キアゲハ
Papilio macaon hippocrates
パピリオ マカオン ヒポクラテス
マツバギクで吸蜜するキアゲハ ♂
岩手県八幡平市大更 2016年9月9日
ヨーロッパで昆虫の分類学が創始された頃、学名はラテン語で表記され、その種名の多くはギリシャ・ローマ文明の神々や英雄の名前が与えられた。
キアゲハの学名は二名法のリンネの命名によるもので、
Papilio macaon macaonのPapilioは属名、macaonは種名、もうひとつのmacaonは亜種名となる。
macaonが二度続けて表記されているのは、初めて記載(原記載という)されたヨーロッパ産のものが「原名亜種」となるため、例えば日本産の亜種hippocratesとの混同を避けるためにmacaonを重ねて表記する。
キアゲハは広大なユーラシア大陸と、北アメリカ大陸のそれぞれ寒帯と暖帯に広く分布し、ハマボウフウの咲く波打ち際から、シシウドの自生する3000㍍級の高山にまで生息する。
食草は上記ハマボウフウやシシウドの他に広範なセリ科植物を食している。
セリ科の植物は薬草として愛用されていたから、種名も亜種名も聖なる医師が選ばれたのだろう。
蛹はー196度の低温にも耐えることができるという。
日本では北海道、本州、四国、九州に分布する。
さてマカオンはホメロスの叙事詩「イーリアス」に登場するトロイ戦争ギリシャ方の軍医で、ギリシャ方の勝利に不可欠の存在であり、木馬作戦にも参加したという。
マカオンの父アスクレピオスは、死者すら蘇らせたと言われる医聖で、人でありながら後に神々の座に上った。
現在も蛇使い座として天に宮居している。
WHO世界保健機関のマークは、アスクレピオスの愛用した「蛇の巻き付いた杖」をモチーフとしている。
日本産亜種名のヒポクラテスは言わずもがなの医聖として、現在でも「ヒポクラテスの誓詞」が、医科大学の卒業式で宣誓されている。
有名な言葉、「学術は長く、人生は短し」はヒポクラテスである。
ローマ字を習った小学四年の頃、戦前発行の大日本帝国蝶類図譜にこのヒポクラテスの言葉の全文がラテン語で載っていて、そのフリガナを一生懸命覚え諳じることもできた。
家の掛かり付け医の小俣先生にこれを聞いていただいた時、先生もご存知で二人で唱和した。私は得意満面だったことだろう。
子供というのは善いものですね。
「アルスロンガ ウィータ ブレヴィス,オッカースィオー プラエケプス,
エクスペリメントゥム ペリクロースム,ユーディキウム ディッフィキレ,」
"Arslonga vita brevis, occasio praeceps,
experimentum periculosum, judicium difficile"
学術は長く 人生は短し、時機は速く、 経験は危うく、判断は難し。
小学生の時に帰って一生懸命引き写しました。
「この二つ折りのラブレターは花の所番地を探している。」
ルナール 博物誌 「蝶」
キアゲハの飛翔
今日の話は昨日の続き今日の続きはまた明日
白鳥碧のホームページ
ミルクケア