私の問いかけに息子が言った。
進路について話し合っていた。志望校は2学期の定期考査を参考に決めましょうかということで、話はだいたい終わった。そこで、前から気になっていたことを聞いてみた。「高校に行ったらサッカーはどうするの?」
息子は部活動ではなく、地元のJリーグクラブの下部組織に所属している。救急搬送され悪性リンパ腫だろうと言われた時点で退団も考えたが、監督が「復帰を待っています」と言ってくださり休会扱いになっていた。私も、戻る場所を一つでも多く確保して息子の励みにしたかった。
退院したら元通りの生活に戻れると思っていた。普通に学校生活を送り、少しずつサッカーに復帰して、中3のうちに試合復帰できればいいなと考えていた。
息子は退院してしばらくの間は、仲間の試合を見に夫と出かけたり、ショップでスパイクを手に取ったりしていた。でも、体調が思ったより良くないことが続き、いつのまにかどちらも足が遠のいた。
はじめは「早くチームに戻るぞ」と思っていたのかもしれない。試合を見ながら、頭の中で自分のプレーをイメージしているようだった。
退院してもうすぐ10ヶ月。退院する時に思い描いていた自分とは、おそらくかけ離れた状況なんだろう。毎日の体調不良、原因のよく分からない吐き気、学校生活もままならずサッカーどころの話ではない。
チームの仲間たちは体つきもプレーもグンと逞しくなっている。それを外から見ている自分。息子はどんな思いで試合を見ていたのだろう。
病気にさえならなければ。親はついそう思ってしまうけれど、息子はどう感じているのだろう。
クラブチームの中学世代は高校に進学する時点で道が分かれる。そのままチームのU-18としてプレーを続ける、チームを辞めて高校の部活動でプレーする(高校は全国高校サッカー選手権という大きな大会があるので、それを目標に部活動に移る子も多い)、サッカーを辞める、の三つ。
以前から息子は「うちのチーム以外でサッカーをする気はない」と言っていた。クラブチームを離れると言うことは、サッカーを辞めるということなのかもしれない。
6才から始めたサッカー、息子はもちろん私もたくさん楽しませてもらった。いいプレーにはしゃぎ、残念な結果に落ち込み、遠征に車で駆けつけビデオを回し…。サッカーを通して、息子が心も体も成長していくのを見守るのが好きだった。
がんは、息子からたくさんのものを奪っていく。