小澤征爾、モーツァルト、シューベルト、死と乙女、ゴダイゴ、銀河鉄道999、短調、長調、転調、三寒四温、指揮者、作曲家、シチリア舞曲、クラシック音楽。

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歴音18.三短四長(小澤征爾さんを偲んで・続編)



前回コラムでは、「未来への指揮(小澤征爾さんを偲んで)」を書きましたが、さまざまな方々からメッセージを頂戴し、誠にありがとうございました。
この場を借りて、深く感謝申し上げます。

 

 

今回は、小澤さんが残した言葉などを含め、続編を少し書きたいと思います。


◇三寒四温

今年の、冬の終わりの「春の足音」が聞こえ始めた この時期は、とにかく寒暖の差が激しく、東京では、2月5日に雪が降った後、2月20日には気温が24度になり、2月23日にまた雪が降りました。
気温20度超えは、4月下旬から5月上旬の気温です。
汗をかきながらアイスクリームを食べた次の日に、熱いおでんを食べるようなことですね。
2月の短期間に、これほどの寒暖差は記憶にありません。

毎年、春先の気温が安定しない気候を表現する言葉に「三寒四温(さんかんしおん)」がありますね。
三日間 寒い日が続いた後に、四日間 暖かい(温かい)日が続き、この7日間くらいの周期を繰り返した後に、本格的に暖かな春の気候がやって来ることを意味しています。

とはいえ、寒い気温と、暖かい気温の差が20度ほどもある、これほどの気温差は、中高年には たまったものではありません。
身体にも負担が大きく、精神的にも不安定なり、体調を崩す方も続出していますね。

この言い知れぬ不快感とストレス… 「音楽に例えたら、何だろう?」と意味もなく考えてしまいました。

この 目まぐるしい「寒」と「暖」の繰り返し…、上がり下がりの大きな落差…、音楽でいえば、「短調」と「長調」の目まぐるしい「転調」や「移調」なのかもしれませんね?


◇三短四長?

本コラム「歴音fun」では、音楽の仕事にたずさわる方、音楽を勉強中の方、音楽を聴いて楽しむ方など、いろいろな方に読んで頂いています。

ここでは、音楽の「短調と長調」、「全音と半音」、「和音」の理論について詳しく書きませんが、今は、ネット上にさまざまな解説動画がたくさんありますので、学生さんや、ご興味のある方は、機会があったらご覧になってみてください。

膨大な数の解説動画の中から少しだけ…
(理論に興味のある方はどうぞ)

解説動画

解説動画

解説動画

解説動画

音楽の仕事でもしていなければ、特に知識として必要な内容ではありませんが、音楽を聴いて楽しむ中で、その存在を知っておくと、新たな音楽の楽しみ方ができるのかもしれませんね。

あくまで、一般的な認識として…、
「短調」は、少し暗く、感傷的で、ロマンチックな音楽性!
「長調」は、元気で明るく、気分上々の音楽性!
…そんなイメージを持っている方が多いと思います。

まるで、「三寒四温」の「寒」が短調、「温」が長調のようにも感じませんか。
上がったり下がったり、急転回したり… まさに「三短四長」か!?
(注:あくまで本コラムだけの造語です。乾電池のサイズではありません。)

作曲家、作詞家、指揮者、演奏家、歌手、音楽教育者などの音楽にかかわる方々は、この「短調」「長調」を強く意識しながら、音楽に接していますね。


◇変化の戦術

作曲家たちは、短調や長調、曲の中での転調や移調などを駆使しながら作曲を行っていきます。
「暗さ」と「明るさ」、「感傷」と「元気」、「悲しみ」と「喜び」など、調性が作り出す雰囲気や、急激な転調による変化、気持ちの上がり下がりを、意図的に作り出したり、繰り返すことで、音楽作品をより魅力的に作り上げていきます。
まさに、音楽づくりの戦術といっていいですね。

こうした、音楽の中の、何かの 変化、抑揚、うねり、転回(展開)のような戦術は、他のどの分野にも、まさに人間が繰り出す「必殺技」として存在していますね。

音楽の分野の戦術としてだけでなく、小説・コラム・ナレーション・スピーチ原稿などの文章でも、映画やテレビなどの映像作品でも、囲碁や将棋などのゲーム戦術でも、企業の広告宣伝やビジネス戦略でも、スポーツなどの試合の戦術でも、建築デザインや美術などの世界などでも、しっかり存在していますね。
時に、恋愛戦術でも…。

野球でいえば、投手が必殺の勝負球にたどりつくまでの緩急や変化をつけた投球術であったり、打者による意図的な空振りや 見せかけの狙い球にも似ています。
とにかく、相手をかく乱させるような戦術です。

この「変化」や「転回(展開)」が、大きければ 大きいほど、成果や感動が大きいのかもしれませんね。

* * *

音楽作品の中にある、予想していなかったような「短調」と「長調」の転調などの変化は、聴くものに大きな驚きや感動を与えてくれます。
「ここで、そうきたか!」というような、予期していない展開ですと、より効果的ですね。

 

ロック音楽のドライブ感、ジャズ音楽のスイング感、日本民謡の間や合いの手なども、変化や展開の妙ですね。
 

自然界での、予想外に大きすぎる気温の変動は勘弁してほしいですが、音楽であれば、その変化が、意外であればあるほど、カッコよく聴こえるのかもしれませんね。

* * *

音楽作品は、作曲と作詞が同時進行の時もあれば、作曲が先、作詞が先など、さまざまな作り方があります。

作詞家は、そのメロディと調にあわせて、言葉を選択し作詞することもあれば、作曲家のほうが、その歌詞にあわせて調整して作曲することもあります。

文筆家たちも、作曲と同じように、その文章表現の中で、何かを落としておいてから持ち上げたり、持ち上げておいてから落としたりと、上がり下がりの変化をつけた文章テクニックを駆使して、より「おもしろみ」のある文章を構築しようとしますね。

本コラムを読んで頂いてる方の中には、NHKの大河ドラマや朝ドラを見ておられる方も多いですが、映像制作の場合でも、毎回の放送内容の中に、上がり下がりの「変化」が作られていることが多くありますね。

一本調子の単純な「単調」が、文字通り、一番おもしろくありませんね。

「変化」や「落差」は、人をドキドキさせます。
困惑させます。
不安にさせます。
興奮させます。
有頂天にさせます。
そして、予想もしていなかった大転調で、より おもしろくなりますね!
もう、転調 やみつき!

* * *

実は、地球の寒暖差も同じ…。
四季である、それぞれの「春」「夏」「秋」「冬」の間には、どちらともつかない何か不安定な時期があります。
「ずっと寒い」の後に、「三寒四温」。
「三寒四温」の後に、「春らんまん」と「若葉の季節」。
「爽快な若葉の季節」の後に、「雨ばっかりのジメジメ」。
「ジメジメ・ジトジト」の後に、「スカッと開放的な暑さ」。
「いつのまにかカンカン照りの酷暑」の後に、「心地よい 実りの秋・肥ゆる秋」。
「しっかり蓄えた秋」の後に、「ずっと寒い」が、また やって来ます。

「厳しさ」と「優しさ」が順繰りにやって来ますね。

日本の一年間の四季は、「転調」の繰り返し! 変化だらけ!
上ったり 下がったり!
でも、だからこそ、四季は おもしろい!

音楽を聴くときのように、「上ったり下がったり」の変化や、転調を楽しみながら、不安定な気候の時期を、しっかり乗り越えていきましょう!

三寒四温は、三短四長!
変化と転調を楽しんじゃえ!


◇銀河鉄道999

ここで、短調と長調を巧みに繰り返しながら、高揚感をどんどん高めていく楽曲を…。

ゴダイゴの1979年(昭和54)の大ヒット曲「銀河鉄道999(スリーナイン)」です。
もちろん、同名アニメの主題歌です。

細かな転調テクニックを、適切なところで使って、終着駅に向かって、どんどん盛り上げていきます。
作られたのが、歌詞が先か、曲が先か、私は知りませんが、「調」にあわせて、歌詞内容も巧みに調整されていますね。

作曲法に詳しい方でなくても、一番の歌詞「あの人はもう…」のところで、何か急に雰囲気が変わることが よくわかると思います。

「思い出になってしまった あの人」を思い出すという、少し「短調」的な感傷的歌詞内容で転調し、その後に、もう一度、何かの不安を吹き払って、元の元気を取り戻し、階段を一歩ずつ上りながら、クライマックスの歌詞部分に突き進み、疾走感を爆発させます。
「あの人が見守ってるぞ! 行け~、進め~ 銀河鉄道!」

プロの音楽家は、いろいろ計算しながら作曲していきますが、意識しなくとも自然に作れるようになっていきますね。
音楽家も、文筆家も、映像監督も、スポーツ選手も、将棋の棋士たちも…、プロは、知らないうちに たくさんの戦術を使っていますね。

作詞は、奈良橋陽子さん(英語詞)と、山川啓介さん(日本語詞)。
作曲は、タケカワ ユキヒデさん。
編曲は、ミッキー吉野さん。

ゴダイゴ
♪銀河鉄道999(1979・昭和54)

 

作詞家も、作曲家も、指揮者も、演奏家も、歌手も、こうした音楽の戦術部分を強く意識しながら、音楽表現をしていきます。

歌手や演奏家の中には、声質も、音質も、歌唱法も、演奏法も、転調にあわせて、変化させていく方も多くいます。
クラシック音楽のオーケストラであれば、指揮者が、すべてをコントロールしますね。

指揮者、演奏家、歌手たちが、音楽作品の中にある さまざまな戦術を、どのような意識で、どのように表現しようとしているのか、今度 聴くときに、どうぞ探ってみてください。

演奏者がまさかの… こういう意表を突いた変化球はいかが…。
♪銀河鉄道999

 


◇死と乙女

次に、「長調」と「短調」をめまぐるしく転調させる、不安と安らぎのドキドキ感いっぱいのクラシック音楽曲です。
シューベルトの「弦楽四重奏曲 第14番」について書きます。

実は、この楽曲は「死」がテーマになっています。
シューベルトの弦楽四重奏曲の第14番は、「死と乙女(おとめ)」とも呼ばれます。
彼自身が過去に作った歌曲「死と乙女」を、第二楽章の一部に転用したためです。

「死」と「乙女」という、まるで真逆のような二つの言葉が並んでいますね。
この歌曲の歌詞内容は、若い乙女が、近づいてきた死神に、「助けてほしいの。あっちへ行って」と懇願しますが、死神は、乙女に言います。
「私は、お前を罰するために来たのではない。お前に安息を与えに来たのだ。私の腕の中で安らかに眠れ」と。
こうして 乙女は永遠の眠りにつくという内容です。

実は、シューベルトが、この「弦楽四重奏 第14番」を作ったのは、彼が不治の病におかされ、死をさとった1824年のことです。
彼は、その4年後の1828年に31歳で亡くなりました。

彼は、自身の「死」と、どのように むかい合おうとしたのか…。
どうして、自身の昔の歌曲「死と乙女」を再び使おうとしたのか…。

「死を待つ」とは絶望だけではない… シューベルトが音楽でそれを伝えてくれているのかもしれませんね。

* * *

「長調」と「短調」をめまぐるしく転調させる、弦楽四重奏曲の「第14番」ですが、下記のNHKの番組映像で、彼の転調テクニックと、第二楽章の変奏テクニックの説明をしています。
まさに、弦楽器奏者の腕の見せどころ!

下記映像の28分50秒から、同曲の有名な「第二楽章」です。
シューベルトが残した、シューベルト自身の死の音楽なのかも…。

 

 

複雑な転調を繰り返すことで、死への不安感や、それを乗り越えようとする心境、死への複雑な思いを表現したように感じる楽曲ですね。
「死と乙女」という副題にも関わらず、何か「安らぎ」さえ感じさせてくれる名曲です。

シューベルト 弦楽四重奏曲 第14番「死と乙女」より
♪第二楽章

 

小澤征爾さん指揮による水戸室内管弦楽団の演奏です。
シューベルト 弦楽四重奏曲 第14番「死と乙女」より
♪第二楽章

 


◇シチリア舞曲

ちょうど、これを書いている最中に、NHKラジオ放送から、下記のクラシック音楽曲が流れてきました。

ピアニスト・歌手として活躍し、治療の甲斐なく 若くして失明してしまった、オーストリアの女性音楽家のパラディスが作曲したと伝わっている「シチリア舞曲」です。

実は、彼女が作曲したかどうかは、確定されていません。
他にも作曲者ではないかとされる候補がいます。

この「シチリア舞曲」は、「短三和音(マイナーコード)」と「長三和音(メジャーコード)」が繰り返される楽曲で、切なさと明るさが混在するような楽曲です。

三和音の解説(理論に興味のある方はどうぞ)
解説動画

解説動画

もし、この楽曲が彼女の作曲であれば、目が見えたり、見えなかったりする不安や、目にしていた栄光の光景を思い出して表現したのかもしれません。
とはいえ、逆境も、栄光もしっかり受け止める、凛とした女性の前向きな姿を感じさせるような楽曲ですね。

パラディス作曲と伝わっている楽曲
♪シチリア舞曲

 

* * *

モーツァルトの「ピアノ協奏曲第18番 変ロ長調」は、1784年に、パラディスのために作られた楽曲だといわれています。

彼女は、1777年頃には失明したといわれていますが、1790年代の終わり頃まで、精力的に音楽活動を行ったようです。
失明後も、ピアノ演奏は相当に正確であったようで、音楽活動だけでなく、盲学校の設立にも尽力した、逆境に強い たいへんに活動的な女性でした。

モーツァルトが、この楽曲を彼女のために作ったのは、彼女の失明後の1784年のことです。
モーツァルトにしてみたら、3歳年下のパラディスは、失明したとしても、たのもしい妹に見えていたのかもしれません。
モーツァルトは、この楽曲を作った、その7年後の1791年に35歳で亡くなりました。
パラディスは、1824年に64歳で亡くなりました。

モーツァルト
♪ピアノ協奏曲第18番 変ロ長調

 


◇小澤さんの言葉

今回のコラムでは、「短調」や「長調」などの音楽理論のことを、少し書いてきました。
つまり、音楽の「技術」のお話しでした。

本コラムの最後は、小澤征爾さんの、数多い言葉の中から、十言だけ ご紹介します。

小澤征爾さんの残された言葉です。

* * *

(1)技術の上手下手ではない。その心が人を打つ。

(2)お客さんは、音楽会に来て、幅があったり、高さや深みがあったりすることで、その曲の一番いいところを聴いたなあ、と満足してくれるわけですよね。

(3)楽譜に書いてある通り、非常に几帳面にやって、規則に合ったことをやって、「はい、これで終わり」の演奏会をされたら、みんなバカバカしくなって、音楽会に来なくなっちゃいますよ。

(4)音を ただ並べるだけでは音楽にならないわけで、どうやって、作曲家が紙に書いたものを音楽に戻すかと、ここのことですよね。

(5)音楽は、非常に「個」の強いものです。
一人一人の経験の中から、じわじわっと出てくる。

(6)集中力っていうのは、天才のものじゃないんだ。訓練だ。

(7)できる者ではなく、最低の者のレベルを上げることこそ、教える者の技である。

(8)意外に多いですよ。両親に言われて音楽家になって、ずーっと勉強していて、ハッと気がついたら音楽が余り好きじゃなかったというような人が。

(9)テレビで見たり、インターネットで調べたりで、世界を知った気持ちになってしまう。
たしかに、私たちが若い頃よりも はるかに海の向こうの情報は入ります。
でも、それは、他の誰かの体験であって、自分自身の経験ではありません。

(10)日本製の地球儀を眺めると、日本が赤く塗られていますでしょ。
世界全体から見ると、日本語圏はあれっぽっちです。
そこだけの価値観で一生を過ごすのは、もったいないですよ。

以上が、小澤征爾さんが残された言葉のごく一部です。

* * *

未来の音楽界を担う、若者たち、子供たち… 音楽家を目指す中で、「三寒四温」の辛さはあるかもしれませんが、小さな価値観に縛られず、世界にどんどん羽ばたいていってください。

小澤征爾さんの後に 続こう!

* * *

2024.2.25 天乃みそ汁

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