ウルトラセブン、シューマン、ショパン、リヒャルト・シュトラウス、冬木透、円谷プロ、アルプス交響曲、ピアノ曲、クラシック音楽。

 

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音路63.アルプスとライン川を越えて(The ウルトラ.8)

 


今回は、連載「The ウルトラ」の第八回になります。

今回の第八回は、この連載のひとまずの締めとして、ウルトラセブンのお話しを中心に書きたいと思います。
第九回以降は、しばらくした後に再開いたします。


◇ウルトラセブン誕生

「音路58.あなたの中のウルトラマン(The ウルトラ.3)」で、ざっくりと、円谷プロが制作した「ウルトラシリーズ(空想特撮シリーズ)」の初期作品の歴史を書きました。
下記の(番号)が、円谷プロのウルトラシリーズです。

(1)ウルトラQ(1966・昭和41年 1 ~ 7月)
(2)ウルトラマン(1966・昭和41年 7月 ~ 1967年4月)

◎快獣ブースカ(1966・昭和41年 11月9日 ~ 1967年9月27日)…円谷プロ作品

(3)ウルトラセブン (1967・昭和42年 10月 ~ 1968年9月)

◎怪奇大作戦 (1968・昭和43年 9月 ~ 1969年3月)…円谷プロ作品
この番組は、TBSのウルトラシリーズに含まれていました。

◎マイティ・ジャック(1968・昭和43年 4月6日 ~ 6月29日)…円谷プロ作品
◎戦えマイティ・ジャック(1968年7月6日 ~ 12月28日)…円谷プロ作品

ここまで、多くのヒット作を生み、猛烈に仕事に取りくんできた円谷英二さんが、1970年(昭和45)に病気で亡くなられます。
ウルトラマンの生みの親の円谷英二さんは、「帰ってきたウルトラマン」の構想・タイトルなどをつくり、そのドラマ制作は後継者の方々が行いました。

(4)帰ってきたウルトラマン (1971・昭和46年 4月 ~ 1972年3月)

◎ミラーマン(1971・昭和46年 12月 ~ 1972年11月)…円谷プロ作品

ここまでの、ウルトラ名の主要な初期作品や、ミラーマン、ブースカなどの円谷プロ作品が、怪獣人気を一気に拡大させ、現在まで続くウルトラシリーズや怪獣人気の「礎(いしずえ)」になったのは間違いないと思います。

* * *

ここまでに登場したウルトラヒーローは、実は二人です。
ミラーマンは、ウルトラヒーローではありません。

もともと、初代ウルトラマンが、時代を経て地球に戻って来たという設定が「帰ってきたウルトラマン」でした。
銀色と赤色の身体の「ウルトラマン」に対して、妙に赤色づくしの「ウルトラセブン」です。

もともと、「ウルトラセブン」は、初期構想では「レッドマン」という西洋風の鎧(よろい)を身に着けたデザインのヒーローでした。
つまり、ミラーマンのように、初期構想ではウルトラシリーズのヒーローではなかったのです。
ですから、ウルトラマンにはない、異なる特徴がたくさんあります。

上半身に「鎧(よろい)」を付けた、武田軍・真田軍を思い起こさせる赤備え(あかぞなえ)の武士のような姿。
頭にあるのは「ちょんまげ」ではなく、れっきとした「アイスラッガー」というブームメランのような、投げて戻ってくる武器!
このアイスラッガーは、忍者の武器である「双刃鎌(そうじんがま))のように、手に持って使うこともできます。
ウルトラマンとウルトラセブンは、似ているようでいて、実は、まったく異なるキャラクターでした。

パッと見でも、ウルトラセブンとウルトラマンは、相当に違いますよね。

後のウルトラシリーズでも、ウルトラマンの系統と、ウルトラセブンの系統のヒーローに二分されて、多くの新キャラクターが登場してきますね。
初期作品の「初代ウルトラマン」と「ウルトラセブン」という二人の存在が、後のウルトラシリーズを決定づけたといっていいのだろうと思います。


◇7人目の赤い男

では なぜ、「レッドマン」が「ウルトラセブン」と呼ばれているのか…。
ウルトラマンに「科学特捜隊」がいたように、ウルトラセブンには「ウルトラ警備隊」と呼ばれる、人間により組織された地球防衛隊が登場します。
ウルトラヒーローとともに、地球の平和の維持に まい進する人間集団です。

「ウルトラ警備隊」には6人のメンバー(キリヤマ・フルハシ・ソガ・アマギ・アンヌ・モロボシ ダン)がいました。
そこに最強の警備隊員として「赤い男(レッドマン)」が追加で存在しています。
つまり、7人目のウルトラ警備隊員の「ウルトラセブン」です。

実は、ドラマの中では、ダンを除く5人のメンバーは、「モロボシ ダン」こそがウルトラセブンであるということを、最後の瞬間まで知りません。
最後のその時に、その5人のメンバーは、6人目と7人目の者だと思っていた存在が、実は同一の者だと知るのです。
「シックス」と「セブン」は、実は同一人物でした!
テレビ視聴者は、とっくに、みな知っていましたね。

後で、その「最後のその時」の映像をご紹介します。


◇侵略は、今現代の目の前のお話し

この「7」という数字については、多くの方が黒澤映画の「七人の侍」(1954年・昭和29)を思い起こしたはずです。

赤備え(あかぞなえ)の身体に、鎧(よろい)を身につけ、頭には「ちょんまげ」のような形の武器を持っていて、忍者のようなスタイルの戦い方もする「ウルトラセブン」という存在は、ウルトラマンとはまた異なるウルトラヒーローとして、世の中に、あまりにも強いインパクトを与えました。

* * *

ウルトラマンのドラマには、星人と呼ばれる宇宙人よりも、どちらかというと、特異生物の怪獣のほうが多く登場します。
一方、ウルトラセブンのほうには、「侵略」「征服」を目論む、頭脳の優れた宇宙人が、地球に侵攻を始めるというお話しのほうが多いと思います。
ウルトラセブンの敵は、知能の高い宇宙生物たちだったのです。

1967年(昭和42)の初代ウルトラマンの登場により、時代は、本格的な「怪獣ブーム」に突入しました。
ただ、時代は確実に宇宙時代に向かっていましたね。

米国のアポロ11号が月着陸に成功、「月の石」を地球に持ち帰ったのが1969年(昭和44)で、ウルトラセブン放送の翌年です。
1961年(昭和36)からスタートした「アポロ計画」は、10号機まで、月面着陸を達成できませんでした。
つまりウルトラセブン放送時は、月着陸目前で、人々の宇宙への関心が最高潮に達しようとしていた時代です。
「今度のアポロ・ロケットは、無事に月にたどりつけるのか…」。

1970年(昭和45)の大阪万博では、アメリカ館に飾られた、その「月の石」を見たくて、数時間の大行列でしたね。
わが家も、数時間 行列に並び、プラスチックケースに入った、妙な色の「月の石」のレプリカを買ってきました…今、家のどこにあるのか?

1969年誕生の明治製菓のチョコレート「アポロ」は、地球帰還時の司令船の形ですね…、昭和のかたちを、今でも残すお菓子です。
あの「三角すい」の中に、人間が入って、無事に地球に帰還しました。
懐かしい、昭和の思い出ですね。

初代ウルトラマンの敵は怪獣が中心でしたが、ウルトラセブンの敵は、「地球侵略」を目論む、知能の高い宇宙人「〇〇星人」にかわりました。

* * *

実は、ウルトラセブンも、人類である地球人も、ある意味みな「宇宙人」ですね。
宇宙人(地球人)の中には、侵略を企てる者、攻撃を行なう者がいる一方、平和のための防衛行動を行う者もいます。
今、地球上の地球人の中にも「侵略・侵攻」に躍起になっている者たちがたくさんいますね。

ドラマ「ウルトラセブン」の中で描かれている、多くの「侵略」のお話しは、実は、遠い昔のお話しや、遠い未来のお話しではありません。
今の時代の、目の前のお話しですね。

* * *

黒澤映画「七人の侍」は、侵略をする者たちではなく、侵略・侵攻してくる敵から民衆を守る7人のヒーローとして描かれていましたね。
ウルトラセブンの中の「七人の侍」も同じです。

ドラマ「ウルトラセブン」の中では、「侵略」という内容について、さまざまな問題提起や考察が描かれていましたね。
さらに、ドラマの中では、「ウルトラ警備隊」の中の人間ドラマも多く描かれていました。

このドラマは、実は、怪獣や宇宙人を撃退する痛快娯楽ドラマというだけでなく、さまざまな「侵略」に立ち向かう、七人の侍が織りなす人間ドラマだったのだろうと思います。

1967~68年(昭和45~46)放送の
♪ウルトラセブン

 


◇ウルトラヒーローには、永遠のパワー音楽を

「音路59.赤と銀の影 ~ 初代ウルトラマン・前編 (The ウルトラ.4)」の中で、「ウルトラQ」と「ウルトラマン」の音楽を担当された 宮内国郎(みやうち くにお / 1932~2006)さんの音楽について書きました。

ジャズ畑出身の宮内さんは、1920~30年代の米国はもちろん世界中を席捲した、米国の音楽家ジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)の音楽に強く傾倒され、ウルトラマンの音楽の中に、ガーシュウィン風のメロディやサウンドを随所に盛り込んできます。
まさに、1920~30年代の米国の華やかさを象徴するようなアメリカン・サウンドが、ドラマ「ウルトラマン」の中には ありましたね。

もともと、ガーシュウィンの音楽は、クラシック音楽とポピュラー音楽を融合させたような自由な音楽スタイルで、純粋なクラシック音楽曲もあれば、ポピュラー音楽としてヒットしそうなジャズ系の音楽曲もあります。
ガーシュウィンは、数々のオペラやミュージカル用の音楽も作っています。
彼の、クラシック音楽の管弦楽法を取り入れたジャズ音楽分野は、「シンフォニック・ジャズ」と呼ばれ、欧州のクラシック音楽とも、ジャズ音楽とも、かなり違う雰囲気を持っていましたね。

今でも、初代ウルトラマンの音楽は、他のどの音楽とも違う、ウルトラマンならでは独特な雰囲気を持っており、その最初の音色を耳にしたとたんに、多くの方が、ウルトラマンの音楽だと理解しますね。
ガーシュウィンゆずりの、華麗で優雅な音楽サウンドは、まさに米国の大繁栄期や、日本の高度成長期を思い起こさせるパワーに満ちている気がします。

円谷プロは、ウルトラQにせよ、ウルトラマンにせよ、音楽の重要性を強く意識していたのは間違いありません。
子供が喜ぶ程度の音楽でいいという思想は、まったくなかったはずです。
世界が納得する「世界基準」の音楽を、ウルトラシリーズに投入する意気込みを持っていたに違いありません。

私の個人的な意見ですが、初期のウルトラシリーズが、これらの音楽でなかったら、今現在に至る永遠のヒーローシリーズになりえなかったのではないでしょうか。


◇セブン! セブン! セブン!

「ウルトラQ」、「(初代)ウルトラマン」の宮内音楽に続く、「ウルトラセブン」にも、円谷プロの「音楽魂」が注がれました。
初代ウルトラマンが、ガーシュウィンの「シンフォニック・ジャズ」風の華やかな音楽であるなら、ウルトラセブンは壮大なクラシック音楽でドラマ全体を雄大に華麗に飾りました。

ですので、「ウルトラセブン」と、その後の「帰ってきたウルトラマン」には、音楽家の 冬木 透(ふゆき とおる)さんが起用されました。
冬木さんは、クラシック音楽家の「蒔田 尚昊(まいた しょうこう)」さんの別名です。
ウルトラセブンの音楽の中にある、何かクラシック音楽の持つ格調の高さや雄大さは、冬木さんのチカラによるものですね。

そのため、今でも、ウルトラセブンの楽曲は、クラシック音楽のコンサートのかたちで演奏されることも多く、他のウルトラシリーズの音楽とは、少し別のもののように私は感じています。

* * *

ウルトラシリーズの中でも、クラシック音楽の雰囲気を放ち、独特の存在感を持つ「ウルトラセブン」です。
まさに、クラシック音楽と、ヒーロードラマの融合!

クラシック音楽ファンの皆さま…、あのクラシックの名曲たちを思い出すはずです!
ウルトラセブンの音楽を一部だけ…

 

 

* * *

下記映像は画質が少し悪いですが、「モロボシ ダン」ほか関係者も 会場にたくさんおられます。
もちろん、冬木 透さんが指揮!

下記のオーケストラ演奏を聴いて、昭和世代のお父さんたちは、きっと、燃えて立ち上がる!
オヤジたちだって、かつては夢と希望に燃えていた!

立ち上がれ!
セブン!セブン!セブン!

♪ウルトラセブンの大合唱(冬木透さん指揮:セブンも子供たちも参加)

 

下記映像のほうが、同曲(8分あたりから)の画質がきれいです。
冬木さんの作品「ウルトラセブン」「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラマンレオ」の合唱です。
♪ウルトラセブンの大合唱(冬木透さん指揮)

 

♪交響詩「ウルトラセブン」1

 

♪交響詩「ウルトラセブン」2

 

♪交響詩「ウルトラセブン」3

 


◇アルプスとセブンを感じて…

「ウルトラセブン」の主題歌は、昔から、クラシック音楽ファンの一部のあいだで話題になったものです。
「クラシック音楽の作曲家リヒャルト・シュトラウスの『アルプス交響曲』は、まるでウルトラセブンが出てきそうな音楽だ」…と。

邦楽曲に限らず、洋楽曲でも、クラシック音楽に似たメロディを含んだヒット曲は、たくさんありますね。
クラシック音楽世界の中に存在したままでは、多くの人々に知られることのなかったメロディが、後の時代に別の形に変化し、新たな完成作品となって、多くの人の称賛を浴び、人々に感動と勇気を与えるのなら、それも素晴らしいことだとも感じます。
歴史の中の、クラシック音楽の大作曲家たちも、たくさん行っていますね。
音楽作品は消えてしまったら、永遠に戻ってきません。
私は、「ウルトラセブン」は、新しい完成形だと感じています。

昭和の時代には、ウルトラセブンをテレビで見たことから、クラシック音楽に興味を抱きはじめた子供たちが、実際に たくさんいましたね。
そうした現象も、非常に大事なことだと感じます。

* * *

前述のリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」は、昔から、クラシック音楽と登山を共通の趣味とする方々には、非常に愛された楽曲で、まさに、日本の北アルプスや南アルプスの風景を思い起こさせてくれるような楽曲ですね。

私は、長野県出身ということもあり、若い頃に、長野県のアルプス登山をたくさん経験しましたが、「アルプス交響曲」はまさに、アルプスの山々の自然の情景を見事に表現してくれています。

リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)は、ドイツ連邦のバイエルン王国の出身ですので、彼の場合は「ヨーロッパアルプス」の山々です。
彼の父親は、ホルンの名手の音楽家で、彼に音楽の英才教育を行ないました。
彼がホルンなどの管楽器を巧みに使った楽曲を作れたのは、まさに父親とアルプスのおかげですね。

彼は、「アルプス交響曲」という名称に固執し、その楽曲名がつけられました。
「だって、この曲は、山の音楽だよ…」。
彼の頭の中には、ヨーロッパアルプスのドイツ最高峰の山「ツークシュピッツェ山」のイメージがあったようです。
ご興味のある方は、検索して写真を見てみてください。
牧歌的な風景の中にそびえたつ、ものすごい山です!

* * *

交響曲とはいっても、ひとつの楽章しかない交響曲ですが、20数種類の山のイメージごとに名称がつけられています。
登山好きの方でしたら、「そうそう、アルプスの山々なら、このイメージ…」と、うなずくと思います。

この楽曲は、登山者が山で体験する自然の厳しさや感動の数々の場面が、音楽として表現されています。
昔、テレビ放送の黎明期に、生放送でドラマなどを行なっていましたが、その時に行なわれていたような、風や雨などの自然現象の効果音表現が、この曲の演奏時に、今も行なわれます。

そんなシーンを見ることのできる、オーケストラの演奏映像を下記にご紹介します。
下記映像の、特に38分から41分あたりにかけて、奇妙な道具が幾種類か登場します。
実際の自然の音声の効果音では出せない、何か人間の生演奏による道具(楽器)の雰囲気や、人間の演奏によるチカラ加減が、とてもいいですね。

どうぞ、登山好きの方、アルプス登山を体験されたことのある方は、ご覧になってみてください。

そして、ウルトラセブン・ファンの方々にも…、セブンが随所に登場してきますよ。
最初は「セブン」と感じつつも、やっぱり、これは「山への讃歌」…。

♪アルプス交響曲

 


◇ウルトラ・シューマン

さて、先ほど、ドラマの中では、ダンを除く「ウルトラ警備隊」5人のメンバーは、「モロボシ ダン」こそがウルトラセブンであるということを、最後の瞬間まで知りませんでしたと書きました。
最後のその時に、その5人のメンバーは、6人目と7人目だと思っていた存在が、実は同一の者だと知ったのです。

その時とは、ドラマの最終回です。
この重要な場面で流された音楽も、有名なクラシック音楽曲でした。

ロベルト・シューマン作曲の「ピアノ協奏曲 イ短調」です。

ウルトラセブンの最終回の最終場面で、シューマンのピアノ協奏曲が使用され、視聴者から大きな反響がありました。
この放送回の内容は、まさに、この楽曲にあわせて作られたようにも感じます。
音楽家の冬木さんの、強い意向があったように思います。

シューマンの曲が使われたウルトラセブン最終回のシーン

 

このことで、日本に、シューマン・ファンを急増させましたね。


◇シューマン夫妻の愛のピアノ曲

ロベルト・シューマン(1810~1856)は、今のドイツに生まれ、音楽家としての黄金期と同時に、悲劇の時期を持つ、まさに天才音楽家でした。
彼は、文章を書く能力も非常に高く、ビジネス感覚があり、人物を見抜く才覚も持ち合わせていました。
つまり、さまざまな面で、深い部分を読み解く、見抜く能力を持っていたと思います。
彼が尊敬したバッハの研究は相当にち密だったはずです。
そんな「見抜く」シューマンでしたので、案の定、苦悩と病気を多くかかえてしまった彼は、46歳で亡くなります。

* * *

前述の「ピアノ協奏曲 イ短調」は、1841年頃から1845年の期間にわたり、作曲・改編がおこなわれ、彼が34歳の時に完成した、唯一のピアノ協奏曲です。
1840年にクララと正式結婚し、この時期は、室内楽曲をたくさん作った時期です。

妻のクララは、当時、人気の有名女性ピアニストでしたが、実は夫のロベルト・シューマンよりも知名度が高く、ロベルトは「クララの夫」として認識されていたようです。
クララは、夫の優れた才能が社会に なかなか評価されないことに腹を立て、それをなだめるシューマンでした。
たしかに、その時代の民衆には少し早過ぎた、彼の繊細で優美な芸術音楽だったかもしれません。

* * *

シューマンは1942年頃には、最初の精神疾患の症状があらわれたようで、その後、人生の最期まで、病気や人間関係、ビジネスや仕事などのトラブルに悩まされていきます。
それでも、優れた音楽作品をたくさん作っていきました。

精神の病はますます悪化し、1853年、今のドイツのデュッセルドルフ市を流れるライン川に身を投げ、自殺未遂をおこします。
この時は、命をとりとめました。
本コラムの冒頭写真が、今のデュッセルドルフ市のライン川です。

その3年後、彼は病で亡くなり、クララは、クララに好意を抱いていたブラームスとは再婚せずに、夫ロベルト・シューマンの作品集の編纂に生涯を捧げ、76年の生涯を閉じました。

* * *

ロベルト・シューマンは、若い頃の病気がもとで、ピアノを上手く演奏できませんでした。
クララは、生涯、ロベルトの手になろうとしたのは間違いないと、私は思っています。
この「ピアノ協奏曲」の1845年の初演時のピアノ演奏も、クララが演奏しました。

実は この楽曲「ピアノ協奏曲」は、ロベルトが、妻クララに捧げた愛の歌だったのです。

ロベルトは、才能豊かですが、繊細な心と正直すぎ、浪費家という一面もあったようです。
ロベルトとクララは、周囲の大反対と相当な妨害行為を乗り越えて結婚までたどりついた二人でした。
1840年に、二人は正式結婚となり、ロベルトが5年後の1845年に完成させ、クララに贈った楽曲が、彼の唯一の「ピアノ協奏曲」でした。

* * *

第一楽章の主題の根幹である、日本語の音名「ド・シ・ラ・ラ」は、ドイツ語での音名「C・H・A・A」となり、妻クララのイタリア語の愛称「Chiarina(キアリーナ)」の文字から作られたものです。
この楽曲の楽譜の冒頭には、「affettuoso(アフェトゥオーソ:愛情を込めて優しく)」という演奏指示用語が付けられています。

名前や名称のアルファベット表記を音名にかえて、想いを込めて作曲をした、歴史上の音楽家はたくさんいましたね。

クララの愛称「Chiarina(キアリーナ)」は、シューマンの別の作品「謝肉祭」の中の、第11曲としても登場します。
もちろん、クララのことを表現した楽曲ですが、クララはこの楽曲をプライベートの場面ではない民衆の前で、クララ自身が演奏するのをよく思っていなかったようです。

クララの女性としての何かの想いがそこにあったように思います。
プライベートでは よく演奏したようです。
おそらくは、結婚前の少女クララを表現した楽曲だと思います。
♪キアリーナ

 


◇シューマンとショパン

ちなみに、シューマンの、この楽曲「謝肉祭」の第12曲は「ショパン」です。

実は、この楽曲「ショパン」は、シューマンの若い頃の ある女性の恋人のことを表現した楽曲で、ある男性バイオリニストに捧げられた作品です。
この楽曲に、作曲家ショパンの名を付けたのです。
この謎をひも解くのは、容易ではなさそうですので、そのお話しは今回はここまで…。

* * *

シューマンは、それまで世間からまったく注目されていなかった、若きショパンを、「諸君、脱帽したまえ、天才だ」と新聞を通じて紹介した人物として知られていますね。
シューマンは、今で言う「音楽評論家」としての立場でもありました。

シューマンは、世の中に迎合した都合のいい評論をすることがなく、いいものはいい、素晴らしいものは素晴らしいと、はっきりとものを言うタイプだったようで、それも言葉表現がかなり劇場型で、極端で、ダメなものをダメと言う一面もあったようです。
彼が、さまざまな人間関係のトラブルを起こすのもわかる気がしますが、でも、それでこそ、シューマンなのでしょう。
シューマンのおかげで、ショパンは世に出てきてくれました。

シューマンはショパンに楽曲「クライスレリアーナ」を献呈し、ショパンはシューマンに楽曲「バラード2番」を献呈していますね。
ただ、ショパンはシューマンの音楽をそれほど評価しておらず、ひとまず、御礼に「バラード2番」を献呈しておこうかということだったようです。
たしかに、「バラード2番」は素晴らしい作品で、挑戦的な「返礼品」っぽい…?

ショパン
♪バラード 第2番

 

シューマンの楽曲「クライスレリアーナ」です。
ここは、女王アルゲリッチのピアノ演奏で…。
ひょっとしたらクララの演奏に近い…?
♪クライスレリアーナ

 

* * *

シューマンはフランス語が話せず、ショパンはドイツ語が不得手でしたので、両者は しっかりと話しはできなかったようですが、シューマンの熱のこもった「ショパン推し」に対して、冷めたショパンの対応を想像します。
シューマンの「謝肉祭」の中の一曲「ショパン」を、ショパンは「あれは音楽(私)ではない」とも言いました。

でも、その曲が何かショパンの雰囲気を少しだけ感じるのは、私だけ…。
自身の名を、あの小曲に付けられるのは、ちょっと…とショパンは感じたかもしれません。

ただ、シューマンの他人を見る目は、私は確かではなかっただろうかとも感じています。
楽曲「謝肉祭」の中の第12曲…
♪ショパン

 

* * *

人は時に、相手の言動が気に入らないと、相手の作った作品まで毛嫌いしてしまいますね。
ショパンは、前述の返礼品の「バラード2番」で、「私はこうだ」とシューマンに見せつけたように感じなくもありません。

シューマンとショパンの音楽性は確かに方向性が異なりますが、私は、二人は人間として似た部分を持っていたような気もします。

それにしても、一流音楽家たちは、みな 複雑で繊細、強いこだわり、自分を曲げない、世の中や相手に迎合しない… 一筋縄ではいかない方々なのかもしれませんね。

素直に喜ばないショパン…、でも、そこが いい!
「なんで、あんたに称賛されなくちゃならない!私の実力は、いつか世に出る!」。
孤高の芸術家は、それでいい!

ショパン様…あなたも、心が繊細で、正直すぎ…。

歴史に残るビッグネームの音楽家たちは、たいていは強気の革命家であり、同時に、他人の目や、他人のひと言を気にしすぎる 小心者だったのかもしれませんね。


◇ダンとアンヌ

さて、話しを「ウルトラセブン」に戻します。

ドラマ「ウルトラセブン」の最終回に、ウルトラセブンである男性隊員のダンが、女性隊員のアンヌに、自身がウルトラセブンであり、もう宇宙に帰らなければならないことを告げるシーンに、シューマンの「ピアノ協奏曲」を持ってきたのは、おそらく、ロベルト・シューマンとクララ・シューマンの愛の深さと別れを、このドラマシーンに重ね合わせようとしたのではと、個人的には思っています。

最終回のドラマの中では、前述の楽譜の文字のような「affettuoso(アフェトゥオーソ:愛情を込めて優しく)」という言葉表現はありませんでしたが、映像の中に、ウルトラ警備隊の他のメンバーから、ダン(ウルトラセブン)に対する「愛情」を十分に感じられる内容になっていましたね。

おそらく、音楽担当の冬木さんが想いを込めた選曲だったのだろうと思っています。

ここは、ふたたび、女王アルゲリッチのピアノ演奏で…
シューマン

♪ピアノ協奏曲 イ短調

 

* * *

1967(昭和42)~68年に放送された「ウルトラセブン」では、男性隊員のダン(演:森次晃嗣さん)と女性隊員のアンヌ(演:ひし美ゆり子さん)が、最終回でお別れになりましたが、後の「ウルトラマン レオ」の中で、なんと再会!
しみじみ「2時間ドラマ」みたい!

名前が「ダン」と「アンヌ」って、もはや日本人ドラマではありません!
シェークスピアか!
とはいえ、日本の港町旅情が漂う再会シーンです。
まさか、音楽が歌謡曲に…。

再会シーン

 

まさか、アンヌも…

 

何かまだ、この二人の物語は完結していないような気もしますね。


◇ヒーローの心は、時代を越えて、世代を越えて…

1967年当時の「ウルトラセブン」放送映像を二本だけ…。

「ウルトラアイ」を盗んだ少女(宇宙人)は、ダンの「この星で生きよう。この星でいっしょに…」という言葉に…

 

「地球を壊滅させるのに暴力をふるう必要はない。人間どうしの信頼感をなくせばいい」とメトロン星人がダンに言います。
つまり、人間どうしで闘い、全員で自滅するということです。
有名な、ダン(セブン)とメトロン星人の、丸型の「ちゃぶ台」を挟んでの会話シーンです。
番組最後に、このお話しのオチのナレーションが…。

 

* * *

今年 2023年の秋に、ウルトラセブン55周年コンセプトムービーとして「ウルトラセブン IF Story / 55年前の未来」が公開される予定です。
その予告編映像です。

バーチャルヒューマン技術により、当時の「ダン」と「アンヌ」が時空を超えて登場します。
なんと、55年後に、同じ俳優が同じ役で、当時の姿で戻ってくるそうです。
近年、映画や音楽の世界でも行われている AIを使った最新技術ですね。
数十年前のあの方を、当時の姿で映像で蘇らせることのできる時代がやってきました… AIの危険性も秘めてはいますが。

 

 

 

* * *

初期のウルトラシリーズで、変身した方々は、ビールのCMで乾杯!
初代ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンタロウの4人です。

2001年(平成13)の、キリンのCM。

 

「帰ってきたウルトラマン」で主役を演じた団 時朗さんの、2023年のご逝去をきっかけに、ふたたび書き始めた本連載です。
ご冥福をお祈りするとともに、ウルトラシリーズを伝えていきたいと思っています。

* * *

下記は、音楽グループ「フライング・ドクター」の女性たちの演奏動画です。
もし、彼女たちにお子さんがいたら、きっとウルトラシリーズも、楽器も好きになりますね。
まさに、彼女たちはウルトラの血を受け継いで、各地で今まさに、正義のヒロインたちとして、活躍している模様…。
日本を、地球を、音楽で守ってね!
♪ウルトラマン演奏メドレー

 

* * *

音楽大学出身の彼らは、きっとどこかで活躍する、ヒーロー、ヒロインになっていることでしょう。
こんな歌い手さん、親戚にひとり欲しい…。
お父さん…お風呂の中で、シュワッチって叫んでるよ! やけに、美声で!
♪ウルトラマン歌唱メドレー

 

* * *

今、米国のメジャーリーグでは、あの背番号「17(セブンティーン)」が大活躍!
野球の未来…、日本の未来…は、何となく「ダン」に似ている、大谷翔平にまかせた!

♪ウルトラセブン(21世紀バージョン)

 


◇メガネはどこどこ…、さあ もう一度、デュワ!

「The.ウルトラ」と題した連載は、この第八回でいったん休息に入らせていただきます。
また、そう遠くない段階で、「第九回」から続きを書こうと思っています。

今回 書けませんでしたが、ドラマ「ウルトラセブン」には、ウルトラ警備隊の兵器として、「ウルトラホーク」と呼ばれる戦闘機が何種類か登場します。
この「ホーク」という言葉は、初期のドラマ放送時期に米国で生まれたミサイル兵器「ホーク」から引用したものと思われます。
実は、今現在でも現役の兵器で、「地対空ミサイル」を意味しています。
もちろん、ウクライナでも使用されています。
巡航ミサイル「トマホーク」は、また別の意味の兵器用語です。
このお話しは、第九回以降に書きます。

他に、ウルトラヒーローたちの故郷が「M78星雲(ひかりの国)」であることは有名ですが、実は「M78」と「M87」は、それぞれに宇宙の別の場所に存在しています。
個人的には、ウルトラシリーズでの「M78」には意味があると理解していますが、そんなお話しも「第九回」以降に書きたいと思います。

* * *

本コラムの最後は、この映像で締めたいと思います。
「モロボシ ダン(ウルトラセブン)」役を演じた、俳優の森次晃嗣(もりつぐ こうじ)さん(2023年で80歳)が出演した、2023年5月公開の映画「それいけ!ゲートボールさくら組」のPR映像です。

 

 

昭和のウルトラ世代の方々…老眼鏡をかける時の「掛け声」、もう ご存じですよね!

デュワ!

55年後の今、周囲からクラシックと呼ばれようと、さあ もう一度… セブン!セブン!セブン!

♪ウルトラセブン


2023.6.18 天乃みそ汁
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