手塚治虫「ミッドナイト」 | 空想俳人日記

手塚治虫「ミッドナイト」

日の光 みっともないと 夜謗り 



 タクシードライバーが主人公の連作短編。無免許医の名作「ブラックジャック」が登場し、代役専門役者の「七色いんこ」が登場し、そして、この営業許可証を持たぬタクシードライバーが登場しました。「七色いんこ」は、次に話しますね。
 さて、かつて暴走族チームのボスだった頃に、少女マリを車に乗せて運転中に事故。それが原因でマリは心臓は動いているものの脳死という状態。そのマリの治療費をかせぐために、彼は夜中に無許可のタクシーを走らせている、それがミッドナイトの素性です。
 そんな設定のお話に、私は、まず、マーチン・スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」を思い起こしました。毎回「夜はいろいろな顔を持っている。その顔をひとつひとつのぞいていく男がいる。その名はミッドナイト」というフレーズで短編は始まります。こんな件は、先の映画「タクシー・ドライバー」よりも、テレビ映画、例えば随分古いですけど、アメリカのテレビドラマ、探偵さんが主役だっけ、でも何故か車を乗り回し夜事件が起きる「サンセット77」、サンセット通りの77番地だっけ、そのあたりの乗りも思い起こします。でもね、ほんとは、毎週毎週完結ドラマ、ヒッチコックさんが出てきて、このお話は・・・、とかいうヒッチコックのサスペンス劇場、そんなあたりも思い起こします。
 タクシーのお話と言えば、題名は忘れましたが、箱根峠を越えるタクシードライバーと乗客のウソかホントか分からないけど、なんだっけ、そんな短編も思い起こします。知ってる人は、ああ、なるへそ、でしょうが。
 手塚先生は、おそらく、自らの経歴や文化的素養からすれば、「ブラックジャック」とか「七色いんこ」の方のが、どちらかというと得意なる分野だと思うのですが、タクシードライバーというモチーフは、きっと日頃、日常の中で単なる交通手段だったりちょいと逃避したり、そんな感覚で憧れでもあったのではないでしょうか。私も、タクシードライバーという仕事への憧れ、ありますよ。そう思いません。
 この作品が楽しめるのは、けっして、医者であるとか役者であるとか、そういう人生の中で貫いていなければ達成できない仕事ではないんですね。でも、そうでありながら、自分の毎日が明らかに惰性ではなく、根幹に意味と意志を持っている。そういう点では、例えば、とある運送会社の若き女社長がたびたび登場することへのワクワク感は、誰にも共通の生き様なんですよね。
 それと、手塚氏の作品って、こういう場合、初めは頑張りながらも、最後はふにゃふにゃふにゃってなりかねないけど、偉くびっくりおったまげた最終回は、おおおおっ、ですよね。この最終回、本人も納得できなかったみたいで、単行本化では割愛みたいですけど、文庫化で復活したみたい。私は、この結末、いたく好きですぞ。普通なら、その後どうなったか、ワカリマセン、が楽なんだけど、大どんでん返しの結末、しかも、そこに、あのブラックジャックが登場する、おもしろいじゃないですか。
 ある意味、この「ミッドナイト」って、B級路線のお涙頂戴かもしれませんね。でも、あえて、それをやりきってしまう、この物語、私は大層好きです。