新人弁護士備忘録日誌

新人弁護士備忘録日誌

新人弁護士が本には書いてないけど,二度は兄弁に聞けなそうなことを備忘録的に書き残していきます。
同じ新人弁護士の方の情報共有となれば幸いです。

元H28司法試験の再現答案(基本7科目+環境法)公開ブログ。

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破産申立に至った事情の書き方の具体的な流れを説明します。


まず,債権届け出書や通帳の取引履歴で,不自然な取引(急に借入額が増加した,不明な名前への送金ないし入金)がないか確認する。
なければそのままで良いですが,あれば確認事項としてメモしておきましょう。


次に,一度文書で破産申立に至った事情を書いてみましょう。わからない部分は●で記載で大丈夫です。大事なのは文書で書いてみるということです。

 

完成したら,それを依頼者に確認してもらいましょう。あわせて●で不明としている部分や不自然な取引について質問してしまいしょう。

 

返事が来たら,それに沿って埋めて完成です。
 

破産申立書で一番頭を使うのが「破産申立てに至った事情」ではないでしょうか。

 
「裁量免責を相当とする事情」も大事ですが、まぁ、ここは要するに「免責不許可事由はあったけど,今は更生しているんだよ」って言ってあげれば良いのです。
刑事裁判でいうところの「情状」と思えば良いんじゃないでしょうか。
 
これに対して申立の経緯は難しい。何が難しいって、「そんなの後先考えずに金を借りたからだよ」の一言で終わらせたくなるからです。
 
まぁ、それはそのとおり…とはいえ、裁判官や管財人はそんなこと知りたいわけじゃないのです。
 
彼らは『①何が原因で借金しすぎて、②その原因は今どうなってるの?』を知りたいわけで、申立経緯とはいわば①なわけです。
 
「じゃ、原因を書けばいいのか」となるわけですが、端的に「パチンコのせい」とか「キャバクラのせい」と書くだけじゃダメです。
 
いつからパチンコやキャバクラにハマったかを知りたいのです。
そして、その時系列が通帳や債権届出書上のお金の動きと連動してるとさらに良いのです(法曹三者は客観的証拠との一致が大好きなので)。
 
まとめると、『借金の原因を時的要素や客観的証拠と照らしながら書いてあげよう』
となります。
 
もっと言えば、依頼者との打ち合わせ時には、このことを念頭において根掘り葉掘り聞きましょう。

面談日について(管財編)

⓪裁判所に向かう前の電車内で申立書のpdfデータを読み返して、裁判官面談に備えておくのが吉です。


⑴まずは地下1階で予納郵券4100円と印紙代1500円を買います。現金でしか買えないので注意。


⑵民事20部破産係へ。東京家裁と同じビルの5階です。手前側のエレベーターが破産関係の階にしか止まらないので覚えておこう。


⑶エレベーター降りて、右に進みましょう。机とペンがあるので、ここで印紙を貼ったり、最後の見直しして場合によっては加筆したりします。

その後右に曲がると申立する20部です。左に曲がると待合室です。

右に曲がって、破産申立のボタン押して待ちます。


⑷書記官が出てきて、「何件の申立ですか」と聞かれます。申し立てる件数を答えて書類を渡すと、書記官による書類のチェックが始まります。その間に「封筒何枚いりますか?」と聞かれるので、「●(債権者数+弁護士事務所宛2枚)ください」と回答しましょう。


⑸もらったら封筒に宛名シール貼っていきます。


⑹書類チェック終わると事件番号を振られた紙を渡されて待合室へ行くように案内されるので、その事件番号を封筒に貼りましょう。


⑺少し待ってると裁判官に呼び出されます。何番と言われるので、そのテーブルに向かいましょう。


⑻裁判官と面談します。

「管財ですかね?」「はい」「ポイントはなんでしょう?」「(ポイント…?)」

ポイントもなにもそこに書いてあるとおりだ…と言いたくなるのをこらえて、ここは「自分が管財人ならここが気になる」ということを答えます。

もう少し具体的に言うと、①免責不許可事由の有無②裁量免責を相当とする理由、の説明です。

要するに『管財人さんここが気になると思うので、こういう調査したくなると思うのですが、そこはこちらでも調査はしまして…』という感じです。

調査事項としては、破産財団調査、債権調査、免責調査の3類型が考えられますが、大体は免責調査です。

ちなみに「まあ中にも書いてあるのですが…」と前置きしたら「裁判官は読んでないので…」と言われてしまいました(ならお前の手元にある記録持はなんなんだ?)。

あと,とっさに答えられないことを聞かれたときに備えて,事前に依頼者に,「この時間帯は電話出れるようにしておいてください」と言っておくのも大事です(事前に調査しておけって?その通りだと思います)。


⑼ひととおり回答終わると、破産開始決定日と債権者集会日を言い渡されます。破産開始決定日はかなり近い日にちを候補日として言い渡されるのですが、その前に管財人との打ち合わせも入れないといけません。そして、この打ち合わせには申立人本人も来なければいけません。かなりタイトです。


⑽最後に保管金を納めます。このときに預り金口座を記載する必要があるのですが、預かり人名義の住所は事務所ではなく、自宅なので注意。


⑾ここまで済んで事務所へ…ただし、その後すぐに管財人から連絡が来て、打合せ日付の調整しましょうという話になります。

依頼者にすぐに電話して,日程調整を行い、その後,打ち合わせ補充メモと預かり金表をfaxして、さらに申立書一式の写しを管財人に送付(レタパで速達してあげましょう。)して,ようやく申立日は終わるという感じです(ホントに打合せが迫ってる時は申立書のうち疎明資料以外をfaxしてあげることもあります)。


H28問題
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00128.html

結果
民事系科目206.50。民法C会社法A民事訴訟法A

民法再現答案

第1. 設問1
1.(1)について
Eとしては所有権に基づく所有権移転登記手続き請求を行うことが考えられる。
 すなわち,平成24年2月10日時点で甲土地はC所有であったところ,Eは同日,Cのため(顕名行為)と称するAと甲土地を目的物とする,代金450万円の売買契約(民法(以下,条文名略)555条)を締結した。AはCの親であるから法定代理権(824条)を有するので,Aの代理行為はCに帰属する。
 従って,上記売買契約の効果はEC間に帰属するので甲の所有権はEに移転する(176条),という主張である。
 これに対してAとしては,まず甲土地を本件売買契約の対象になっていないと反論することが考えられる。しかし,契約締結の経緯に照らすと,乙土地のみを目的物にしたというよりも,甲土地についてはEが代金を調達できるまでという停止条件付売買契約として目的物としたと考えるべきである。そして,本件では平成24年3月15日の時点でEは450万円用意できた旨調達しているから,この時点で甲の所有権はEに移転したといえるので,Aの反論は成立しない。
 もっとも次の反論として,Aは自身の遊興によって作った借金返済のために甲土地を売却したのだから,本件代理行為は代理権限の濫用にあたるので無効であり,Cに帰属しないという主張が考えられる。
 この点,親が子の代理権限を濫用した場合であっても,取引安全の観点から,相手方が代理人の意図について悪意・過失がある場合に限って効果不帰属とするべきである。
 本件で,EはAの意図を知っていたのだから悪意といえる。従って,本件売買契約は無効であり,本人であるCに効果帰属しない。
 これに対して,本件売買契約が無効だとしてもC死亡によって,Cの地位を親であるAが相続(889条1項1号,896条)しているのであり,無権代理人が本人の地位を取得した場合は,信義則(1条2項)上,追認拒絶(113条2項)できないのだから,結局本件契約は追認によって有効となるというEの再反論が考えられる。
 しかし,他に相続人がいる場合,追認権は不可分に帰属するので他の相続人が同意しない限り,無権代理人が本人の地位を取得しても追認できない。そして,本件ではAの他にCの妻であるDがCの地位を相続している(890条,896条)ので,Dが同意しない限り,本件売買契約は追認によって有効とならない。
以上より,Eの再反論は妥当しないから,結局本件売買契約は無効である。また,悪意者であるEはAに無権代理人の責任追及(117条1項)することもできない。よって,Eの請求は認められない。
2.(2)について
 Dとしては,Fに対して,乙土地の所有権に基づく所有権移転登記請求及び建物収去土地明渡請求を行うことが考えられる。
 すなわち,乙土地は平成24年2月1日時点でC所有であったところ,平成24年3月5日にCは死亡したので,妻であるDはCの財産を相続により包括承継する(896条)ので乙土地の所有権はDにあるにもかかわらず,乙土地の登記及び占有をFが取得しているのでこれを排除すると主張することが考えられる。
 これに対して,まずFとしては,乙土地の所有権は平成24年2月10の売買でEに移転しているので,Cの相続財産に含まれていないという反論が考えられるが,設問1(1)で検討した通り,本件売買契約は無効であるから,これによって所有権が移転することはない。
 では,Fは無権利者Eから乙土地を取得した善意の第三者にあたるとして94条2項類推適用により保護されないか。
 94条2項類推適用の要件は①虚偽の外観②本人の帰責性③第三者の善意無過失である。
 まず,①については登記簿や新聞のチラシからEが乙土地の権利者であるという虚偽の外観があったことから認められる。
 次に②についても,Cは子とはいえ,既に18歳であったのだから自分で土地を管理することもできたはずであり,それにも関わらず親であるAに任せていたことはCの落ち度といえるので,本人Cの帰責性も認められる。
 最後に③はどうか。この点,本件のように本人が意図せず過失によって虚偽の外観を作出してしまった場合,本人の帰責性が小さいことから,第三者が保護されるには善意無過失まで必要とされる。
 本件でFはEと面識がなく登記簿上も乙土地の名義はEとなっていたことを考えると,Fは本件土地がE所有でないことに気付く契機がなく,Eを所有者と信じたことはやむを得ないといえるから,Fは善意無過失といえるので③も満たす。
 以上より,①‐③の全てを満たすのでFは94条2項の類推適用により乙土地を取得するから,反射的にDは所有権を失うのでDの請求は認められない。
 なお,登記に関してはFは背信的悪意者でなく,Fが登記を備えている以上,仮に登記が対抗要件として必要だとしても,問題ない。
第2. 設問2
1.(1)
 Mは平成26年4月1日付の消費貸借契約(587条)に基づき500万円及び利息,遅延損害金を請求することが考えられる。
 すなわち,平成26年4月1日,EはHから利息年15%,遅延損害金年21.9%で500万円を借り,交付されたところ,その債権は平成26年8月1日に500万円でMに譲渡(466条1項)されたとMは主張する。
しかし,本件消費貸借契約は賭博目的で行われたものだから公序良俗に反し無効(90条)であるからMの主張は認められない。
もっとも,MとしてはEは平成26年8月5日に異議なき承諾(468条1項)をしているのだから,たとえ対抗事由があったとしてもMには対抗できないと再反論することが考えられるが,公序良俗無効は契約が私的自治の限界を超えたが為に無効となるものであるから,たとえ債務者が承諾したところで,その瑕疵が治癒されるわけではない。
以上より,公序良俗無効は異議なき承諾により有効となるものではないから,Mの請求は認められない。
2.(2)
 Mとしては不法行為責任(709条)に基づいてEに請求することが考えられる。
 不法行為責任の成立要件は①故意または過失②権利侵害・違法性③損害④②と③の因果関係,である。
 この点,①については,債権譲渡を承諾すればHが債権者となって請求してくることは明らかで,それを公序良俗を理由に支払いを拒絶すればHが金銭的損害を被ることは予見できたにも関わらず,これを承諾しているから過失が認められる。
 また,この承諾はHの財産権を侵害する違法なものであるから②も満たし,Hに支払った分の代金400万円を失ったから③も満たす。
 しかし,Eが承諾する前にHM間の売買契約は終了していたのだから,Eの承諾とMの損失の間には④因果関係が認められない。
 以上より,MはEに不法行為責任を追及できない。
3.(3)
 Lとしては求償権(459条1項)に基づいてEに請求することが考えられる。
 これに対して,そもそも500万円の交付をKから受けていない以上,本件消費貸借契約は成立していないから,「債務を消滅させるべき行為をした」とはいえないので求償権はないという反論が考えられる。
 この反論に対して,LはEがKから交付を受けていないことを知らずに弁済したのだから,弁済は有効とみなせる(463条2項,443条1項)と再反論できないか。
 そもそも債権が不成立であった以上,「その他自己の財産をもって共同の免責を得た」とはいえないとも思える。しかし,同条の趣旨は過失ある債権者よりも自己の債務を全うした保証人の保護を図ることにあるのだから,債権が不成立であることも,「共同の免責」に含まれると解する。
 よって,Lの弁済は有効となるので,LはEに求償権を行使し,584万円の支払いを請求できる。
以上
H28問題
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00128.html

結果
民事系科目206.50。民法C会社法A民事訴訟法A

会社法再現答案

第1. 設問1
1.(1)について
 本件の臨時取締役会は有効か。取締役会決議の無効事由は会社法の明文にないが,法令違反がある場合は法の一般原則に従い無効となる。もっとも,その無効事由が軽微で,決議に影響を与えないような例外的場合には決議は有効のままとなる。
 本件では①収集通知の目的事項に記載がなかったこと②Aに招集通知を出していないこと,の二点が問題となる。
 まず①について,会社法は株主総会では招集通知に目的事項の記載を要求していること(会社法(以下,条文名略)299条4項,298条1項2号),取締役会でも一定の場合には目的事項を示すことを要求している(366条2項)ことを考えると,目的事項の記載に欠けることは法令違反にあたるとも思える。
 しかし,取締役は皆株主と違って,会社経営の専門家であるから,事前に目的事項を知らされていなくても適切な会議運営が期待できることを考えると,目的事項の記載を欠くことは違法事由にはあたらないと解すべきである。
 よって,①は違法事由にあたらない。
 次に②について検討する。招集者は各取締役に通知を発しなければならない(368条1項)から,代表取締役であるAへの通知を欠いたことは368条1項に反して違法であるから原則として無効な取締役決議となる。
 では,この違法事由決議に影響を与えない例外的事由にあたらないか。本件決議はAの代表取締役からの解任を目的としているところ,Aがこの決議の「特別の利害関係を有する者」(369条2項)にあたるのであれば,Aはいずれにしろ決議に参加できないのであるから,Aに参加の機会を保障する意味はないので,通知漏れの瑕疵は例外的な場合にあたるといえる。
 では,Aは「特別の利害を有する者か」か。特別の利害を有する者とは,会社の利益と自己の利益が相反関係にあるために適切な職務遂行が期待できない者をいうところ,解任の目的とされている者は解任によって不利益を被る以上,会社との関係で利益の相反関係があるから「特別の利害を有する者」にあたる。
 よって,Aは「特別の利害を有する者」にあたるから,決議に参加できないので,Aへの招集通知漏れは決議に影響を与えない例外的な場合にあたるので,本件取締役会は有効である。
 以上より,①②どちらも無効事由とならないので,本件決議は有効である。
2.(2)について
 Aは月額50万円の報酬を請求できると考える。まず,取締役の報酬は361条より株主総会で決定されるところ,役員の総額が定まっていればお手盛りの弊害は防止できるから,個別の役員報酬については取締役に委任できる。
 もっとも,一度決定された報酬額は委任契約(民法643条)として会社と役員を拘束するから,これを一方的に変更することは,明示ないし黙示の特約がない限りできない。
 では,本件で黙示の特約が認められるか。この点,甲社においては役職ごとに一定額が定められる運用がされていたとあるから,この運用に従った報酬額の変動についてはAと甲社の間で黙示の特約がなされていたといえる。
 そして本件でAは代表取締役の地位を解職されて取締役になっているから運用方針に従った場合の報酬額は月額50万円となる。従ってAの報酬は月額50万円までは減額できるが,それ以下には減額できないので,Aは50万円請求できる。
第2. 設問2
1.(1)について
 会社は339条1項より,いつでも役員を解任できるものの,その解任に「正当な理由」がある場合を除いて,解任された者は解任により生じた損害を賠償請求できる(339条2項)。
 よって,Aの解任に「正当な理由」がなければ,Aは甲社に損害賠償請求できるところ,本件で「正当な理由」は認められないか。
 この点,「正当な理由」の意義を,854条1項の「不正の行為又は法令…定款に違反する重大な事実」と同視できる事由だとして狭く解する見解もある。
 しかし,取締役の経営上の失敗に関しては,会社に対する損害賠償責任等を追及する場合でも,経営判断原則により追及しにくいのが現状である。
 経営判断原則とは,取締役の善管注意義務違反の判断にあたっては,①その判断のもとになった情報の調査・収集・分析に誤りがなく,②その情報に基づく経営判断の過程・内容が通常の経営者に照らして著しく不合理でなければ,結果的にその経営判断が誤っていたとしても,取締役の善管注意義務違反は認められないという原則である。
 本件でも,Aは事業の海外展開に失敗したものの,海外展開に必要かつ十分な調査を行っていたことから①を満たす。そして,その調査結果に基づいてリスクも適切に評価して議案を提出していることから,偏った判断をしておらず,通常の経営者として合理的であったといえるから②も満たす。
 このように,Aが会社に対して損害賠償請求を負わないことを考えると,解任は,取締役の会社経営の成否に対する,株主らの制裁手段として活用していくのが望ましいから,株主ら行使を躊躇させないために,「正当な理由」は緩やかに解してよい。
 具体的には,なんらかの事業の失敗によって会社に損害を与えた場合は「正当な理由」にあたると解する。
 本件でAは,自身の進めた海外展開を失敗し売上は低迷したとあるから,甲社に損害を与えたと考えられるから,「正当な理由」が認められる。
 よって,Aの解任には「正当な理由」があるので損害賠償請求は認められない。
2.(2)について
 (1)①について
 Bとしては役員の解任の訴え(854条1項)を提起することが考えられる。役員の解任の訴えの原告適格は,非公開会社であれば,総株主の議決権,ないし発行済み株式総数の3%を保有している株主であれば認められる(854条1項1号2号,同条2項)ところ,甲社は
非公開会社でBは発行済み株式総数及び総株主の議決権のいずれも20%保有しているから原告適格を満たす。
 よってBは本件の定時株主総会の日から30日以内(854条1項本文)であれば解任の訴えを提起できる。
(2)②について
解任の訴えは,「役員を解任する旨の議案が…否決されたとき…に請求できる」とされているところ,そもそも本件では株主総会は流会してしまっているので議案は否認されていない。このような場合であっても「否決されたとき」に同視できるとして解任の訴えを起こせないか。
この点,854条の趣旨は,本来であれば役員の解任は株主が決定するべき事柄であるものの,役員の圧力によって不当に多数派が形成される結果,株主総会が機能していない場合に,少数株主の利益を保護することにある。
従って,議案が否決された場合のみならず,役員の圧力によって株主総会の定足数が充足しなかった場合も,株主総会が機能しておらず,少数株主を保護する必要性があるから「否決されたとき」と同視してよい。
本件で流会となった理由は,Aが甲社株主数名に欠席するよう要請,すなわち圧力をかけたためであるから,「否決されたとき」と同視できる。
以上より,Bは解任の訴えを提起できる。
第3. 設問3
1. 423条の要件
取締役の任務懈怠に対して会社が損害賠償請求(423条1項)するには(ⅰ)任務懈怠(ⅱ)損害(ⅲ)因果関係,の三つが必要となる。
2. ①Cの責任について
 本件でCは直接は不正行為に関与していない。また,報告を受けて直ちに調査指示を出している。しかし,公開会社(2条5号)で20億円の資本金がある甲社は大会社(2条6号イ)であるから,代表取締役であるCには,いわゆる内部統制システムの構築・運用義務がある(362条4項6号,362条5項,会社法施行規則100条)ところ,これを怠ったといえないか。
 まず,Cは「内部統制システム構築の基本方針」を決定して,これに従い法務・コンプライアンス部門を設け,さらには内部通報制度や研修を定期的に実施し,下請けとの癒着防止のために社内規則を制定していたことから,構築義務は果たせていたといえる。
 次に運用に関しては,報告を受けたDがなんら調査も指示をしなかったためにCの対応が遅れたことを考えると,運用できていなかったとも思える。しかし,構築されたシステムにおいて各自に役割分担がなされている場合は,各自が適切に任務遂行を行うことを前提にシステムが構築されているから,他の取締役は適切に行動すると信頼してよい(信頼の権利)ので,Dの落ち度をもってCに運用義務違反があったとはいえない。
 よって,Cは内部統制システムを構築・運営できていたことから(ⅰ)任務懈怠が認められない。
3. ②Dの責任について
 本件でDは法務・コンプライアンス部門を担当していたところ,Eの不正行為に関して内部通報があったにも関わらず,なんら指示を出さなかった点で(ⅰ)任務懈怠があるといえる。
 もっとも,Eの偽装工作は巧妙で,会計監査人も気づけなかったことを考えると,Dが調査指示を出さなかったことに帰責性はないようにも思える。
 しかし,直属の部下だからという理由でEを信頼していたのは軽率であるし,内部通報があったにもかかわらず,会計監査人の指摘がないという理由で調査指示を出さないのでは内部通報制度を設けた意味がない。また,調査指示まで出さなくとも,他の取締役や監査役に報告くらいはするべきであったといえる。
 よって,Dには(ⅰ)任務懈怠が認められる。
 (ⅱ)に関しては合理的な代金と水増しの差額5000万円が損害にあたる。
 もっとも,通報があったのは平成27年3月で,そこから調査しても防止できたのは27年4月末の振り込み3000万円であるから(ⅲ)因果関係が認められるのは3000万円の限度である。
 よって,Dは3000万円の損害賠償責任を甲社に対して負う。
                                          以上