小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』 | 空想俳人日記

小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』

 実は、以前読んだ『まんがで学ぶ哲学入門』と同様、11月1日(土)、泰山寮「開寮記念祭」でAMIが演奏した際に、バザーで見つけたのよ。これも10円で手に入れた。

小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』01 小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』02 小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』03

 動物園や水族館にいる動物たちと同様、ボクは恐竜たちが好きなのだ。好きと言っても、そんなに熱烈なファンではないけれど、人間以上に地球上に君臨していた仲間たちが、今はいないことに、ある種のロマンを感じているだけかもしれない。
 ところが、この本の著者さんは、すごいのだ。恐竜学者と言いながら、机に向かってる時間や抗議している時間よりも、発掘に世界を駆け巡る時間のが長いほど、行動する人なのだ。そして、その成果もすごい。

モンゴル、アラスカ、カナダ。化石を求め、年間3分の1は海外へ出かける。灼熱や濁流と闘い、時にグリズリーと遭遇。探検家のように危険なフィールドを歩み、鷹のように目を凝らし続ける目的はただ一つ、歴史を変える大発見だ。そして、遂に北海道で日本初の全身骨格を発掘。カムイサウルス・ジャポニクスと命名した。世界で知られる恐竜研究者による最も熱くてスリリングな発掘記・完全版。

 身も震えんばかりの感動の数々が、ここに散りばめられている。各章に対し、少しずつコメントしたい。

第1章 恐竜学者と「化石コレクター」のはざまで
 まず「はじめに」にで、この章のクライマックスから始まり、第1章で、アラスカでのグリズリー遭遇物語となっている。
 そして、そのグリズリーを恐竜に置き換えれば、その現場はまさに恐竜時代の風景そのものだ、と。
 著者さんは、危険なフィールドを歩きながら、恐竜時代を生きてらっしゃるのだね。

第2章 あれほど欲しかった化石が、いまは憎い
 ところ変わって、灼熱のゴビ砂漠。
 ヨロイ竜を発見。間違いなく全身骨格だ、喜び勇んでみたものの、大きな腰の骨しかない。頭の骨も、しっぽの骨も、あるべきところにない。
 残念賞と思いきや、な、な、なんと、ナントの勅令、ありええへん、その大きな腰の骨の中に、折り重なるように、頭の骨としっぽの骨が包まれるようにあった。なんで? 彼は、そのヨロイ竜に何が起きたのかをはんだするところもすごい。
 そして、その骨格をジャケットに包んで、トラックに乗せるまでの技もすごい。

第3章 大発見は最終日の夕方に起きる
 まだ日本には帰れない。
 この章の目玉は、営巣地の発見だ。しかも、そのきっかけは、アマチュアの発掘ツアーの一人によるもの。広島から来た小学校教師のK子さん。テリジノサウルスのもの。
 そして、大切なのは、その卵の持ち帰ってはいけない。巣から取れば、大事な情報が失われてしまう。
 驚異の孵化率と、恐竜の鳥型への進化の話も面白い。

第4章 恐竜化石を「殺す」のは誰か
 前章に続いて、化石の乱獲を批判する章である。
 化石を商売に儲ける輩がいる。現場でガンガン壊して、金になりそうなところだけ持って帰ってしまう。
 発掘は、現地にちゃんと申請をし、見つかったんのは、その場所の国のものであること。研究するのにも、その国で研究するなり、持ち帰る場合も許可を得、その地域に必ず返却をする、それが発掘調査の掟なのだね。
 著者さんの姿勢、それは化石の売買に反対すること。

第5章 探検家ではなかったはずだが
 ここでは、著者さんがなぜに恐竜学者になったのか、そのきっかけが書かれてるよ。アンモナイト、みんなが簡単に見つけるのに、自分は見つけられない。それで、先生にもう一度来たい、そう言って、努力した結果、やっと見つかった時の喜び。自分も簡単に見つけていたら、大した喜びも湧きあがらず、今の自分はなかったかも、と。
 拍手である。そう、人間は、努力をすればするほど、その後の喜びは大きいのだ。簡単に手に入ってたら、喜びなど湧いてこない。便利であることが本当にいいことなのか、ここを読めば痛くわかる。
 そして、ここには、大学院1年の時のこと、無謀な行動に叱られながらも、発見したものを見せたら「ワンダフル」と言われた世紀の大発見「オヴィラプトロサウルス類の頭」の話も面白い。のちに、「ネメグトマイア」という新しい恐竜として命名されたげな。

第6章 世界遺産バットランドへ乗り込む
 誘われてカナダの恐竜州立公園へ。恐竜のテーマパークではない。ここは恐竜王国カナダの化石が多産する地で、ユネスコの世界遺産も登録されている。
 ボーンベッド、骨化石密集層のことで、1種類の恐竜の骨化石が密集しているのが「モノタクシック・ボーンべッド」、様々な恐竜やほかの脊椎動物が混ざってるのを「マルチタクシック・ボーンべッド」というそうな。
 白亜紀末、アジアの恐竜が北米にわたり、北米の恐竜がアジアにわたり、結果、アジアと北米期は生息していた恐竜に違いが出る。その好例が、北米のケラトプス科とアジアのテリジノサウルス類。
 発掘はやめられない止まらない話が続く。
 
第7章 危うく「ネイチャー」誌の掲載を断りかける
 大学院時代のこと、持ち帰った石(化石ではないのでいいのだ)が、なんと胃石だということが判明する。つまり、おなかの中の石だ。ワニ類の胃石は、オモリの役割。水に潜るために飲み込む。それに対し、歯のない鳥類は胃の中で食べ物をすりつぶすために石を飲み込む。オルニトミモサウルス類は何のために石を飲み込んだのか。ダチョウ型恐竜には、歯がない。鳥類と同様、意志を飲み、この胃石で消化していたのでは。このダチョウ型恐竜は、肉食ではなく、鳥類よりもベジタリアン。
 これを、著者さんは論文にして、「ネーチャー」誌に送ったそうだ。審査の結果が、全文ではなく、短報という形式で載ることに。全文じゃないので、断って「サイエンス」誌にチャレンジしようかなと、大学院の指導教授ジェイコブス博士に相談したら、怒鳴られたそうだ。馬鹿言いなさい、イエスと言いなさい、短報でもネーチャーはネーチャー、名誉なこと。
 これネーチャー誌に掲載された。日本人が書いた恐竜の論文では初めてのことだそうな。すげっ!

第8章 ついに出た、日本初の全身骨格
 いよいよ、日本で初の全身骨格発掘の話だよ。
 ことの発端は、むかわ町穂別博物館の学芸員の桜井氏からのメール。この時、著者さんは、北海道大学で教鞭をとっていた。
 メールに添付されていた画像は明らかにハドロサウルスの仲間の尻尾だ。海の地層から発見されたのだ。死んだ恐竜の尻尾だけが沖合に流れ出て化石になるはずはない。尻尾だけなら沈んでしまう。ぷかりと浮かんで沖合に流されるということは「浮き輪」になるものが必要。それはガスが充満した恐竜の死骸本体であるはず、と。
 そこから、全身骨格が発掘できる可能性があることを確信して、発掘物語が語られていく。ワクワクドキドキの章だよ。
 発掘には多大な費用と年月が必要だ。むかわ町は6千万円を予算に組んだそうだ。そんな行政も巻き込んでの発掘の結果、日本で初めての全身骨格が誕生。この「むかわ竜」との俗称は、これまでにない新たな恐竜として、「カムイサウルス・ジャポニクス」と命名された。
 めちゃすごい。日本初の全身骨格の恐竜化石だよ。
小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』04

第9章 恐竜界50年の謎“恐ろしい腕”の正体は
 またまた快挙の発掘物語だよ。
 1965年にモンゴルで発掘されたデイノケイルスの驚異の腕とヘルシンキで出会った著者さんは、自分が専門とする「オルニトミモサウルスだ」ということで、残りの骨を発掘するハイエナ作戦に出たのだ。半世紀もたっている。当時はGPSもなく、かつての発掘現場を探すのに風景写真を手掛かりにして。
 そして、快挙の胴体の骨を発見。半世紀近くたっている。ただ、頭としっぽがない。そしたら、その頭としっぽが、まさかの密輸、メネラryショーで販売されていたというではないか。
 こうして、デイノケイルスの全身骨格が完成した、いやあ、感動的だねえ。
小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』05

第10章 「命を預けて」でも行きたい極地
 また、アラスカの話だよ。足跡化石で恐竜たちの生息地や棲み分けの研究の話が出てくるのだが。
 それ以上に面白いのが、現場に赴く際のヘリコプターの操縦士の話。すがすがしい顔をしながら、「墜落したら」「助かったら」とか、身震いする話ばかりをする。
小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』06

 以上だけど、この文庫版のために書かれた「文庫版あとがき」が、いわば第10章の続きとしても書かれているので、きちんと読んだ。
 天候の関係で、現地に入れず、日頃使っているスマホのGPSではなく、ソビエトミニタリーーマップというソフトを入れたタブレットを試していたところ、それが発掘現場で功を奏した話は、なあるほど、だったねえ。
 それにしても、アラスカやゴビなど、毎度毎度同じ場所を毎年毎年訪れ、フィールドワークする著者さんの行動と実践力には、脱帽である。脳みそだけでっかちな学者じゃ泣くのよねえ。やっぱ、体で感じて味わう、大切だよね、それが生きがいであり、感動をもたらすんだよねえ。
 この本は、恐竜図鑑じゃない。冒険小説であり、人生論だよ。


小林快次『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ』 posted by (C)shisyun


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