急死した兄は 10年以上前からパーキンソン病でした.ただ 投薬とはうまくバランスしていたらしく,多少の運動障害はあるものの 自立した日常生活を送れる程度でした.

しかし,パーキンソン病では,脳中枢に支配される運動神経だけでなく,脳中枢とは独立している自律神経にも障害が発生します. 心臓の運動は 脳中枢とはまったく自律している(したがって 脳死状態でも 心臓は動いています)のですが,パーキンソン病の突然死 は,心臓自律神経系に障害が生じて発生するのではないかという説も出されています.

 


Scorza 2021

 

そしてもう一つ,パーキンソン病では 睡眠障害,とりわけ REM睡眠行動障害とよばれる障害に悩まされる患者も多いのです.

 

Marafioti 2023

 

REM睡眠行動障害とは,睡眠中にもかかわらず脳の一部が覚醒してしまう現象です.この時 本人は 非現実的なあるいは恐ろしい夢を見ることがあり,現実との区別がつかず,その夢に合わせて大声を出したり急に暴れたりしてしまうことがあります[Dream Enactment Behavior = 夢実現行動].

この文献には 気になる記載がありました.

 

Idiopathic RBD is a potential prodromal marker of neurodegenerative synucleinopathies.

 

特発性REM睡眠行動障害は,神経変性シヌクレイン病の予兆マーカーとなる可能性がある.
 

シヌクレインとは,正常な脳内に存在する蛋白質ですが,これが線維状に蓄積することがパーキンソン病を誘発しているのではないかと言われています.
つまり突然 悪夢を見ることが多くなったら,それはパーキンソン病発症の前兆かもしれないのです.

こんなことを書いたのは,実家で兄の残したメモや日記を整理していたら,『昨晩 常識外のおそろしい夢をみた』という記載をいくつもみつけたからです. そしてそのメモは,兄がパーキンソン病と診断されるよりも はるか数年前のことでした.当時はまったく元気だったのに,この悪夢を見た頃から数年して,手の震え(=振戦)が発生して,パーキンソン病と診断されました.

悪夢はパーキンソン病の前兆かもしれません.