母とお花見ができた。
まったく理由が不明なのだが、火曜の夜から母、クマ姑が
急に元気になっていたところ、昨日の午後、
ケアマネージャーさんとリハビリの理学療養士さんが
そろって訪問された。
元気という表現が合うのかどうかわからない。
身体はへろへろで立ち上がるのも大変で安定感がなく、
ベッドから車椅子への移乗も、トイレでパジャマのズボンを
下ろすことすらひとりではきびしい。
食事も量は食べられないし、茶碗を持つ手は震え、
箸の動きも非常にゆっくり。
日付や時間の認識ももうめちゃくちゃだし、
喋る内容も呆れるほど事実からほど遠く
時系列もごちゃごちゃで、すごい。
なのに、気力が一気に戻ってきた感じで、
美味しそうに夕飯を食べるし、笑い声も出たりして
表情が明るい時が増えたのだ。
何が母をそうさせたのか、そうさせているのかは謎。
でもこのふた月、誘えども誘えども外へ出たがらなかった
母が、桜を見られるなら行ってみたいと言うようになり、
昨日はお天気も暖かそうだったし、桜は東京はどこも満開で
散ってしまったところもあるとネットニュースで読んでいた
ので、何としても今日だと思っていた。
会社のスケジュールも夕方の時間をブロックして
同僚にも「ごめん!今日の夕方は多分オフラインになる!」
と宣言しておいた。
なぜ夕方なのかと言うと、母の起床、もとい、覚醒時間と
服薬時間から、連れ出すなら4時以降しかなかったからだ。
3時すぎに見えたケアマネさんとリハビリ担当さんに
「今日はできたらこれから桜を見に~」と言ったら
「あら!じゃあ一緒に行きましょう!!」と
言ってくださり、書類や話し合いなどのあと、
ぱたぱたと実に見事な連携で(?)母と私を一緒に
外へ連れ出してくださったのだ。
間髪入れず、有無を言わさず、あれよと言うまに。
あっはっは。
我が家から徒歩でほんの90秒くらいの場所に
小さな公園があり、そこに結構立派な桜が数本あった。
それは満開をすでに過ぎ、若葉が出始めていて、
風が吹くと見事な花吹雪となった。
すべりこみセーフというタイミングだったと思う。
母が何度も見たいと繰り返したのは
江戸川区の小松川の昔住んでいたマンションの前の
公園と、荒川の土手の桜だったけれど、
それはもう電車でもタクシーでも遠すぎて無理
と言うしかなかった。
けれどこの住宅街の真ん中にちょこっと存在する
公園の桜も愛おしいほど立派に咲き誇っていて、
母はとてもとても嬉しそうだった。
わずか数分のお花見だったけれど、
これが最後の桜だろうと、私も母もわかっていた。
来年の春も母が生きている可能性はあると思う。
でももう桜を見に外へは行けないだろうと思う。
車椅子に座った母にかけた真っ白な膝掛けの上に、
たくさんの花びらが落ちて留まり、
小さな花の小枝をリハビリ担当さんが拾ってくださった。
それは今、ダイニングテーブルの上の
小さなグラスに飾られている。
実に良いお花見だった。
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しろくまけいこ