こんばんは、しろくまです。
※前回の続きです↓
おじさんの体には、服を着ていてもわかる程のドクロの入れ墨が全身に入っている。
腕や指にまでも入っている。
私がジロジロ全身を見渡すのがわかったのだろう。
おじさんは服を脱いで体を見せてくれた。
キャッ!乳首がピンクでセクシー!
(そこじゃない)
体の表にも裏にも大きなドクロが鎮座している。
そしてよくよく見てみると、ネックレスや指輪などの装飾品までもドクロだ。
私「何故入れ墨が全部ドクロなんですか?」
お「俺には姉貴がいてさ、姉貴はレズビアンだったんだよ。
良く二人で遊んだりもしてたし、家族も仲が良かったんだ」
良かったんだ_過去形の言葉に、私はギクリとしてしまう。
お「うちの親は、姉貴がレズビアンであること認めなかったんだよ。
そして親が勝手に姉貴と知り合いの男と結婚させようとしたんだ」
当時の私はゲイよりもレズビアンの方が、世間的には受け入れてもらいやすいのではと勝手に思っていた。
これもきっと偏見だ。
自分が恥ずかしくなる。
もしかしたら、女性の方が大変なのかもしれない。
男性は結婚して一人前、女性は結婚して幸せ、みたいな風潮は今でも存在する。
時系列で言うと30年ほど前のことだろう、その風潮は今よりまだまだ色濃く顕著にあったのだろう。
お「姉貴は、自殺したんだ。いや、親に殺されたようなもんだな。」
おじさんの目は遠くを見ていた。
ただ、遠くを静かに見ていた。
その目は、色がなくなった世界を見ているような淋しい目だった。
なぜ?とは聞けなかった。
色々な悲しみや絶望が痛いくらいにわかってしまう。
おじさんは続ける。
お「人間ていうのは、やれ肌の色が違う、やれ宗教が違う、性的趣向が違うって争うんだよ。
排除もするし、差別もする。そして戦争もする。
俺からしたらくだらないことだと感じるんだよ。同じ人間なのにな、って。」
そうだね。
私もそう思うよ。
私も父に否定されたからさ、すごくわかるよ。
一番近くにいる大人に、それも親に否定されてしまったら、子供はどうすれば良いのだろう。
うちは元々父と折り合いが良くなかった。
だから受け入れて貰えるなんて期待もしていなかった。
ただ、元々仲の良かった親子にそれを拒絶されたら_
信じていた人に受け入れて貰えない。
それは考えるだけで、心の傷がどれほどのものか想像できなかった。
そしてそれを間近で見ていたおじさんの心の傷も、計り知れなかった。
お「人間なんて生きているうちはそうやって争うんだ。
でも骨になったら、みんな何も変わらないのになって思うんだよ。
人種も思想も、骨だけになったらさ。」
おじさんは、火葬場でお姉さんの骨を見てそう思ったのだろうか。
きっと許せなかったであろう両親と一緒に、お姉さんの骨を骨壷に運んだのだろう。
どんな気持ちだったのだろうか_
お「みんな早く骨だけになっちまえば良いのになぁ」
そう言っておじさんはニカっと、まるで少年のように笑うのだった。
この話はもう終いだと言わんばかりに、おじさんは新しいお酒を注文する。
いつもの目に戻り、お酒を飲みながらガハハとおじさんは笑っていた。
それから何年後だろう、お店を辞めてから久々に飲みに行った時、おじさんが亡くなった事を聞いた。
死因は誰も知らないと言う。
ヤク○だったから、抗争に巻き込まれたのだろうか。
今になっては知る人もいない。
私はなぜか悲しくなかった。
おじさんも骨になった。
やっと骨になれた。
心からそう思って、悲しくはないが、淋しくなった。
おじさんは元気で優しくて、どこか浮世離れしていた。
今思えばおじさんは自分の死に場所を探していたようにも思えてしまう。
「骨になったら、みんな何も変わらないのになぁ」
それはもしかしたらお姉さんだけじゃなく、許せなかったであろうおじさんの親にも向けていたのかもしれないなと、そんな風に勝手に思ったりもした。
おじさんのドクロの話はみんな知らなかった。
多分誰からも聞かれなかったから言わなかっただけだろう。
私はおじさんのドクロの話を聞けて、とても嬉しかったのを思い出した。
おじさんの人生を、きっとあまり語ることはなかったであろう大切な人生の一部を、私なんかに話してくれたことが嬉しかったのだと思う。
優しくしてくれたドクロのおじさんが大好きでした。
少しずつだけれど、昔よりLGBTの人たちは暮らしやすくなっているよ。
先人に感謝と敬意を払って_
R.I.P