長尾重武「建築家レオナルド・ダ・ヴィンチ」 | 空想俳人日記

長尾重武「建築家レオナルド・ダ・ヴィンチ」

レオ様は 人間ジャングルの 大帝よ 



 レオナルド・ダ・ヴィンチを単なる画家とか芸術家だけで留めて考えたくない人々はたくさんいらっしゃるのではないでせうか。もちろん、「最後の晩餐」とか「モナリザの微笑」などは、きっと素晴らしい作品なんだろうと思いまする。思うというのは、私自身、それらよりも、違う絵画(例えば「聖ヒエロニムス」「岩窟の聖母」など)が好きだったりするし、それ以上に、他の分野での才能が魅力的なのです。だから、東京に「モナリザの微笑み」が展示された時でもわざわざ観に行くなんてありえなかったし。まあ、それは、いくら近所で「愛・地球博」にマンモスが出品されても行く気にならなったことと同じ感覚かもしれませぬが。
 さらには、何も「ダ・ヴィンチ・コード」が世界的爆発ヒットし、しかも映画化されるなんてことから引き合いに出しているわけでもござりませぬ。私は、彼を学生時代から勝手にお師匠などと思っておりまして、それは、できあがったものに対してではないのでございまする。
 確かに「モナリザ」も「マンモス」も凄いのでありませうが、「マンモス」よりも、やっぱり「イグアノドン」なんでしょうねと思うように、「モナリザ」よりも、ボッティチェルリ「ヴィーナスの誕生」じゃないでしょうか。当のダ・ヴィンチ自身もボッティチェルリを超えたかったらしいっすね。有名な目の上のたんこぶ的ミケランジェロの話は有名のようですが、ミケランジェロにしてもダ・ヴィンチにしても、絵画の面でボッティチェルリ以上かどうかと言えば、どんなんかなあでしょうねえ。ミケランジェロは彫像に逃げ道があったようでして、それすらダ・ヴィンチ自身も太刀打ちできていたのでありましょうか、なんてね。
 でも、そんなことはどうでもよろしいのじゃありませぬか。何故なら、ダ・ヴィンチは建築家でもあり、舞台衣装家でもあり、何よりも空想家なんでありますから。実際に彼が設計した建築物を目の当たりにしたことがあるお方がいらっしゃるかどうか、どうも、それは分からない、いらっしゃりそうにない、実現されていない、です。しかし、彼ほど、建築も含めて多岐にわたるストレスの逃げ道を用意し、あちこちで捌け口を創造というか、想像に費やしていた人物は少ないのではないでしょうか。
 この「建築家レオナルド・ダ・ヴィンチ」という書物は、何も建築的要素だけに言及している読み物ではありませぬ。むしろ、芸術分野だけには終わらないダ・ヴィンチを総合的に理解する上で、とてもありがたい書物でありまする。例えば、現代の歩車分離の理想も既にそこにありながら、エッシャーの摩訶不思議なる絵の如き空想的メカニズムも備えていらっしゃることをありありとご教授いただける代物でございまする。
 これこそ、出来上がった作品よりも、その絶えず空想し想像し創造し構想したレオ様の生き様が大好きなお方にとって、素晴らしい資料なのでありまする。

長尾 重武
建築家レオナルド・ダ・ヴィンチ―ルネッサンス期の理想都市像