アンチヒーロー最終回の終盤、検察官役の木村佳乃が「無辜の不処罰(むこの不処罰)」と言い、「たとえ10人の真犯人を逃したとしても、1人の無実の人を処罰しては絶対にならない」と説明する場面があった。無辜の不処罰は、先進各国に共通する刑事裁判の原則である。この反対の考え方を必罰主義と言う。戦前の日本は必罰主義を採用し、冤罪など気にせず処罰していた。敗戦によりGHQの命令で真っ先に変えられたのが、必罰主義を採用していた旧刑事訴訟法、家長権を認めていた民法の家族法の部分である。さらに根本規範としての日本国憲法が制定・施行されることになる。
新刑事訴訟法は無辜の不処罰を原則としていたが、現実の運用は戦前とさほど変わらなかった。戦後80年となろうかという現在でさえも、警察・検察・裁判所の考え方は変わらない。具体的には、20日間も勾留を認める先進国は他にない。ほとんどの先進国は、警察・検察が収集した資料は、弁護側に全面的に開示される(検察側手持ち証拠全部開示と言う)。また、検察側敗訴の場合、検察に控訴・上告を認めない先進国も多い。記者クラブなどという権力機関の広報活動をするような組織もない。日本はいまだ必罰主義であり、いまだ戦前と同じであると、少なくとも刑事裁判については言える。
ピンと来ない人は幸せである。自分の大切な人が、やってもいない強盗殺人や放火殺人の罪を着せられてみれば、嫌でもわかる。