こんばんは、しろくまです。
彼「俺、多分近いうちに警察に捕まると思う。」
そう言われ、私は彼に電話をする。
前回の続きです↓
私「いきなりどうしたの?冗談じゃなくて?」
彼「うん、本当。だからうちのワンコをしばらくの間面倒見てくれないかな」
私「それは構わないけれど…なんで捕まるの?」
実は、と彼が話をしてくれた。
どうやら彼の働いている会社のボスが、関係会社から個人情報を抜き取り、
その情報をその筋の関係者に売っていたとのこと。
彼はそのことを知らず、それに関係する業務を行っていたらしい。
何だか変だと思った時には時既に遅し、社長が高跳びしたのだ。
彼「最近、誰かに尾行されている気がするんだ。
怖いからしばらく自宅には帰れない。」
私「いやいや!なんでよ!知らなかったんでしょ?そしたらまず弁護士に相談して解決方法を探そうよ!」
彼「知らなかったとは言え、それで被害者が出てしまっているから…知らなかったでは済まされないと思う。
でもどうしたら良いかわからないから、ほとぼりが冷めるまで身を隠そうと思ってる。」
そういうものなのだろうか…
彼は当時私よりも10歳くらい年上だったこともあり、彼の言葉を聞くだけしか
出来なかったが、今考えても何かもっと良い解決方法があったように思う。
オウム事件の林泰男被告の裁判で、裁判長が彼に残した言葉。
「およそ師を誤るほど不幸なことはなく、この意味において、林被告もまた、不幸かつ不運であったと言える。(中略)林被告のために酌むべき事情を最大限に考慮しても、極刑をもって臨むほかない」
今となって、その言葉を思い浮かべる。
彼はよく仕事の話をする人で、社長をボスと言って慕っていた。
だからこそ盲目だったのだろう。
私の尊敬する人が犯罪を犯すなんて、微塵にも思わなかっただろう。
疑わざるをえない状況まで追い込まれて、やっと動き出した彼の動きはまるで
思考を抜き取られてしまったかのように、とても不安定で現実的ではなかった。
彼は結局詐欺の幇助として検挙された。
多分個人情報の抜き出しの他にも、何か加担してしまったのだろう。
詐欺罪で捕まると、接見禁止期間が設けられてなかなか会うことが出来なかった。
そして何より、彼が人と会うことを望まなかった。
気持ちはわかる気がする。
私もきっと同じ状況だったら、私を知る人間には会いたくない。
彼と連絡が本当に取れなくなり、2ヶ月程経った頃だろうか。
家に一通の封書が届いた。
白い封筒の中には、便箋が3枚入っていた。
送り主には、〇〇県~〇〇警察署内と続き、彼の名前があった。
私はその時初めて彼の書いた文字を見た気がする。
少し小さく、とても丁寧に書いてくれたであろう文字に、私はなんだか胸が締め付けされるのだった_
つづく。