生贄探し 暴走する脳 | 空想俳人日記

生贄探し 暴走する脳

 生贄探し・・・かつては魔女狩り。今は、マイノリティ叩きと排除。何故に起きるの?を中野信子さんとヤマザキマリさんのお二人が解き明かしてくれてます。

生贄探し01 生贄探し02

はじめに
 異物を排除する組織のことが語られてます。

第1章 なぜ人は他人の目が怖いのか 中野信子
生贄探し03
 最後の「あなたが生贄にされないために」から抜き書きします。
「足を引っ張られず、悠々と実力をつけたいと願うのであれば、まずはスパイト行動(自分が損してでも他人をおとしめたいという嫌がらせ行動)をとる人が多い環境をなるべく避けることです。実力をつけてきそうな後輩を叩いて道連れにしたり、村八分を恐れるあまり同調せざるを得なくなるような人も残念ながら多いものです。そうした環境にいては、あなたの人生は搾取される一方になってしまう。もしもそんな環境にあなたがいたとしたらすぐに抜け出すことをすすめます。長いことそんな環境に身を置いていれば、自分も無意識に誰かにスパイト行動をするように変貌してしまうかもしれません。」
 ですね。抜け出しました。仲良しこよしは、もうたくさんです。

第2章 対談「あなたのため」という正義~皇帝ネロとその毒親
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 暴君ネロの話が出てきます。なんで、ここで暴君ネロなんだろう。そしたら、ヤマザキマリさんの漫画『プリニウス』で新しい切り口。それは、ネロと母親の関係。母親は、ネロに対して毒親だったそうです。ネロの行く末を親は決めて線路を敷き、そこをネロに走らせる。あれ、これって、現代の日本にありがちな親子関係じゃないですか。
 現代日本には、そんなプチネロがたくさんいて、だから、母親の敷いた線路を上手に走って褒められて育った子どもたちは、社会に出て、戸惑う。誰も褒めてくれない。満足感の得られない彼らは、正義風邪に罹って、うまく行ってそうな人を見ると妬んで人の足を引っ張る。出てる杭を見つけて叩きまわる。
「結局、孤独とうまくつきあえていないということなんでしょうか。」
「そうかもしれません。自分で自分を評価する、という機構を、上手に使うことができない脳をわら士たちは持っているんじゃないでしょうか。」
「周りから自分が生まれてきたことを感謝してもらいたいっていうのは、つまり、この世に生きていることに対しての不安が拭えないからなんでしょうね。(略)」
「ママに褒められるしかなかったのですね。」
「ママがいないと自分の実態が見えなくなってしまう。ネロのように。」
「ネロなんですね。ネット社会がプチネロを量産している・・・」
 なあるほどねえ。

第3章 対談 日本人の生贄探し~どんな人が標的になるのか
生贄探し05
 暴君ネロは、オウムを飼ってて、ある日そのオウムが、暴君ネロが日頃毒づいて吐き散らしている言葉をネロに浴びせかける。まさにオウム返しですなあ。これ、漫画『プリニウス』のヤマザキさんとの共著とり・みきさんの提案で妄想ということになってるそうだけど、面白いなあ。現代のプチネロも日頃の暴言をオウム返しされる妄想を見ているのでしょうかねえ。
 生贄の標的になる人は、「目立つ人」「得をしていそうに見える人」なんだけど、例えば、今回のコロナ化では、自粛が正義とされている中、自粛しているとは思われないような目立った活動が見られる人が生贄になっている、ということなんでしょうねえ。だいたい、自粛という言葉を履き違えていると思う。自粛は要請すべきものなの? 正しい日本語までおかしくなってる。
 今、一番のコロナ感染の原因は家庭内感染らしい。ならば、家庭生活を自粛せにゃあかんじゃんねえ。自粛しているかどうか、自粛警察は、家庭内を監視するのですかねえ。あれか、デジタル・ファシズムみたいな監視の目が入るのかねえ。
「災害が起きるごとに社会的な排除というかたちで生贄が捧げられる、ということの説明にはなるでしょう。しかし、現代の世界にはそぐわないですよね、この生贄をささげるという仕組みは。」
「不安が溜まったり経済的に不安定になればなるほど、生贄を欲する。生贄という概念自体は本能ではないけれど、人間の文明は生贄とともにありきですよね。」
「そうですね、もう生物としての仕組みに近いところにありますね。完全に消すことは無理なのかもしれません。しかし、何か工夫ができないものかといつも思います。逸脱者を自分勝手な正義に基づいて攻撃することは、恥ずかしいことだ、と自覚させる仕掛けがあるといいのですよね。」
 そう、その通りなんだけど、みんな徒党を組むと、正義の集団に思えてきちゃうんだろうねえ。多数VS少数は多数決の論理で多数が勝ち、ということじゃないかな。

第4章 対談 生の美意識の力~正義中毒から離れて自由になる
生贄探し06
 まずは、この章で引用されているドイツのメルケル首相の言葉から。
「文化的イベントは、私たちの生活にとってこのうえなく重要なものです。それはコロナ・パンデミックの時代でも同じです。もしかすると私たちは、こうした時代になってやっと、自分たちから失われたものの大切さに気づくようになるのかもしれません。なぜなら、アーティストと観客との相互作用のなかで、自分自身の人生に目を向けるというまったく新しい視点が生まれるからです」
「親愛なる芸術家のみなさん」と語りかけ、どんな困難な状況であろうと多くの市民がみな芸術の体験を待ちわびていること、そして連邦政府の救援をサポートすると伝え、最後に「どれほどあなた方が私たちにとって大切であるかをお伝えすることも支援となりますように」と結んだ。
 私も、このコロナ・パンデミックが始まった2020年の早い時期に、彼女が「文化は、決して道楽ではない」という声明を耳にした。その時、日本の首相と彼女を交換してくれへんかな、思ったねえ。
 そうなのだ、文化や芸術やエンタメは、負のエネルギーを浄化する役割を持っている。だから、このコロナ禍で演劇やコンサートが実施されない状況下では、人々は負のエネルギーを浄化させることができず、ネットで嫌な誹謗中傷を書き込んだり、異質を排除するような非道・暴動という方向へエネルギー転換しておるのだね。
 メルケル首相は、ちゃんと分かってる人なんだねえ、経済社会が人間の生き方を縛ってしまっては、人間らしい心が失われることを。遊び心、寛容な心、そうしたものは決して無駄なものでなく、私たち人間が、全ての他者、そして、すべての生き物を、どんなに異質でも、同等に見ることができる能力なのだ。それが真の生物の多様性なのだ。
「自分は自分が大事、万人にとっても俺が大事」が暴君ネロであり、現代のプチ・ネロ。
「自分は自分が大事」というのは、生命力として推奨されるべきかもしれないが、さらに「だからこそ相手も自分が大事」だということを尊重し合う、なんだねえ。
 最後に、エドガール・モランの提唱。
「多元的ではあるが全体的ではない政治を考え出そう」
 これは、多数決ではなく、すべての国民の意志が多元的に政治へ反映されなければならないことも意味していると思う。 

第5章 想像してみてほしい ヤマザキマリ
生贄探し07
 いくつか抜き書きします。まずは「思い知らされた“世間体”という日本の戒律」から。
「われわれは、自由と民主主義が許された社会の中で暮らしていると思い込んで日々をすごしています。でも実態は、“世間体”という、具体的なかたちになっていないだけの民衆による強烈な統制力と、その時々の流動的な倫理によって形成される正義感によって、思想や行動の自由が容赦なく規制された、窮屈な環境の中に置かれているとも言えるのです。」
 そして、「想像力の欠如がヒトを危険生物化する」から。
「想像力を持ち腐れないようにすることです。自分の思っていることを自らの力で言語化せず、メディアから発信される言葉に「そうそう、これが言いたかった」だの、「この人の考えていることは自分と同じ」「思っていたとおり」などと安直に便乗してばかりいては、人の脳は退化の一途を辿ることになるでしょう。ツイッターでの引用リツイートのように、他者の考えや発言に乗っかる方が責任も回避できますし、異論者から直接攻撃を受けることもないから喜楽ではあるでしょう。」
 この「責任回避」や「喜楽」は、もちろん、おすすめではありませんよ。そんなことしてたら、自分の存在を自分で消しているだけですからね。存在の承認欲求には責任が付き纏うものですし、気楽なことなどありませんから。
 最後に、「本当の「正義」について考えてみる」から。
「自分が信じている信念に従わない他者を戒めることは、それがたとえ自分にとって、どんなに理想的な宗教的倫理や政治思想が根拠になっていようと、所詮は同調への強引な圧力というものでしかなく、正義とは言えません。」
 そう、例えば宗教で言えば、私の家系では、代々、浄土真宗でしたが、宗教は檀家とか家族とかいう単位でなく、個人的なもの。しかも他力本願が嫌いで、私の代で立ち切りました。でも、だからと言って、他の人が浄土真宗であったり、日蓮宗であったり、はたまたキリスト教であったとしても、宗旨宗派で人付き合いを区別する気は毛頭ないのです。
 もし正義があるとすれば、ここにも書かれてますが、そんな他の人が苦しみ悩んでいる時に、そっと手を差し伸べること、ではないでしょうか。そこには、見返りも、代償もありません。出る杭打ちや同調圧力に苦しんでいる人にも手を差し伸べられる、それが正義じゃないかな。

おわりに
 この今やガラスの地球である惑星上に共に生きている全ての生物たちは、みな同じ仲間であることが語られています。山を切り拓いたことで里へ下りてきたカラスも、もしかして、気候変動が生んだコロナウイルスも。


生贄探し posted by (C)shisyun


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