年末は帰省しておりましたが,学生時代の友達と話していた時,『仮説』という言葉(概念)を説明するのに えらく手間取りました.
文科系では『仮説の検証』という言葉はあまり使わないのでしょうか. 最近は経済学でも数理モデルなどがあって,これこそ仮説の最たるものです.一日中プログラムを書いて コンピュータをバリバリ回していたりするのは珍しくないので説明不要かと思っていたのですが.

私の感覚では,『学説』には『定説』と呼ばれる 大多数の人が支持するものと,『仮説』という 少数の人が提案するものとがあるという認識でした.しかし どちらであれ,学説は学説であり,『説』なのだから確固としたものではない,長年の定説だって簡単にひっくり返されるのだからね,と言う考えです.

一方 相手の方は『学説』とは,学者が言ってるんだからすべて正しいことなのだろう,という認識でした.

これほど定義が違っているので,二人で 話していると どうも話がかみ合わず,お互いに『ん?』となったのでした.

それはさておき,新幹線の車中で 面白そうな『仮説』の本を何冊か読みました.

熱流説

その一つがこれです.

角田史雄 「地震の癖 いつ、どこで起こって、どこを通るのか?」
講談社+α新書

角田史雄(つのだ ふみお)元 埼玉大学教授が2009年に唱えた説です.

現在の地震学の主流学説では,地震とはプレートの移動による軋轢で発生する圧力が原動力となっているとされています. たしかに 東日本大地震のような海溝型地震ではそうです.

海溝型地震(C) 大津市

そして このプレートの沈み込みによって 高温・高圧となった地殻の一部が溶けてマグマとなり火山が生成されるとしています.

地震 火山 マグマ (C) KG-net

実際 世界の地震多発地帯と火山帯は 【ほぼ】一致していて,それはプレートとプレートの境界にあります.

 


世界の主なプレートと地震の分布 (C)気象庁

ところが この説ではどうしても説明できない地震がありました.それが2008年5月の中国/四川省地震です.


2018_05_13 四川省地震

中国奥地は,どのプレート境界からも遠く離れているのに,巨大地震が頻発するのです.
それは『プレート同士が衝突して その内部に歪が蓄積されているからだ』[PDF]と説明されているのですが,なぜ中国奥地のプレート内部だけに歪が発生するのかは説明できません.
プレートが衝突すれば必ず歪がプレート内部に蓄積するのであれば,世界中 どこでも内陸地震が発生するはずだからです.

角田教授が着目したのは地球のもっと奥深く マントルから上昇する高熱が地殻の膨張歪を発生させ,これが地震を起こす,つまり『もう一つの地震発生機構』です.

角田史雄 「地震の癖 いつ、どこで起こって、どこを通るのか?」 図1 口絵
(C) 講談社

上図の通り 角田説によれば 南太平洋のタヒチ付近 及びインド洋の東アフリカ付近では地下3000kmからマントルの高温が地上近くにまで到達しており,

「地下でマグマの高温化が発生」
   ↓
「岩石が溶けて温度と液体圧とが上昇」
   ↓
「体積膨張が発生」
   ↓
「弾性変形・破壊」
   ↓
「地震が発生」

というメカニズム(同書;p.33)です.

角田教授がこの説を提唱した頃,この説はトンデモ扱いされていました.

しかし,この説ならば 大陸のど真ん中で巨大地震が起こるメカニズムを説明できます.

 

さらに,上記著書にはこんな図があります.

角田史雄「地震の癖 いつ、どこで起こって、どこを通るのか?」図7(p.37)
(C) 講談社


本文では言及されていませんが,能登半島も 熱流により地震が起こり得る地域としてマークしていたのです.

現在では この説も主流学説となり,「プレートテクトニクス説」と並んで 「プルームテクトニクス説」として並列に扱われています.

 

神奈川県立 生命の星・地球博物館『地球のからくり』


仮説が定説になった一例ですね.