| 塾で講師をしていたころ、中学3年生で夏期講習から○○君は |
| 塾に入ってきた。 |
| 志望校は地元の偏差値が67ぐらいの進学校、○○君の7月の |
| 模試の結果が64ぐらいだったから十分射程範囲の高校だった。 |
| 「英語と数学はいい成績だよね、社会が不得意なのかな、私立 |
| 高校の高いところを狙う手もあると思うよ」 |
| 「私立高校は受けないです」 |
| 「公立高校1本ってこと?」 |
| 「そうです。うち母親しかいないんですよ、妹も中1だし、 |
| 母親にあまり迷惑かけたくないんで」 |
| 「そうなんだ」 |
| こんな状況でも頑張ってる子もいるんだよね。 |
| 「塾も夏休みだけです。2学期からは自力で頑張るしかないんで」 |
| なんか心配だなあ、この夏休みで大分実力アップしたのに。 |
| 「この塾をやめても自習室を自由に使えるコースがあるんだよね。 |
| そこに入れば、ここでゆっくり勉強できるし、質問にも答えて |
| あげられるよ、科目は問わないから」 |
| 「いくらかかるんですか」 |
| 「月に3000円かな」 |
| 「ちょっと高いですね、どうせ母親が夜勤の時は夕飯の用意も |
| しなきゃいけないんで、週2ぐらいしか来れないです」 |
| 「わかった、ちょっと塾長に掛け合ってくるね」 |
| 塾長は案の定渋い顔をしていたけど、なんとかなった。 |
| 「週に2日だったら、月に1000円でいいって、そのかわり高校 |
| 合格したら、名前張り出すよだって」 |
| 「わかりました、ありがとうございます。来週からも自習に来ますね」 |
| まあ、塾長の計算に乗っかった気もするけど悪い話じゃないよ。 |
| 翌週から必ず週2回、彼は自習室にやってきた。 |
| できるだけ合間を見て、学習計画を立てたり進行状況をチェックしたり、質問に答えてあげるようにした。 |
| 年が変わって、志望校を最終決定しなくてはいけない時期になった。 |
| 「どうしても第一志望の高校へ行きたいんです」 |
| 「でも、担任の先生が中学浪人にはなれないから、一段下げるか |
| 私立のすべり止めも受けろって」 |
| 「じゃあ、ダメだったら2次募集で必ず行きますって約束したら」 |
| 彼の成績なら8割以上合格できると私は思ってた。 |
| 担任との話し合いの結果、 |
| なんとか第一志望の高校を受けられることになったらしい。 |
| そして、合格発表の日。 |
| 夕方、わざわざ結果を報告に彼は来てくれた。 |
| 「先生、受かりました」 |
| やっぱり凄くうれしかったねえ、 |
| これがあるから塾の講師って頑張れるんだよね。 |
| サビ残が多くても。 |