プロの底力を感じさせられた『すずめの戸締まり』 | 白鴉(shiroa)のビバラムービー

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~~映画生誕100周年に灼かれたバカの映画遍歴
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あまり期待通りではなかった、という方が多かったと思いますが。

 

しろあです。

 

映画を見に行ったとき、近日公開する映画の宣伝が流れました。

『すずめの戸締まり』、新海監督の最新作でした。

 

その映像の中では動く椅子が登場。

それを見て「ふたりのイーダ」じゃないかと思ったのは、

私だけではなかったようです。

 

 宣伝の中で、扉を開けてなんか大変なことが起きる。

 謎の男が椅子になる。

 それを助けるために扉を閉める必要がある。

 主人公の女の子はそのために頑張る。

 

そこから連想されるラストは、

 

 女の子は扉を閉めることに成功し、

 謎の男は人間に戻りハッピーエンドを迎える。

 

ということだったので、映画を見ずとも作品の概要がつかめてしまい

 

 見る必要なし!

 

となってしまいました。

それでも『君の名は』が名作ですので、今回はどんな感じに仕上げているのか知りたくて、

先日テレビで流れていたものを録画し見てみましたよ。

 

 やっぱり、現代版の『ふたりのイーダ』だったんだ。

 

それにしてもおそまつでした。

閉じ師、というオカルトの仕事。かなりとってつけ感があるし、

ひとりの少女である主人公すずめがどうしてこの要役につくことになるのかわからない。

彼女より霊感がある人はたくさんいるはずです。

要石も微妙だし、おばさんとの口論で都合よく登場するのもよくわからない。

全般的にご都合主義での展開で、やりたいことをやってるだけに感じる。

絵は新海らしくきれいだけど、物語としての芸術性はありません。

美しくない。

 

こんなできそこないの物語の構成なら、私ならボツにします。

実際、話がうまくまとまらないときは、いいアイディアの話もボツにしてるんですけど、

私が構成を考えているときにこんな感じにまとまってきたなら、躊躇なくボツです。

 

だからしょうがない、ボツにするレベルの話なんだから、

『すずめの戸締まり』自体は映画として評価できません。

 

映画という時間の制約があるもので、

なるべくわかりやすくドキドキハラハラと面白さを詰め込んでいくのは大変。

笑えるギャグを細かく入れていたり、テーマが東日本大震災であったり、

ラストではきちんと感動できるパートを作っていたりと

 

 エンターテインメントの部分はプロとしてしっかり入れているのはさすが。

 

そこだけは評価できますが、そんなのは子供向けアニメとたいして変わらないんですよね。

最近の仮面ライダーがなぜなぜ存在しているのか、誰が開発したのか、

そのエネルギーは? どうやって選出されたのか?

子どもたちにはそんなことどうだっていいけど、話のつくり手としては

 

 結構気になるんですよね。

 

きちんとそういう因果関係が構築されてないと ”やりたいことやってるだけ”

子供の遊びと同じって思える。

 

『すずめの戸締まり』を見て、結構感動した、面白かった、という感想はあるでしょう。

そういう風に作っている作品で、作品の表層だけを追って行けば十分楽しめる作品です。

しかしちょっとその奥の「あれ? これってどうなってるの?」、「なんでこれがこうなるの?」

と作品の深層部分を考え出すとダメ。一気に評価を下げざるを得ません。

 

それに加えて、主人公がバカで行動に矛盾が生じるところにも問題があります。

実例として東京で対峙するミミズに乗ったときのシーン。

 

 すずめは立ち上がり歩き出すが、落ちる。

 その後助けられて再びミミズに乗るが、どこかつかもうとするとつかめない。

 その様子を見て椅子は「ミミズの上は不安定だ」と説明する。

 

これでミミズの上では不用意に動けなくなりますが、

その後ミミズの上での戦いでは

 

 それを教える椅子も、すずめも思いっきり走ってます。

 

用心して動かなければいけない、いわばどこに落とし穴があるかわからない状態、

上空高くで空気も不安定、高所の恐怖もあるでしょう。

そんな中で走り回るのは、とても懸命ではありません。

新海監督に「なんで走らせたん?」って聞きたくなりましたもんね。

 

そんな物語にモヤモヤが残るんだけど、

それでもプロとしてエンターテインメント作品として

なんとかまとめ上げてるのは素直にすごいと思います。

どこまで新海監督のやりたいことであり、本意であり、不本意であったのか、

そこんところが知りたいですね。

 

先に紹介した児童文学の名作『ふたりのイーダ』はとても素晴らしい作品です。

『すずめの戸締まり』が東日本大震災、約10年後とすると、

『ふたりのイーダ』は第二次世界大戦、約20年後が舞台で、

喋り動く椅子の話以外にも、かなり共通点があります。

 

『ふたりのイーダ』は非常によくまとまった、納得のいくファンタジー作品ですので、

ぜひモヤモヤした方はこちらを読んでスッキリしてほしいと思います。