PAD&POTAとはパドリングとポタリングのこと。片道をカヤックで漕いで、残り片道を自転車で戻る旅のこと。これで四国を一周しようという今回の企画。成功すれば海と陸の両方での四国一周を成し遂げることができる。
今回は2度目の佐田岬突端を回る旅。前回はロケハン的要素が強く距離も短かったけれど、今回は佐田岬を一気に漕破しようという考え。
前日9月16日仕事が終わって17:00に診療所を出発、3時間かけて伊方漁港まで移動。

今夜はここで車中泊。1件ある居酒屋で一杯やってから寝ようかと思っていたら、その日は休みだった。仕方なくコンビニでビールとつまみを買って漁港ベンチでまったりしてから眠りにつく。明日は夜明けとともに出艇だ。
1日目


9月17日4時半起床。準備をして5時30分、出艇。

ここから佐田岬を右回りに南側から北側へと回って1泊2日で1周する予定にしている。
佐田岬は日本一長い半島。予定では1日目に潮に乗って東から西へ漕ぎ、最西端の佐田岬灯台を回って半島の北側をこれも潮に乗って少し漕いだところでキャンプ。2日目に半島の北側を東に漕いで佐田岬を一気にクリアしようと計画している。佐田岬半島は南側が上げ潮で西向き、北側で東向きに流れる。だから、南側から上げ潮に乗ってそのまま北へ回れば潮に乗ったまま漕ぎ進めることができるはず。ただこの半島、長さが40㎞ほどある。僕の通常の平均時速は休憩も込みで5.5kmくらい。流れが変わるのが6時間毎とすれば、5.5km/時x6時間=33km進んだところで流れが変わってしまう計算になる。これでは岬は回れない。岬を回るためには40km÷6時間≒6.7km/時で進まないといけない。もちろん休憩時間込みで。そのために潮に乗って進み続ける計画だった。実際潮に乗ってGPSを見ても6kmと7kmを行き来するスピードだったので悪くはないが、さてこのペースで6時間漕ぎ続けることができるのか?
案の定、前日の車中泊、そして夜明け前に起床して日が昇る前から漕ぎ始めたつけが9時くらいに回ってきた。眠気だ。眠くてうとうとしながら漕ぐ。気を抜いて沈してしまったら(転覆してしまったら)、それこそ大変だ。漕いではウトウト、休憩して気分を替えながらなんとか進む。30分ほどして何とか意識がはっきりしてきたけれど、このアドバンテージは必ず後に響いてくると感じながらとにかく進む。なんだこりゃ、楽しみというより修行だなぁと思う。大変さとはうらはらに好天気に恵まれて漕ぎ進めることができた(眠気さえなければね)。


12時ころ佐田岬最西端へやっと到着。計画では10:30~11:00くらいの潮止まりで岬を回らないといけなかったので、1時間はおくれてしまっている。不安な気持ちのまま最西端を回って岬の先をうかがう。少し北側で波だった白い帯が海面に見えている。流れはまだ南から北へと向いているので、「行けるか」と近づいていく。あの白い帯を超えると未知の世界。そのまま流れが北へ向いていれば半島の北側に回り込めるかもしれないと思いながら突入!これが判断ミスだった。その先の世界は…下から不意に潮が湧き上がってくる。湧いては消え、また別のところで湧き上がってくる…。ちょうどお風呂で洗面器を裏返して水面に沈め、中にためた空気を一気に開放して気泡が水を湧き上げる様な感じだ。それに加えて後ろから波が迫ってくる。追い波は危険だ。何とか脱出しようと追い波に角度がつかないよう90°を保って必死で漕ぐ。陸からは離れる方向にはなるが、とにかくここから離れないといけない。漕いでいる抵抗感は腕に伝わってくる。どれくらい離れただろうか。陸の景色に目をやる。なんと、まったく進んでいない。ややもすれば、後退してしまう。逆潮だ!。それもかなりの。やっぱり、転流後の半島の北側は向かい潮になっていた。甘かった。自分の判断の甘さに今更ながらに後悔するが、今ここでそんなことを言っている場合ではない。何とか生き残って陸に上がらなければ…。そんな思いで必死に漕ぎ続ける。15分ほど格闘してみたが一向に陸との景色は変わらない。目いっぱい漕いでも一つも前進できていなかった。このままではいずれ疲れてしまう。その前に別案でなんとか回避しなければと思い。岬の南側へ戻ることとした。すぐに反転するとその際に横波を食らって転覆する危険がある。ゆっくり大きな弧を描くように進路を変え岬の南側へと戻った。とりあえず、生還できたことに安心したらおなかもすいてきて昼食を摂った。


トラックを後から見てみるといかに逆潮でもまれていたかが分かる。赤い部分が必死になって漕いでいるのに左方向(西向き)に押されていたのが結果として出ていた。
おにぎり2つだけでなくバナナを1本。実に粗末だけれど、体力回復のためにおなかに放り込んだ。時刻は12時半、ここから転流時刻の4次半くらいまで潮待ちすることにした。けっこう、風もきつくなってきた。潮の不安もあるが、風も大敵だ。そんなことを考えながらいつしか眠ってしまっていた。少し睡眠をとって海岸をうろうろしていると、佐田岬灯台へ向かう観光客から声をかけられた。普通の人たちにとって、カヤックはあまり見るものではないので「どこから来た?」「どこへ行くの?」「すごいなぁ」と感想をいろいろ話されて去っていく。僕がさっきまで命の危険を感じながら漕いでいたことなんて微塵も感じていないんだろうな。そうこうしているうちに時刻は4時。少し早いが、海の状況を確認したかったので早めに出艇した。まだまだ風は結構あって不安はあったが灯台を回ってみると、つい4時間ほど前とはうって変わって波は落ち着いていた。改めて自分の読みや計画の甘さに猛省した。岬を回る時間が遅くなったため前回出艇したことのある長浜漁港でキャンプとも考えたが、釣り人も結構いたので、その隣の正野漁港でキャンプをはることにした。

そこは、人里からは閉ざされていて、おそらく潮待ちや風待ちに避難するための小さな港だと思われる。そのため誰も来ることはない。夕日が見たいと思っていたけれど、少し前に雲がかかって思いはかなわなかった。その日は新月、真っ暗闇の中明日も夜明けとともに出艇予定なので夕食を済ませた後そうそうに眠りについた。
2日目
まだ明けきらぬ暗いうちからテントを片付け出艇準備。6:00出艇。風は少しあるけれど、潮は追い潮のためスピードは9~10km/時出ている。今日も予定は34kmほどと結構な距離を残している。この調子なら転流までに到着できるかもしれないなどと考えながら漕ぎ進める。だが、今日も誤算は待っていた。風が次第に強くなっていく。途中トイレに行きたくなったので陸に向けて舵を切って漕いでいると先ほど通り過ぎた漁船がUターンして戻ってきた。「だいじょうぶ?」漁師さんが風の強い中漕いでいる僕を心配して戻ってきてくれたのだ。「どこまでいくの?」「伊方越です。」と答えると、「陸に沿って行ったら風を避けられるよ」と教えてくれた。トイレを済ませて岸で少し考える。昨日のこともあるし、漁師さんが心配するくらいだから無理はしないでおこうという結論に達して、ここで旅を終えることにした。一番近い漁港は明神漁港、タクシーを到着時間に合わせて呼ぶべく電話してから出発した。途中、別の漁船とすれ違い挨拶を交わす。


8:30頃明神漁港に到着する。今日はわずか14km、2時間半ほど漕いだだけだ。もう少し行けたんじゃないか?という気持ちもあったが、無理は禁物と思い直した。Kayakを片付けていると先ほど挨拶を交わした漁師さんが返ってきた。「なにが釣れました?」と聞かれ、「いや、釣りに来たんじゃないんです。この半島を1周しようと漕いでいるんです。」と答えて昨日からのいきさつを話すと、「今日は大潮だからなぁ」と言っていた。やはり、漁師さん的にもこの状況でKayakを漕ぎ進めるのはよくないと思っているようだ。漁師さんと話をしていたときにちょうどタクシーがやってきた。ここから車を置いている伊方役場まで結構な距離になるが仕方ない。タクシーの運転手さんは話好きなのかずっと家族や土地のことを話していた。おかげで車での移動も飽きることなく終えることができた。
ただ、頭の中は残った部分をどう計画して漕ごうかな?ということばかりだったが…。
こうして、この日も放し飼いの犬は夕方までには帰ったのだった。
