安部公房『第四間氷期』 | 空想俳人日記

安部公房『第四間氷期』

 実は、初めて読んでから半世紀ぶりの再読である(が、実は。厳密にいうと再々なのだ。下の文庫本の写メは、30代後半の頃に再読した際のものだから、今回は再々読なのだ)。

安部公房『第四間氷期』01 安部公房『第四間氷期』02

 で、そのきっかけは、第47回まちの宮市なまおとライブの際のイベント「ほんまち本のまち」で入手した古本。日本文学全集、一冊100円の中の安部公房集。詳しくはブログ記事「第47回まちの宮市なまおとライブありがとうございました」をご覧くだされ。

第46回まちの宮市なまおとライブ07 第46回まちの宮市なまおとライブ08

 一応あらすじは書くけど、感想は書かない。

 世界初の予言機械「モスクワ1号」がソビエトで開発され、各自由諸国における天気予報から株価予測、各種の経済指数まで正確に的中させていた。日本もそれに対抗するため、中央計算技術研究所の「私」(勝見博士)が予言機械「KEIGI-1」を開発。「KEIGI-1」は、人の脳波から、記憶や人格をも再現することができるようになっていた。ソビエトでその後開発された「モスクワ2号」は、未来は共産主義の世の中になると予言し、アメリカはそれに対し抗議を表明、国際友好をおびやかす政治的予言が非難された。日本のプログラム委員会や統計局もそれに影響され、政治問題に結びつきそうなものを制限、新しいプログラムを研究所に要請した。
 ならば「一個人の人間の未来を予言するならいいか」と、街で見かけた或る中年男に目をつけ尾行。男は誰かと待ち合わせしていたが、すっぽかされ愛人のアパートに入っていく。部屋の位置を頼木が確かめに行き、「私」と頼木はひとまず引揚るが、翌日、男が部屋で殺されたという記事が新聞に載った。愛人の女が殺しを自供。しかし、状況から犯人は女とは思えなかった。男を尾行していたことをタバコ屋に見られていた「私」と頼木は、自分たちに嫌疑が及び、そこからマスコミに研究所の仕事をかぎつけられるんではないかと。先手を打って真犯人を捜し、予言機械を犯罪捜査に利用できる道を考えた「私」と頼木は、統計局の協力で、警察から男の屍体を中央保険病院に運び、大脳皮質の反射を機械にかけ、生前の記憶を解析。男の神経の痕跡のよれば、愛人が或る病院で妊娠3週間の堕胎手術を受けて7千円をもらい、その後同じ境遇の妊婦を紹介するブローカーの内職で報酬を受けていたことを語った。すると「私」に脅迫電話がかかって来た。面倒なことに巻添えをくったと「私」は考えたが、頼木の意見もあり、さらに女も連れ出し機械で調べようとするが、途中で女が毒殺され、神経反応も調べられなくなる。そのとき頼木が世界では哺乳動物の母胎外発生の研究がひそかに盛んに行われていると言い出し、水棲哺乳類を見たことがあるという話。
 前回子宮外妊娠をして、堕胎の処置を迷っていた「私」の妻が、何者かにおびき出されて胎児を堕胎させられるが、「私」はこれまでの経緯に何か仕組まれた意図を感じ、頼木がこの件の首謀者ではないかと疑う。「私」は頼木と一緒に、中央保険病院の山本博士の義兄が所長をしているという母胎外発生研究所へ行ってみた。そこは鎧橋を渡ったところにある研究所で、水棲鼠や水棲豚などが飼育されていた。
 ここらで、そろそろおかしいな、そう思う人はしめたもので、「私」は妻が堕胎手術を受けた場所が山本研究所ではないかという確信を深め、妻を予言機械にかけようと思うのだ。そして、「私」は奪われた自分の子供(胎児)が水棲人間として成長し、「私」に抱く感情や暗い未来を考え、胎児を殺してしまいたいと思うのだ。そのとき「私」の行動を阻止する脅迫電話が再びかかってきた。それは「私」自身の声だった。その声は第一次予言で「私」の未来を見た第二次予言値だった。機械を操作しているのは頼木だったが、それを指示しているのは〈私〉だったのだ。
 「私」は〈私〉が雇った暗殺者の男と一緒に、実は水棲人間養育場の委員会となっていた「私」の研究所へ行った。〈私〉は、未来を知ったときの「私」が何をするのかすでに予言していて、「私」は殺されることになっていた。「私」の第二次予言値である〈私〉は、「ある未来を救うために、べつの未来を犠牲にしなければならないような時代には殺人もやむを得ない」と。「私」の開発した予言機械は、地球がやがて地下の火山活動による海水の生成により水没することを予言し、その対処のために研究員たちにより水棲人間養育がすでになされていたのだった。

 これ、すごいのは「私」の未来を見た第二次予言値<私>が「私」を裁くこと。
 でも、そんなことよりも、単純に、ボクが初めてこれを読んだ時(地球の温暖化とか海面の上昇とか夢の話のように受け止めたが、今はそうじゃないだろう)よりも、今こそ、読まれるべき作品ではなかろうか。ここに書かれていることは、現実に今起こりうることだ。それなのに、あの冷戦時代の2大大国の首長は何やってるんだ。お前ら、安部公房の『第四間氷期』を読め!

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 さて、そんなことよりも、この小説をボクが読んだのは、高校二年生の時、友人から勧められて。文庫版だよ。初めて読む安部公房作品だった。それがきっかけで、ずぶずぶずぶずぶと安部公房ワールドの泥沼に嵌っていったのだ。そんな初めて読んだ安部作品なので、感想よりも、このことが言いたかったのだ。
 そして、ボクが、この作品の中で忘れられない場面、1人の水棲人間が風に吹かれたくて、小島でしかなくなった陸地へ這い上がる場面だ。ボクは、ここに、現在と未来の接点というか、その孤独と絶望と強い意志に生命の根源を感じたのだ。だから、今日まで生きてこられた。
 今、地球の温暖化の危機の前でレアメタルを追い求め、携帯会社などは未来を、ここに描かれた世界に変えつつある。そして、人間がそれでも世界を支配するために感情もなくした水棲人間になるのか。そうじゃない未来を選択をするのか。それを、ボクは、今の人間たちに伝えたい。だから、この作品こそ今、読んでほしい。
 ということで、本としては、日本文学全集「安部公房集」なんだけど、『第四間氷期』再来のつもりで書いたよ。
 おしまい。


安部公房『第四間氷期』 posted by (C)shisyun


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