今年の旅行の締めくくりは,奈良の第75回 正倉院展でした.

 

(C) 奈良国立博物館

 

毎度のことですが,『これ,復元品じゃないのか?』と思えるほどに美しい工芸品には目を奪われます.
 

地味な展示ですが

しかし,年々 興味が深まってきたのは,華やかな工芸品の脇で 地味に展示されている『正倉院 古文書』です.

これらも 正倉院 展示物と同時代のものですが,ただ文字が書かれているだけですから,ほとんどの人は展示棚の前を通り過ぎていきます.
ですが,この古文書は,ほとんどが楷書で書かれているので,『素人でも読める唯一の古文書』です.これより後の時代,即ち 平安時代~江戸時代になると 草書体・くずし字になるので,よほど勉強しないと全く読み取れませんから.

今回は [駿河国正税帳]の一部が展示されていました.

 

 

律令時代の駿河国(現 静岡県中部)に賦課する税の徴税台帳です.税といっても,当時は現物納税ですから,米,酒,味噌(醤),酢などの納税量が事細かく算出されています.

 

このような正税帳 あるいは戸籍などを毎回見ていて不思議になることがあります.当時の公文書は どれを見ても 常に一定の書体で書かれており,おそらく記帳者はそれぞれ別人なのに,どの文書を見ても ほぼ筆跡が同じなのです(だから 素人でもスラスラ読めるのです).

 

たとえば,駿河国,隠岐国,越前国,これら三国の正税帳から,数字だけを抜き出して比べると;

 

多少の上手/下手はあっても,一定の書体に揃えようとしていることがわかります.

ということは,当時の律令官庁においては,公文書を作成する役人には 一定の書体で書けるよう訓練していたことがうかがわれます.

 

当時 どんな文書でもこんなに几帳面に書いていたわけではありません. たとえば当時の写経所で,筆記用具を治めた箱にはこういう収納リストが貼られていたようです.

 

写経所 書写用具目録

 

普段はこういう走り書きだったのですね. ところどころ書き損じなどもあり,ほほえましいです.

 

逆に 公文書よりももっと大事な永久保存文書=お経は,さらに丁寧に書かれていました.

 

華厳経

 

文字を見るだけで,なんとなく当時の人々の生活まで浮かび上がってきます.

正倉院展は 本当に価値のあるものですね.