しろくまです。

 

ママさんとKさんと三人で乾杯する。

この組み合わせでお酒を飲むことになるろうとは思ってもなかった。

 

 

 

前回の続きです↓

 

 

マ「私、アンタに怒鳴ったのよね…だから共通の友達を通して言って貰ったのよ」

 

私「〇〇(友人)ですよね?連絡来ました。」

 

マ「そうだったのね。

あの時は本当ごめんなさいね。酔っ払ってヒステリック起こしてたのよね」

 

私「こちらこそ、随分顔だして無くてすみませんでした。」

 

そんな話をしているうちに、他のお客さんが入ってきた。

 

二人組のお客さん_

一人は某有名ゲイビデオ会社の社長さんで、見覚えがあった。

その連れは多分ノンケさん。

 

ママさんは入店した二人の対応に入った。

 

社長さんは連れているノンケがどれほど可愛いかを周りに見せて歩きたいタイプの人なんだよねと、Kさんが小声で教えてくれた。

私もあまり話をしたことがないが、少なからず同じ印象を持っていた。

 

この人を放っておくと面倒な事になりそうと、ママさんとKさんと私での共通認識が空気感で繋がる。

 

また出直そうかと思い、ママさんにチェックをお願いすると、

 

マ「チェック?もう少し居なさいな、私から一杯奢るから。」

 

そう言っていただいたので、もう一杯いただくことにした。

ママさんとKさんと3人で昔話に花を咲かせていると、社長さんが黙り込み、不穏な空気が流れる。

悪寒のような空気感が恐ろしい。

 

私は出来るだけ大げさにならないよう、社長のとなりのノンケさんを褒めた。

ノンケさんは色黒スジ筋、短髪髭のイケメンさん。

確かにその筋からは絶大な人気を誇るだろうな。

 

すると社長は重い口をゆっくりと開き、どんどん饒舌になっていった。

そしてママさんとKさんとで社長をもてはやす。

この連帯感は嫌いじゃない。

 

昔の呼吸が、体に染み付いていることを実感する。

 

ゲイバーは多様なお客さんが多い。

正しい正しくない云々、その価値観についていけるかいけないか。

我を通そうとすればぶつかるだろうし、なさすぎても八方美人として見なされてしまう。

 

ママさんとケンカした日の事を思い出す。

日頃のそういった鬱憤を晴らすため、ママさんは飲んでいたのだろう。

比較的色々言いやすかったであろう年下の私を、自分の貴重な時間を奪った事に対して、溜まったものをぶつけてしまったのだろうかと考えてみた。

 

色々と溜まっていたんだろうな_

 

 

今はこうして会えて、またきっとここに来られるという事実だけで嬉しかった。

 

程なくして、他のお客さんも入ってきたので私とKさんはお店を出た。

忙しくするママさんを横目に、挨拶は簡単に。

 

 

 

Kさんと夜中の新宿を少し歩いた。

お店での出来事を振り返りながらKさんと話していると、Kさんが思い出したようにあることを話し始めた。

 

 

K「しろくまは、〇〇って知り合いだったっけ?」

 

私「お名前だけは知っていますが、特に接点はないですね。」

 

K「実はさ、そいつちょっと前に亡くなったんだよね。」

 

私「え?!まだ若かったですよね?なんで…」

 

K「突然死らしいよ。事故や自殺とかでは無いみたいだけどね。

ママさん、そいつとずっとケンカしていたんだよね。

死んだって聞いて、何だか後悔しているみたいだったよ。」

 

 

この歳になると、人に死に触れることが度々あった。

私より幾分年上のママさんもKさんも、きっと私よりも沢山の死を見てきたのだと思った。

悲しい気持ちも、それを受け入れていくことも、きっと沢山あったのだろうな。

 

 

K「今日ママさん凄く嬉しそうだったよ。凄い久々にあんな顔見た気がするよ。

行って良かったね。」

 

私はKさんの何気ない言葉に、じわっと目頭が熱くなっていくのを感じて横を向いた。

二人にこうして会えて、良かったと思った。

 

頭の中で、Coldplay のLife In Technicolor IIが流れていた。

脳内BGMにしては良い選曲だった。

 

まだ少し肌寒い東京の街の明かりは、少し離れると優しくも儚いのだと思った。

 

 

 

おしまい。