん馬鹿になってきていると感じます」

これでいいのでしょうか?

 

そして、

「製品設計者は、注文主でもあるので、科学技術計算受託業務」

とは、計算結果を得ることだとしか考えず、計算内容やその設定の良否は

ほとんど無視し、安く受けてもらえる企業に発注するようになっています。

 

だから、「計算モデルの設定に問題があり、計算結果が妥当ではない」もの

を多く目にするようになりました。

 

これは、もちろん、発注を受けた側の能力の低さもあるでしょうが、

発注する側の能力の低さと意図の希薄さによっているので、

事態はより、深刻だと感じています。

 

なお、受託金額優先で、受託先が決まるので、

請け負う側も、「正しい考察・正しいモデル化」は軽視し、

「コストの低い計算法」を採用する傾向になってきているのも

見逃せません。

 

  痴呆化する技術者

(出典:イラスト素材:全力でとぼけるウサギ 知らないふり はて