皆様こんにちは。

日暮里駅から徒歩1分、台東区谷中の「しらゆきピアノ教室」ゆき子先生こと本橋ゆき子です。

先日の、豊洲シビックセンターホール、オープン記念コンサート、

金子三勇士さんのリサイタルでは、
普通のピアノリサイタルのように無言で舞台に登場して、無言で曲を演奏するのみではなく、

トークがふんだんに盛り込まれていました。


曲の説明も沢山してくださったので、演奏をより楽しむことができました。


金子さん、まだ20代とお若いのにトークが上手い‼️
それにちょっとおとぼけもあり、お話がとっても面白いんですよね。



真面目そうな外見からすると、ちょっと意外な感じでしたが、楽しくて好感の持てる好青年でした。


さて、トークの中でとても印象に残ったお話しがあり、書かせて頂こうかと思います。


実はこのお話し、私もつい最近知ったばかりだったのです‼️


なので、ピアノの先生方はもしかしたらすでにご存じの内容かもしれません。



その後の演奏を聴く上で知っておくとおかないとでは、

聴き方が全く変わってくる…

そんな、少しミステリー風なエピソードなので、書いてみようと思います。


ベートーヴェン「月光」の第一楽章冒頭の事です。

かの有名なこの曲、

出だしには

senza sordino

と書いてあります。

{186CDDD5-D24D-46EE-A596-F7B48C4F9966:01}


senzaとは

英語で言うwithout
~なしで、という意味です。

sordinoとは

「弱音器」
ピアノでいうと左のペダルで、音色が変わり音量も少し弱くなります。


「弱音器を使わないで」

要するに

「左のペダルを踏まないで」

という事だと思われがちです。


ところが‼️
実はそうではなさそうだ


というのが、最近の常識なのです。


sordinoというのは、もともとヴァイオリンの弱音器のことで、
ヴァイオリンの駒を押さえて音色を変える器具のことだそうです。


ピアノの左ペダル(弱音ペダル)を指すものではなかったのです。


ピアノでは弦を上から押さえて、響きを止めるダンパーのことなのではないか?

と最近、考え直されるようになりました。


そう考えると、意味が全く変わってきます。



 ↑
ダンバー、弦の響きを止める装置

senza sordinoとは

ダンパーなしで = ダンパーを上げっぱなしで
           ↓
= 右ペダルを踏みっぱなしで


というのが正しい意味らしいのです。


えーっ?
一曲弾く間、ずーっと右ペダルを踏みっぱなしなんて、

ありえない。

音が響いてしまって、ワンワンして、音が濁って聴くに堪えないと思いませんか⁉️

ところが、
それは現代のピアノだから、音が濁ってしまうのであって、


ベートーヴェンの時代のピアノは、今のピアノとはかなり違う、ということを考えれば、


そんなにおかしな指示ではないのです・・・



それに、この曲をベートーヴェンは

「幻想曲風ソナタ」
と名付けています。

「月光」とは後世の人がつけた名前です。


ベートーヴェンは、ダンパーを上げっぱなしにすることによって、
モヤモヤした響きの幻想的な効果を狙ったのではないか?

という説が現在では有力だそうです。




もう1つ、テンポの事もトークの中に出てきました。

第一楽章は、かなりゆっくり弾く人が多いけれど、

ベートーヴェンは実はそんなに遅いテンポを想定しなかったのでは?

というのです。


金子さんはそのお話しの後、実際に月光を弾かれました。


もちろん、先のトークの内容を踏まえた解釈での演奏でした。

かなーり、斬新な月光でしたよ‼️


でも、これはこれで、ベートーヴェンらしいのかも?と思いました。

ベートーヴェンって、今で言うとかなり「変わった人」らしいですからね。


第一楽章のペダルは、さすがにファツィオリで踏みっぱなし、という訳にはいかなかったようですが、

普通のペダリングよりはフレーズ長めに、踏み替えを極力少なく、モヤモヤと。


そしてテンポ速めで、モヤモヤの中にも颯爽とした第一楽章でした…?

実際のところ何と表現したら良いのかよく分かりません。



この日は他にショパンやリストもお弾きになりましたが、

特にリストが素晴らしかったのです。


リストの地、ハンガリーの血を引く金子三勇士さん、やはりお若いですね。

全編とてもエネルギーに満ち溢れた、力強い演奏でした。

聴衆を飽きさせず、独自の解釈で自分の世界を切り開いて行こうという意思が感じられました。

また機会があれば聴きたいと思いました。