一昨日、昨日のブログからの続きです。長くなりましたし、今日も長くなりますが、一応終了としたいと思います。

昨年、2023年の米の収穫量、作況指数を見る限り、現在の「米不足」の理由が私には理解できませんでした。確かに、七つの県(秋田県、新潟県、富山県、福井県、愛知県、滋賀県、鳥取県)では「やや不良」なので、特定の地域、銘柄が不足しているのはわかります。しかし、「米不足」と騒ぐほどではないと数字を見て思います。全体としては不足していないが、一部の銘柄で不足気味のものがあるというレベルだと感じます。


そこで、「米穀新聞」記者・熊野孝文氏が2024年6月5日の「農業協同組合新聞」の記事を見つけました。

米価格の急騰がもたらす後遺症 市場の縮小と水田農業の衰退

この記事によると、

「コメのスポット価格は天井知らずの値上がり」
「秋田あきたこまちや新潟コシヒカリと言った全国銘柄に限らず」
「一般的な産地銘柄も2万5000円を超えるような価格で取引されるものも」

あるということです。この「一種異常とも思える市中価格の高騰」について、メディアでは、

「5年産の不作」

「インバウンド需要の盛り上がり」

「2つを大きな原因として取り上げて報じるところが多い」

と説明しています。ところが、

「5年産は高温障害で等級比率が低下して商品化率が落ちたという面がある」

「不作という表現は当たらない」
なぜなら
「農水省の発表では5年産の作況指数は101の平年並み」

であったと判断している。
そして需要の増加については、

「インバウンド需要は旺盛である」

「農水省は需給見通しを策定する際「織り込み済み」」

「需要量にカウントしてある」
ので
「価格の高騰はスポット的な取引価格」

「取引の多くを占める相対価格はコロナ前の水準より低い」
ということで
「問題なし」

という結論、とのことです。

 

 

確かに、この記事の「米の民間在庫量とスポット価格の推移」のグラフを見ると、毎月の在庫量が昨年より約50万トンずつ少ないですが極端に少ないとは見えません。在庫はあることがわかります。そして売り場に米がないのであれば、供給せずどこかの倉庫にあるということです。それよりも、昨年9月、新米が出回る時期からスポット価格が前年より2,000円以上高いということが気になりました。すでに、業界では今の各上昇の現象が出ていたことになります。

農林水産省は「問題なし」と言っているが、熊野氏は

「スポット価格は、人間に喩えるなら体温計のようなもの」

「今の状況は40度近い高熱」

「かなり危うい状態」
ということで
「ここで仮需が発生するようになればまさにパニックになりかねない」

ということです。つまり、

「昨年の高温障害のための不作とインバウンド需要の増大がある」

「全国的には不作ではない」

「インバウンド需要も想定内」
であり
「スポット価格は高騰している」

「取引の多くの相対価格は安定」
と農林水産省は判断している。その通りなのだが
「スポット価格が高騰しているのは事実」
であり
「パニックになると問題」

になるということです。
要は「米不足ではないが、スポット価格が高騰しているのは問題」ということです。そして今は「パニック」に近いという感じでしょうか。

では、なぜこのような状況になったのでしょうか。これを熊野氏は、

「極めてタイトな状況を招いている真の原因の本質」

「歪んでいるともいえる人為的なコメ政策」

だと指摘しています。
その「人為的なコメ政策」とは、

「コメの価格を上げるために供給面の対策(入り口対策)」
として
「巨額の税金をつぎ込んで主食用米減らし」
 ・「5年産では72万tものコメを餌用に振り向け」
 ・「政府備蓄米として20万tを買い上げた」
「いつの間にか過剰米対策(出口対策)」
 ・「本来なら今年10月までに出回るべき5年産が11月以降に持ち越される」
の対応をしたため
「需給ひっ迫に拍車をかけ」
「目論見通り以上にコメの価格が上がった」

というです。「入り口対策」、「出口対策」という米供給の用語が紛らわしいです。
私なりに理解したところでは、

「コメの価格を上げるために」
・「72万トンを餌用」に使用
・「20万トンを政府備蓄米」に確保
・「過剰米対策のため10月までの米を11月以降」の供給分に持ち越した
というような
「人為的なコメ政策」
をしたため
「目論見通り以上にコメの価格が上がった」(パニックに近い?)

ということです。

いわゆる「官僚の政策ミスでスポット価格が目論見以上上昇した」ということです。
なるほど「政策ミス」ですか。昨日の米の収穫量、作況指数を見ていると今騒がれているほどの「米不足」が理解できなかったですが、これで理由がつきます。「米の価格を上げたい」農林水産省が供給量を減らしたので市場の価格が上がったということですね。

その上で、「もう少し待てば値上がりする」と考えた供給業者が売り控えればスポット価格は上昇します。熊野氏がこの原因を知っているということは供給業者が知らないはずはありません。少しだけ待てば利益が大きくなるのですから。現在でも利益が出ている状況なので、待つことで価格が下がっても原価割れすることはないと判断しているはずです。グラフでは、前年同月の価格より2,000円以上なのですから。こうやってスポット価格が高騰したのでしょう。

飼料用米は主食用の米と別品種だと聞いているので「72万トンを餌用」の政策は仕方ないとしても、他の二つは問題がありますね。
そして、価格を抑える目的であれば備蓄米の供給もあり得ます。スポット価格の高騰で、


「加工食品業界の原料米不足による苦境」
「外食企業や中食企業」が「影響が大きい」

のです。十分にあり得る話です。為替相場の例で言うと、政府、日銀による為替介入です。為替と違って市場が圧倒的に小さいので十分効果が期待できると思いますが。

「コメの価格を上げるため」

というのでしょう。しかし、今の価格高騰の恩恵は、生産者、農家にはいかないのです。なぜなら、昨年生産した時点の価格ですでに業者に納品しているためです。
しかし、将来の米生産の継続、就農への意欲のためとおっしゃるのかもしれません。しかし、その将来に外食産業、中食産業、加工食品業界の企業がなくなっていると意味がないのではないですか。買ってくれる人がいなければ、作った米は売れないのです。売れ残るわけです。米生産の継続などできません。このように政策とは難しいもの、その時々に臨機応変が求められるのです。

そして「価格操作」は難しいです。そのいい例が、政策金利での中央銀行の景気対策です。FOMC、日銀、ECBなどが金利政策を実施しますが、株価、為替は乱高下します。何度も景気後退させたり、「何々」ショックを起こしたりと失敗を繰り返しています。長いことこのような「操作」を行っている中央銀行でも「失敗」するのです。
先物商品市場があるので少しは経験があるのかもしれません。しかし所詮は「官僚」です。「前例踏襲」なのでしょう。今回問題が指摘された政策は、まさにその前例だと考えられます。
市場を操作するには「ギャンブラーの才能」が必要です。しかし、「ギャンブラー」ですから負けることがあります。つまり、成功もしますが、失敗もするということです。今回のようなことを農林水産省が行えば、失敗した時は消費者が、ひいては米農家が苦しむだけです。結局は「弱いもの」が苦しむのです。

熊野氏は、今回の「コメの価格を上げるため」の政策のため、

「コメ不足パニックの後に」、「大幅なコメ需要の減少」

が残った。そして、現在のコメ政策を続ければ、

「大幅な価格の上昇」->「生産量は増加」->「価格が下落」->「市場が縮小」

の「負のスパイラル」を繰り返すだけだと指摘しています。この指摘は的を得ていると私は考えます。
「コメの価格を上げるため」だけにこだわっている印象を受けます。まさか、岸田首相がよく言っている「物価上昇を上回る賃上げ」の一環ではないですよね。行き過ぎた操作、手に負えなくなった操作はマイナス効果しか出ません。今の状況では、物価をより上昇させますし、今年度の農家の収入には寄与するかもしれませんが、熊野氏の指摘のように「負のスパイラル」の可能性の方が高いです。所詮「官僚」ですかね。責任を取ることは決してありませんから。

一つだけ言えることは、米にも品種があるということです。主食用、加工用、飼料用とそれぞれに品種があります。品種が違います。また、地域によっても品種があります。日本酒用では「山田錦」が有名ですね。この品種によって味、価格が変わるということです。これは、一度植えてしまうと1年後にしか変更が効かないということです。リードタイムが1年ということです。リードタイムが長いということを考慮することが必要です。そして、米は日本人にとって主食だということです。現状は必須だということです。
これを考えて政策を考えてほしいものです。