手塚治虫「タイガーランド」 | 空想俳人日記

手塚治虫「タイガーランド」

トラよりも 偉くはないけど ここ一番 



 人間に捕えられた子トラを追っかけて母トラがインドから延々と日本まで泳ぐシーンは、あのジャングル大帝を彷彿させます。しかし、このお話は、ジャングル大帝のような、壮大な自然を舞台にしたロマンチックワールドではありません。
 小さな島。日本の中でも、置いてきぼりを食らったような島。そこには、人間は、姉弟と、その祖母と、近所の爺さん。それだけ。あとは、猫を中心とした生き物たち。そこへ、日本各地で住みづらくなった生き物たちがわんさか集まるお話。
 母トラのこの島での死と、その生命の源である植物ヤマナシ。母トラの子への思いに惹かれ行動する島のわずかな人間たちと生き物。
 子トラが母を求めてこの地までたどり着いたあとの様々なドラマに、私たちは、まさに最も大切な親子の愛情を見ます。そして、周りの生き物たちも、その愛情を最優先のものとして活躍します。
 そう言えば、最近観た映画、「ホワイト・プラネット」という中、シロクマの親子、ちょいと前に観た映画、「皇帝ペンギン」のその親子、私たちは、そんな親子の愛の前に、何ものも優先できないであろう感動を味わいました。それは人であれば、誰の心にもあるはずの最優先課題。なのに、どうでしょう、それを後回しにする現代社会の構図。
 どうして、それを結果的に引き裂かざるを得ない行為に出るのでしょう。どうも、それよりも、もっと最優先しなければならない、別の優先課題が人間にはあるようですね。
 さて、それは、果たしてナンボのもんなんでしょう。
 ここでの島は、タイガーランド。そういう名前に落ち着いた。人間もいるのですよ、でも、その人間たちが仕切るのではない、合議のもとに、母を訪ねて三千里の子トラに託す。そんな子トラの前に、人間たちも、ひとつの生物として素直な生き方。
 私たち、これを見て、ちょっと無理かもしれないけれど理想的だから賛意を表したい、そう思うのではないでしょうか。それよりも、何言ってんの、こんなの絵空事でしょう、そんでよしとする人々がいたら、あれまあ、人間はもう、ちょいとやばい生き物かもしれません。
 あちこちで偽善者ぶりっこが続出する中、ほんまにタイガーランドで暮らしたい人がいれば、その人たちこそ、ジャパンランドという、日本列島に永劫不滅住みつづける人々でしょうね。


タイガーランド