医学エビデンスには,その信頼性により階層レベルがあるという話です.
ケースコントロール研究や観察研究がレベル4に位置付けられている理由は,レベル6がたとえ専門家であっても 一個人の意見であること,そして前回記事の『[レベル5] 症例報告』が,事実ではあるものの ほとんど単発の事象であるのに対して,以下の点で信頼性が高いからです.その二つとは;
- 多数の症例であること
- 統計的に有意であるかどうかを検証していること
です.
『多数の実例』とは 少なくとも数十人,時に100万人を超える膨大な患者数から集めたデータを用います.
そして,それらのデータを分析して,『統計的にたしかに差があった』と言えるものだけを抜き出しています.
ケースコントロール研究とは,ある病気にかかっている人と,かかっていない人とを集めて,両者の違いは何なのかを過去に遡って 影響した因子を探し出す研究です.
たとえば肺がん患者と 肺がんにかかっていない人を多数集めて,過去/現在の喫煙履歴との関係を調べるという例がわかりやすいです.あるいは これとは反対の方向,つまり現在は特定の病気にかかっていないが,その後長期間にわたって追跡するというものもあります(前向き研究),
また『観察研究』とは,観察という単語の通りで,原則として対象に対して手も口も出さない(=『介入』しない),すなわち医師による治療や指導などは行わず,ただ定期的に検査データだけを集めていきます.
その結果として,たとえば『喫煙履歴のある人と,そうでない人 それぞれ3,000人を15年間観察したところ,肺がん罹患率は喫煙者で有意に高かった』などどいう結論が出されます. この観察研究は,素人にも理解しやすい手法なので,新聞などでもよく取り上げられます.
この観察研究では 食事の内容や食習慣も対象にすることがあります.
『米をよく食べている人はそうでない人に比べて健康であることがわかった』などといういう例ですね.
この方法の欠点は(そして利点は)分析に含める項目,含めない項目によって いかようにも結論を出せることです.つまりバイアス(=偏向)を排除できません.
たとえば,人口あたりのガン発生率と,地域によって食習慣の違いとを並べて『たこ焼きを食べる大阪人は ガンにかかりにくいことがわかった.えらいこっちゃぁ(ウソです)』などという例ですね.
そしてもっとも問題なのは,
因果関係の逆転
を結論にしてしまうことがある,という点です.架空の例ですが;
- 人口あたりのガン患者 新規発生数(件/10万人)
- 人口あたりのガン専門医数(人/10万人)
を調べたら,ガン専門医の多い地域では ガンの発症率が高いことがわかった. よって
ガン専門医を減らせば,癌患者の増加は防止できるはずだ
などというもの. こんな話をしたら 誰でも『いや,それ逆でしょう』とわかるのですが,世の中にはこのトリックを使った例をよく見かけるのです.