手塚治虫「白いパイロット」 | 空想俳人日記

手塚治虫「白いパイロット」

君と僕 こころウラハラ 苦労人


 シャム双生児のような双子。以心伝心というかテレパシーが交わせる兄弟。赤ん坊の時に一人は一生日の目を見ることができないだろう地下洞へ。その子の名は大助。育ての親がなんと、あの伴俊作ことヒゲオヤジなんですね。もう一人も同じ運命のはずが、女王に亡き王子のかわりと言わんばかり一人だけ拾われた、それが王子マルス。大助とマルスは双子の兄弟でありながら敵同士。そんな設定。
 大助は地下洞の仲間とさらに育ての親であるヒゲオヤジさんと脱走を企みます。その国の先鋭武器でもあるハリケーンというロケットエンジンを搭載した飛行機を奪います。でも、奪うだけでなく、その仲間の一人のちょっとした凶暴で爆撃が行なわれ、そのネタが世界各国に触れ込まれるものだから、ハリケーンという飛行機の池皿となる国は何処にもないのですね。ハリケーンという飛行機を操る空の悪魔。だから、大助の育ての親であるヒゲオヤジの祖国、つまり日本に行っても、いきなり防衛軍じゃないか、自衛隊ですか、そんなのに爆撃されるんです。
 仕方がないから彼らは、日本の何処かの離れ小島に。そこの住民との出会い、そして、彼らとの意気投合。その島は日頃から密輸団に攻められていたそうな。ハリケーンも、それだと思われた。けど、ハリケーンを乗りまわす自称、白いパイロットは、逆に密輸団からその島を守ります。
 この島の住民と密輸団の面々との争いが大きな筋に影響するわけではないですが、手塚先生、力がこもっています。なんせ、ここでのエキストラも含めたキャスティングが凄い。島民と密輸団に対し、それまでの著名な手塚作品登場キャラが総出演。片や襲ってきた密輸団の統領は見るからにガロンでしょ。そして取りまきにハムエッグやアセチレンランプはおなじみ。その他エトセトラ、お楽しみ。
 さらに島民には、なぜかアトムもいるし、お茶の水博士もいる。ハナマル博士や、ええい、いつもの馬場ノボル氏もいる。なんと手塚氏本人もいる。このお話、手塚氏はやたらなんでやのん、というシーンにも登場する。オンパレードですよ。これだけで満足。
 でも、そうじゃない。主人公の大助とマルス、途中で分かっちゃうんですが、ただの兄弟じゃない。実は父親ポスク博士がある理由のもとに開発したマシーンでの産物。彼がその実験台として選んだ実の息子。そしてダブル・マシーンという機械が生んだものは、なんとクローン人間。つまり、一人が本物で一人は複製。
 果たしてどちらが本物、どちらがクローン。生き延びるのは本物かクローンか。悲しい結末は本書に委ねたい。けれど、私たちは、ここに生まれついた星の下とか、引き裂かれた運命だとか、クローンなどという科学の行く末だとか、いろいろ見ることもできるけれど、どうなんでしょう、同じ人間といえども、その運命とか境遇とか環境とかで育つ人間が、いつぞやその相違で真っ向から反発し戦うほどの人間形成がなされるという事実もここで見てしまうのではないでしょうか。
 言い方変えながらも視点は何も変わりませんが、途中で逃走を図った白いパイロットグループである大助たちが、ちょっとした空爆とその報道により、世間、世論、世の中から悪の軍団にさせられます。世界支配を企んだおおもとの国が、それをいいネタして企んで吹聴すれば、あっという間に地球上の全ての国が白いパイロットたちを空の悪魔として見てしまう、これって、ちょっと私たちの日常に飛び交う報道、マスコミ社会の中、真実の行方が何処にあるのか曖昧になる、その現実を垣間見させられていると思いませんか。
 何が嘘で何が本当か、そのシンボリックな存在が、ここに大助とマルスというキャラで現れ、この主人公の数奇な運命が、実は、私たち人間社会の裏表でもある、と。もちろん、二人はもともと同じ人間なのですから、心はひとつ、あるシーンで、人々を救うことを優先しようと、同じ行為に走る場面もありますし、本来、そういうことが分かっててもいい神の使いである神父さんも、初めは敵対心を持ちながらも改心して彼らを受け入れるシーンもあります。
 でも、片や、説得する一番の相手である日本の首相のだらしなさ、命令の下ほんとはそうすべきじゃないと分かっていながらも手を下す警察の犬のような人種に、私たちは、これでいいのか、そう思わざるを得ない物語です。そして、先にも言いましたが、この作品も結末の悲劇は、おそらく、これからも同じことが続くであろう予感を感じさせる、いたましいラストですね。


手塚治虫漫画全集(28)