時々新聞に,こういう見出しが躍ることがあります.

そんな 驚異の新薬が出たのなら 医学専門誌や学会でも大騒ぎになるはずだが,と思って 報告された臨床試験の報文を探してみると
 

有意差がみられた

たしかに

 

新薬Xは,従来薬Aに比べて 有意に血糖値低下効果が大きかった

とありました.
ただ,そのデータを見ると,ものすごい効果というわけではないのです.

 

 

100人で調べて

仮に その新薬Xと従来薬Aとを,それぞれ100人に服用してもらい,血糖値の低下に差があるかどうかを調べたとします.
その結果は こうでした

この場合は『有意差なし』です.

たしかに 新薬Xの方が 『効果あり』の数が,従来薬Aを上回っていますが,その差はわずかです.
しかし,問題はその差ではなくて,データのバラツキ(=棒グラフの上下に伸びるヒゲ)を考慮すると,両者はかなり重なっているので,本当に差があるとは断定できません. これが『有意差なし』です.

 

 

 

 

1万人で調べたら

しかし,同じ試験を 新薬X,従来薬A,それぞれ1万人で調べたらこうでした.


この場合は『有意差あり』です. なぜなら両者のデータのバラツキ範囲は重なっていないからです.したがって,この大規模試験により『新薬Xは,従来薬Aよりも効能が高いと証明された』と報道するのは 間違いではありません.

ところが,これら二つのグラフを見比べてください. 新薬Xがよく効くとはいっても,それは従来薬Aに比べて わずかな差なのです.それは100人でも1万人でも同じでした.
 

つまり『有意差がみられた』とは文字通り『それとわかるほどの差があった』(より正確には「差がない」とは言えなかった=【帰無仮説の棄却】)というだけであり,それ以上の意味はないのです.
 
『効能に有意差があった』=『効能にものすごい差があった』ではありません.


もちろん,すべての新薬がこうだというわけではありませんので,念のため.