久しぶりにライブを行うことになり、スピッツをカバーしました。
ベースの田村明浩さんについて詳しく知りたくて、色々と情報を集めた結果、
インターネット上の情報では飽き足らなくなり、本書を手に取ったのでした。
著者の伏見瞬さんの本を読むのは初めてなのですが、教養の豊かさに驚いたのです。
スピッツ後期の作品に『とげまる』がありますが、この「とげ」に象徴されるパンク性と
「まる」に現れているポップ性がバンドの特徴であることが、精緻な文体から分かりました。
伏見さんはハンナ・アーレントを愛読されているようで、「とげ」と「まる」以外にも
様々なテーゼとアンチテーゼを展開して論考を重ねて行きます。
それをドイツ観念論の言葉で書けば綜合(アウフヘーベン)であると考えているのですが、
本来なら分裂しそうなコンセプトがポップ音楽の中で有機的に存在していられるというのが、
スピッツの魅力であることが理解できました。
田村明浩さんの演奏に関しても、ルートに対する2度の音程を多用しているのが特徴でして、
これは90年代にジャズ系のミュージシャンにレッスンを受けたことが影響していると考えています。
そして、ザ・フー(ジョン・エントウィッスル)やクイーン(ジョン・ディーコン)といった洋楽バンド
のベーシストが尊敬の対象であったことを踏まえると、「不協和音・ジャズ」と「協和音・ロック」の
綜合という構図も見えてきました。
良質なライナーノートを読んでいる感覚になり、人生が豊かになりました。